相続税対策をうたう不動産投資ブームで、人口減少にもかかわらず新築アパートをよく見かける(写真は本文と関係ありません)。
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スルガ銀行のシェアハウス向け不正融資問題に続いて、レオパレス21の問題がメディアを賑わしている。
レオパレスのようにアパート建築まで手がける大手賃貸事業者のビジネスモデルは、いずれも共通している。
相続税対策をうたって地主にアパート建築資金のほぼ全額を借り入れさせ、完成したら事業者ないしはそのグループ会社が一括して借り上げる(サブリース)。地主は保証された家賃を受け取って借り入れを返済し、最後に収支はトントンか若干プラスとなる、というものだ。
事業者は、自社が建てた家屋を借り上げるだけで、アパートを売るわけではない。家賃を一定期間保証するとはいえ、アパート所有に伴うリスクは基本的に地主が負う。
「最初は高額家賃保証、のちに減額」は法的にはアリ
レオパレス21のホームページには、「当社施工物件における界壁施工不備問題の対応について」と題した謝罪文が。
出典:レオパレス21 HPより編集部がキャプチャ
最高裁の判例は、借り手を守るための借地借家法で定められた「経済事情の変動による賃料増減請求権」を、借り手がサブリース事業者の場合にも原則として認めているので、運用が厳しくなれば、アパートの貸し手である地主に借り上げ賃料の減額を求めることができる。
穿った言い方をすれば、仮にサービスを売らんがために無理な家賃水準で借り上げをしても、保証期間(最近ではわずか2年ほどのケースもあると筆者は聞いている)が過ぎたら、地主に減額を求めればよいという“割り切り”も成り立つということだ。
レオパレスの深山英世社長は、国の基準を満たさないアパートを建てた建築基準法違反の問題について、「作業効率を上げるのが一番の狙い」と発言しているが(日本経済新聞2019年2月8日付)、そういう業績優先の発想がアリなら、契約獲得のために借り上げ家賃の設定を甘めにするのもまたアリということにならないか。
借り上げ家賃の設定については、建築基準法違反とは違って、事業者が責任を負うことがないからなおさらだ。
銀行が不動産投資ローンから手を引いた
金融庁が「にらみ」を利かせると、金融機関の不動産投資ローンの審査は一気にハードルが上がった。
撮影:今村拓馬
本来、さまざまなリスクを勘案してアブナイと思ったら銀行は融資をしない。そこで歯止めがかかるはずだ。ところが、地主への融資の場合は土地を担保に取れるから、銀行はほぼ無審査で貸してくれる。アパート運営がどうなろうが、最後は担保の土地を売れば回収できる、とこれまた“割り切り”で成り立っているのである。
最近はそういうことすら考えず、サラリーマンを相手に土地の購入資金まで貸す銀行があるようだ。スルガ銀行のように自ら審査書類を偽装するところまである世の中なので、借り主はよほど慎重でなくてはならない。アメリカではこれを「Caveat Emptor(買い主は注意せよ)」の原則という。
だが、実はこの問題については、もはや心配無用。スルガ銀行の不正融資問題をきっかけに、金融庁がようやく重い腰をあげて不動産投資ローンを問題視し始めたからだ。
長年の規制行政のもとで顧客より前に監督当局を見て仕事をする態度の染みついた銀行は、こうなると態度を豹変させる。すでに、案件の良否にかかわりなく融資そのものが難しい状況になってきているようだ。融資がつかなければ事業は始まらない。
それはそれでどうだかなとは思うが、まあ、そもそも相続税対策という動機そのものがそんなにほめられたものではないし、アパートが供給過剰なのは明らかだから、社会にもたらす弊害の大きさを考えると仕方ないだろう。
住宅ローンを悪用した「新たな手口」
首都圏遠郊(写真は千葉県)の中古マンションでは、売り先がなく、空き家(部屋)が増えている物件も目立つ。聞こえのいい言葉を真に受けて投資を決めるととんでもない目に遭うかもしれない(写真は本文と関係ありません)。
REUTERS/Kim Kyung-Hoon
そう思っていた矢先にまた新手の問題が登場した。Business Insider Japanの読者層とも重なる若い世代を中心に被害が増えているので、ここで注意を喚起しておく。
報道によると、インターネット専業の住信SBIネット銀行が、借り入れ希望者の居住用の住宅ローンとして実行した融資が、実際には投資用不動産の購入に使われていた疑いがあったということだ(日本経済新聞2019年1月11日付)。筆者の知る限り、同行だけでなく複数の融資機関で同様の問題が起きているようである。
記事を読むと銀行が被害者のように思えてくるが、実際の被害者は借り手である。記事ではそのあたりが明確にされていないため、どういうことかを筆者が知り得た範囲で紹介しておく(伝聞に基づきつつ一般化した例であることに注意してほしい)。
まず、悪質な事業者が、ネット上で投資用不動産への投資を呼びかける。対象は、空き家が増えているものの売却が容易でない首都圏遠郊の中古マンションが多いようだ。
事業者はこのマンションを借り上げ、最近流行りのリノベーションを施し、高い利回りで賃貸運用するという。顧客はわずかの頭金(こちらは事業者が消費者金融などを紹介するのだとか)を支払い、残りの投資額をすべて金融機関からの借り入れでまかなう。それを返済をしてもなおけっこうな収入が得られるというのが宣伝文句だ。
貸し出し先に苦しむ地方銀行は軒並み、住宅ローンに力を入れており、いまや新築と同基準で中古住宅も期間35年のローンが組めたりする。写真は北洋銀行(北海道)の住宅ローンサービス。
出典:北洋銀行HPより編集部がキャプチャ
顧客が興味を示すと、事業者は融資の申し込み書類を作成してくれる。そこで本来なら不動産投資ローンを借りるべきところを、自分で住むためと偽って住宅ローンを申し込むのである。
すでに書いたように、不動産投資ローンは審査が厳しくなって融資を受けるのが難しい。一方、住宅ローンの金利は不動産投資ローンに比べて格安で、35年返済と非常に長期なので、融資審査さえ通れば負担を大幅に抑制することができる。審査でされそうな質問の答え方を指南される場合もあると聞く。
めでたく融資が下りたら、事業者は借り上げ保証やリノベーションの費用と称して数百万円を抜く。最初の数カ月は約束通りの家賃が支払われるが、ほどなく家賃の入金が止まり、事業者にも連絡ができなくなる。顧客は金融機関への返済ができなくなるので、ここで問題が発覚するわけだ。
ミレニアル世代が狙われている
住宅ローン適齢期のミレニアル世代が詐欺的手口のメインターゲットに。くれぐれも注意されたし。
撮影:今村拓馬
実は、事ここに至っても事態の深刻さを認識できない人が少なくないそうだ。
当たり前の話だが、融資申込書に署名捺印している以上、銀行など金融機関への返済を負担するのはどこまでも顧客であって、「住宅ローンだとは知らなかった」とは言えない。しかも、資金使途を偽ったことは、契約書に定められた「期限の利益喪失」事由にあたるので、即時に全額を返済せねばならなくなる。
もともと売れる見込みのない遠郊の中古マンションを高値で買わされているのだから、抵当権を実行(=不動産を競売にかける)しても全額返済できる見込みはきわめて薄い。下手をすると自己破産まで追い込まれることもありうる。
貸し出し難で住宅ローンの融資競争に明け暮れる銀行のスキをついた手口だが、形の上では顧客が金融機関をダマしたことになるため、銀行などの責任を問うことはほぼ不可能である。事業者側も最初からダマすつもりだから、かなりタチが悪いと思ったほうがよい。
「There is no such thing as a free lunch. (うまい話には必ず裏がある)」
まさに、住宅ローン適齢期のミレニアル世代を狙った話なので、どうか注意してほしい。
大垣尚司(おおがき・ひさし):京都市生まれ。1982年東京大学法学部卒業、同年日本興業銀行に入行。1985年米コロンビア大学法学修士。アクサ生命専務執行役員、日本住宅ローン社長、立命館大学教授を経て、青山学院大学教授・金融技術研究所長。博士(法学)。一般社団法人移住・住みかえ支援機構代表理事、一般社団法人日本モーゲージバンカー協議会会長。