大手アパレルのZOZO撤退が続いている。その背景にある不満とは......。
REUTERS/Kim Kyung-Hoon
いま、「ZOZO離れ」が加速している。
小雪が散らつく2月の3連休の夜、原稿執筆の合間に訪れた都内の和食居酒屋で、若いカップルとその家族の会話が聞くともなしに入ってきた。
母:「最近、アプリをダウンロードして通販しているの。ZOZOってすごい割引しているのね」
息子:「オンワードとかジーンズのライトオンが撤退したみたいだね」
娘:「うちみたいな弱小アパレルは、ZOZOに出なければ生き残れないから出ているけど、ぜんぜん儲からない。だけどやめられないのよね……」
あまりにもタイムリー過ぎて苦笑しつつ、ZOZOがこれだけ大衆に関心を持たれていることや、アパレル企業にとって深刻な問題であることをあらためて感じさせられた。
重要クライアントが去るダメージ
以前から関係の深かったユナイテッドアローズの決断はZOZOにとって大きな痛手と思われる。
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顧みると、最初の「ZOZO離れ」の第1波は、大手セレクトショップのユナイテッドアローズの決断だ。創設間もない時期からZOZOTOWNへ出店し、ZOZOTOWNのブランドイメージ向上やブランド獲得などに寄与。一方で、自社ECの開発・運営もZOZOやZOZO子会社のアラタナに委託するなど、つながりが深かった。
これからも若年層の取り込みを含めた顧客接点の確保という意味でZOZOTOWNへの出店は続ける。だが、ZOZOのアパレル企業へのEC運営支援事業の売上高約100億円(2019年3月期予想)に対して、その6割近くを占める最大クライアントだったユナイテッドアローズが、抜ける決断を下したダメージは小さくはない。
「ZOZO離れ」の第2波は、サブスクリプション型の割引サービス「ZOZOアリガトウ」を2018年12月25日にスタートしたことに端を発している。大手アパレルのオンワードが販売中止を決めたとの日経系ニュースを経済紙が後追いし、さらに、ZOZO撤退についてあけすけに語る子ども服大手・ミキハウス社長のインタビューを「週刊新潮」が掲載してからの報道が加熱した。
これに対して、ZOZOの前澤友作社長は1月末の決算説明会の席で、「嫌気がして販売ストップされた」のは全1125ショップ中、42ショップで、ショップ比率で3.3%、取扱高ベースで1.1%、オンワードは同0.5%と明かしたが、続けて
「業績に与える影響は軽微だ」「騒動は収束に向かっている」「ただし、割引が派手に見えるので、システムを改良し、割引価格表示をしない選択ができるようにする」
といった説明をした。
蓄積されてきた業界の不満
「ZOZO離れ」による影響は軽微だとする前澤社長。写真は2018年10月、月周回旅行についての会見。
撮影:今村拓馬
実はこの「ZOZO離れ」は、アパレルのZOZOに対する不満が爆発したものでもある。
収束を見せるどころか、第3波として、ジーンズ専門店のライトオンが2月5日に、同月20日をメドにZOZOから撤退することを決めたことにもその不満が透けて見える。
ライトオンは、「出店料は高いものの、その強大な顧客流入網、商品へのレビュー、さらにはデザイン性、担当の方が一緒になってデータを分析したり、より魅力的に見える画像を工夫したりしてくれる点、物流などにも共感し、ZOZOTOWNをパートナーとしてEC事業拡大の中核に位置付けて出店した」という。
しかし、直前に役員とミーティングをしていたにもかかわらず、事前の連絡も相談もほとんどない状態で担当者へのメール1本で始まった「ZOZOアリガトウ」のスタートには、共感できないどころか、信頼関係に疑義を抱かせることになった 。
「大切なブランドを任せることはできない」
当初、ZOZOTOWN出店をEC事業拡大の中核に位置づけたライトオンだったが……。
出典:Right-onオンラインショップから編集部がキャプチャ
また、撤退や休止には至っていないものの、大手や中堅のセレクトショップの中には、客数の多いZOZOTOWNをアウトレット的な存在として活用することを決めて、新規投入アイテムや話題のコラボ商品などは自社ECで販売するという使い分けを明確化しているところも出てきている。
セレクトショップやアパレル、大手カジュアル専門店の幹部などから「他社状況を教えてほしい」という連絡があるなど、様子見をしている企業も多いため、「収束」とは言いかねる状況だ。
当該の「ZOZOアリガトウ」サービスでは、既存会員は加入後10%の割引、または寄付、新規加入であれば初月度は30%の割引となる。確かに、新規会員獲得コストとしては効率が良いだろう。だが、いかにも
「ZOZOが割引を負担するからブランド側は文句ないだろう!?」「百貨店だって商業施設だって自社の店舗やECでだってやっていることだろう?」
と言わんばかりの高飛車な姿勢が反感を買うことにもなっている。
しかも、会計後に優待割引して見せるのではなく、画面上でいかにもディスカウント販売をしているような「派手な割引表示」になってしまっている。安売りをせず、ブランドのイメージを維持し、店舗でもECでも同じように買い物をしてもらいたいというアパレル側の想いを踏みにじるものだ。しかもそれが丁寧な説明もなくスタートしてしまったことに問題がある。
取引先をないがしろにしていると指摘されても致し方ない。某外資系ブランドは直前まで出店交渉をしていたが、突然の「ZOZOアリガトウ」の導入に「こんな形で今後も施策が始まるのなら、怖くて、大切なブランドを任せることはできない」と交渉を打ち切ったと明かす。
「ZOZOは安売りに魂を打った」
ZOZOTOWNの画面は、安売りセールで賑わっている。
出典:ZOZOTOWNホームページより
かつて出店ショップが100~300店舗ほどだったころには、サイト全体も一つひとつの商品もいかにカッコよく見せるかをクライアントとともに丁寧に作り込んできたZOZOTOWN。
しかし、気付けば出店ブランドは1255ショップに急増。以前はセレクトショップなど中価格帯の商材が多かった品ぞろえも、1900~3900円といった低価格ブランドや、ディスカウント率の高いブランドが増えてきた。
「自社の商品が埋もれてしまう!」「イメージやブランドの顔ぶれが、ディスカウントの多い楽天に似てきてしまっている」「うちの商品を熱心に扱ってくれない」
と危機感や不満を持つ企業も増えている。
従来ZOZOTOWNを売上げやイメージでけん引してきたセレクトショップにとって、ショックな出来事もあった。顧客の購買意欲を高める指標の一つである「売上げランキング」の表示方針変更だ。
それまで、販売価格の総額で表示されていたものが、販売数量に切り替わったことから、買いやすい中低価格のブランドばかりが上位に並ぶ状態になってしまった。売上げ規模も大きくランキング上位の常連だったセレクトショップのブランド群の売上げが頭打ちになる大きな要因になった。
「ZOZOTOWNは低価格に舵を切った」「安売りに魂を売った」
そう指摘する声が大きくなった。
いつしか表示は元に戻ったが、不信感は募っていった。前述のライトオンも、「二重価格表示を含めて、安さをことさら強調するいきすぎた価格訴求戦略に嫌気がさした。道義的な問題もあるし、不当表示に該当しないかなど、懸念も大きくなっていった」と告白する。
自社ECの強化拡大の流れ
何よりも、リアル店舗とオンラインストアの相乗効果でブランディングや顧客とのエンゲージメントを高め、売り上げも利益も高めたいと考えるアパレルや専門店にとって、自社ECの強化・拡大は成長戦略の柱だ。出店料が高いZOZOTOWNの比重を少しずつ軽減したいというのは、各社共通の課題でもある。
ブランドにとってのZOZOTOWNの最大の魅力は、国内最大のファッションECモールであり、流入(客数)が圧倒的に多いことだ。知名度が高くないブランドや、自社だけではうまく顧客の目に触れさせることができないブランドや商品であっても、顧客接点を作ることに長けているからだ。
商品力や価格競争力があれば他社からのおこぼれにあずかることもできるし、うまくいけば購入⇒顧客化⇒自社店舗・ECへの誘因が可能になるからだ。往々にして自社ECで販売したほうが利益率が高くなるため、ZOZOTOWNを入り口として自社店舗・自社ECに誘導して購入してもらうような施策も行っており、この傾向は年々強くなっている。
この流れを把握しているZOZOとしても、(顧客を流出させず、逆に新規顧客を獲得して売り上げを伸ばすための)施策を打たざるを得ない。それが、「ZOZOアリガトウ」であり、PB「ZOZO」であった。
だが、これがアパレルとの亀裂を大きくすることになった。
ZOZOスーツデータの囲い込みという失点
「囲い込み策」がアパレルとの亀裂を大きくしたZOZOスーツ。
出典:ZOZO HP
そもそもPBの「ZOZO」は、これまでに「ZOZOTOWN」で蓄積してきた取引データや購買客のネットワーク、何よりも、そこで儲けた資金を投入して仕掛けたプロジェクトである。
「各社が自社EC強化の流れにあっては、防衛策としてPBを出すというのも分からないでもない」と理解を示す経営者もいる一方で、「われわれの商品を売って得たデータや金を使って、われわれの競合となるような自社PB商品を販売するなんて、信義にもとる」と憤る経営者の方が多い。
しかも、「ZOZOスーツ」で集めた身体データは取引先に開示せず、ZOZOだけで使うという囲い込み策を取ってしまったのがなおさら良くなかった。
例えば、「ZOZOスーツ」のデータをユナイテッドアローズやオンワードなど各ブランド・企業が活用して顧客に最適化された洋服を提供する協業体制を取れば、前澤社長が言う、「1億総オーダーメイド化」や「超短納期のオンデマンド生産システム」が早期に実現し、「過剰在庫・過剰値引き・廃棄ロスなどの現状のアパレル業界の課題」の解決の近道になったはずだ。
結局、自前で作ったPBは惨敗で、初年度売上高目標200億円に対して、実績はたったの30億円に留まる見通しだ。この事業だけで今期125億円もの赤字が出ると発表されている。これには「データと素材があればいい服ができるなんてそんな簡単なものではない」「アパレルビジネスやモノ作りをなめすぎている」と非難が集まっている。
某経営者の「デジタル事業のPDCAの回し方と同じ方法で、IT企業やコンサルタントがリアルなBtoC事業をやるとこうなる、という非常に分かりやすい例になってしまった」という言葉が耳に残る。
ユニクロを展開する柳井正ファーストリテイリング会長兼社長に至っては、ZOZOに対して「フェイクニュースかと思った」とメディアのインタビューで一刀両断していたが、この結果を見抜いていたのだろう。
取引先の怒りを煽るTwitterでの言動
総額1億円のお年玉企画をはじめ、これまで数々のツイートで世間を騒がせてきた。
撮影:今村拓馬
また、前澤社長の「本業をおろそかにしたように見えるお騒がせ」の数々や、広報責任者の放言に対しても、アパレルからの目は厳しくなっていた。
ついに2019年2月7日、
「本業に集中します。チャレンジは続きます。必ず結果を出します。しばらくツイッターはお休みさせてください」
とツイートするに至り、直後に同社株が急騰する展開となった。
これまで、Twitterを情報発信メディアとすべく、求人をTwitterで行ったり、100万円×100人=総額1億円のお年玉企画を実施したり。フォロワーを金で買うようなことまでして手に入れた482万人(9月12日朝現在)のフォロワーをもつSNSを休止するというのだ。
ここに至るまでにも、前日にはフォロワーへの質問形式で、
「どうせ少し時間がたてばセールになるので、洋服を定価で買うのは馬鹿らしいと思う」「自分が定価で買った洋服が、あとあとセールで安く売られているのを見たときの気持ちは?」
などと自社でのクーポンや会員制新サービス「ZOZOアリガトウ」による割引の正当性を導くことが目的のようなツイートを連発。
極めつけは、
「いまお店で約1万円くらいで売られている洋服の原価がだいたい2000~3000円くらいだということを、皆さんはご存知ですか?」
という、多くのアパレルのクライアントを敵に回すような「失言」を発信。これには「その売り上げの3割もZOZOがとっていることを知っていましたか?」という返信も付き、よく言えば利益率の高さ、悪く言えばボロ儲けのイメージを強く与え、墓穴を掘るような結果となってしまった。
ZOZO離れを食い止める手立て
騒動の発端の一つであるオンワードは、休止ではなく、正式にZOZOを撤退しそうだという。少なくとも、出店歴が長く、自社ECを強化する企業のZOZOTOWN依存度は軽くなってくることは間違いない。
売り上げを伸ばし続けるには、新しいブランドを導入し続け、顧客を獲得し続け、ZOZOで買い物をしたことがない人々にZOZO体験を実感してもらう必要がある。そのためには、ブランド営業や運営サポートなどの現場スタッフを強化する必要がある。前澤社長らのある種の暴走を止めるお目付け役の存在も必要になる。
ブランドとZOZOTOWNがさらに共存共栄できるような、商業施設でいうところの理事会のような組織も必要になるかもしれない。
「ZOZO」のジーンズ。PBにおけるオープンイノベーションが成功の鍵だ。
撮影:今村拓馬
アパレルにマグマのように溜まった不満を解消するには、まずは出店料の見直しや、改めて丁寧なコミュニケーションを図るなど、真摯に交渉のテーブルに着くことが重要だ。また、PB「ZOZO」は、外部のブランドや企業を巻き込んだ形でのオープンイノベーションで共存共栄・共創していく姿勢が成功への近道になりそうだ。
怒りや不信感を抱いていたクライアントにとって、このタイミングでのTwitter休止と前澤社長の「本業集中」に対して、「ようやくか」という気持ちの人々が多いはずだ。ギリギリ、間に合ったのか。時すでに遅しか。
ZOZOと前澤社長に対する周囲の目はますます厳しくなり、その行方を、固唾を飲んで見守ることになりそうだ。
(文・松下久美、写真・今村拓馬)