左から、アドバイザーに就任するグラコネ代表の藤本真衣氏、新任の社外取締役でZコーポレーション取締役・Coindesk Japanの運営元N.Avenue社長の高田徹氏、Aerial Partners代表の沼澤健人氏、同じく新任でゴールドマン・サックス技術部門出身のJohn Flynn氏。
ヤフーの子会社で、仮想通貨・ブロックチェーン事業などを手がけるZコーポレーションは2月14日、仮想通貨関連の税務処理などの取引支援事業を手がけるAerial Partners(エアリアル・パートナーズ)に約1億円を出資し、資本提携する。Aerial Partnersは、Zコーポレーション以外からの出資も合わせて、この調達ラウンドで総額約1億8000万円を集めた。
Zコーポレーションは、同社の100%子会社であるN.Avenue(エヌアベニュー)を通じて、2019年3月から仮想通貨メディア「CoinDesk Japan」を創刊することが決まっている。
今回の資本提携の動きも、こうした本格始動に向けた事業の布石と見られる。
・「Zコーポレーション、仮想通貨の税務管理を支援するAerial Partnersに出資」(Zコーポレーションのリリース文)
・「仮想通貨の取引支援事業を手がけるAerial Partnersが、ヤフーグループのZコーポレーション、ジェネシア・ベンチャーズ等から総額1億8千万円の資金調達を実施」(Aerial Partnersのリリース文)
Aerial Partners代表の沼澤健人氏。資金調達の実施は、2017年に家入一真氏ら複数の投資家から総額5000万円を調達して以来2度目。ラウンドとしては、自社の事業ステージを考慮すると、「プレ・シリーズAにあたる認識」と語る。
Aerial Partners代表の沼澤健人氏は、税務・監査のプロフェッショナル集団KPMGグループのあずさ監査法人出身。仮想通貨関連の税務相談で豊富な知識をもつTwitterアカウント「二匹目のヒヨコ@仮想通貨税務駆け込み寺」(@2nd_chick)の“中の人”として知られる人物だ。また、仮想通貨による資金調達・ICOを国内で実施したベンチャー、ALISの税務サポートも別会社(アトラスアカウンティング)で支援した経歴を持つ。
Aerial Partnersは、広義の仮想通貨(暗号資産)にかかわる個人や企業をサポートする業務として、仮想通貨の確定申告をフルサポートする「Guardian(ガーディアン)」、無料使用できる仮想通貨の損益計算ツール「G-tax(ジータックス)」、仮想通貨関連の税務調査の駆け込み寺「Guardian for 税務調査」を提供している。
Zコーポレーションとの関係、ビジネスは?
YouTubeで公開中のG-taxの説明動画。
Aerial Partnersは2016年12月に設立、現在総勢20名程度。資金調達は2017年に実施した総額5000万円の調達に続いて2回目の実施になる。沼澤氏によると、Zコーポレーション側と出資について話し始めたのは2018年の秋ごろからだという。
いま、仮想通貨の関連事業を取りまく市況は決して明るくはない。日本国内の仮想通貨市場はこの1年あまりで大幅に縮小しており、円ベースのビットコインの流通量の比率も、およそ10分の1の規模になっている。
Business Insider Japan編集部作成
これについては沼澤氏も「いま仮想通貨業界はVCをはじめ投資環境も冷え込んでいる」のは事実だと認める。その意味でも「このタイミングでリスクをとって、支援していただけるということには非常に感謝しているし、期待に応えたい」(同)とした。
ただし、仮想通貨の取引は、そのほかの投資と同じように、いわゆる「売り」でも「買い」でも投資できるため、こういった局面でも税務相談には一定の需要があるという。実際、Aerial Partnersでは、2019年2月の時点でも税務相談に対応するスタッフの数が足りないほどの状況が続いていると語る。
Aerial Partners関係者によると、今回のリリースは「資本提携」で、業務面の提携についての公式発表はない。
沼澤氏に直撃したところでも、「試行錯誤している段階のため(両社のビジネスについて)断定的なことは申し上げられない」として、何らかの業務提携的な動きがあるのかは不明なままだ。しかし、仮想通貨メディアを実質運営する会社が、仮想通貨の税務に詳しい企業に出資するとなれば、業務面でも無関係ということは考えにくい。
例えば、CoinDesk Japanなどへのコンテンツや知見の提供、Zコーポレーションが資本参加する仮想通貨取引所・ビットアルゴとの将来的なサービス連携などもあるのかなど、想像は膨らむ。
「仮想通貨」資産管理を誰でもできるようにする
「G-tax」の損益・残高サマリー画面。取引所別のデータ取り込みなども可能。取引履歴が取得できる取引所であれば、すべての取引所に対応できるとしている。
出典:Aerial Partners
仮想通貨業界のなかで、Aerial Partnersの立ち位置は、多くの「仮想通貨起業」を目指したベンチャーとは違い、少々ユニークな存在といえる。仮想通貨の取引や流通をビジネスとするような存在ではないし、仮想通貨そのものを作っているわけでもないからだ。
沼澤氏はAerial Partnersの事業ビジョンについて、
「ブロックチェーン業界でイノベーションを起こそうとしている方々の活動が、制度上の摩擦を起こすのは、(法律が追いついていない以上)仕方がない部分はある。しかし本来、イノベーターや(仮想通貨の)ユーザーが、その摩擦によって不必要な時間をとられる必要はない。(そのペインを解決すること)それが我々のミッション」(沼澤氏)だと説明する。
例えば、いま、仮想通貨業界にまつわる「ペイン」や「摩擦」には、こんな実例があるという。
仮想通貨業界の人たちが集まって食事などをしたとして、その「割り勘」を仮想通貨で行うことは実はほとんどない。仕組みとしては十分に可能にもかかわらず、その後の税務処理があまりに面倒だからだ、と沼澤氏は説明する。
「税金の計算が面倒だという“本質的ではないこと”が、(実世界での利用の)障壁になってしまっている。我々はG-taxなどのサービスを使って、そこを解決していきたい」(沼澤氏)
今回調達する1億8000万円は、G-taxなどのサービス開発の人材採用に使っていく。
「サービスはすべて内製。(開発を進めるにあたって)エンジニア、デザイナーといったプロダクトチームを増やすことに使う」(沼澤氏)
G-taxは現状、仮想通貨の損益計算ツールという比較的シンプルなものだが、将来的には、広義の仮想通貨(通貨的に使うものだけではなく、ブロックチェーンを利用して動作するアプリやサービス※)にまつわるすべての情報をG-taxを通して管理できるようなゲートウェイサービスにしていきたいという。
※Decentralized Applications=DApps(ダップス)と呼ばれる
沼澤氏はブロックチェーンを利用してつくられるアプリDAppsを「Web3.0 DAPPS」と例えて、次世代のブラウザーのような存在になると説明する。サービスは非中央集権的に分散動作し、単一の「管理主体」がなくなる、“価値の民主化”が起こる世界が来るはずだ、とした。
「仮想通貨は(証券会社などでの取引とは違って)、複数のウォレット、複数のブロックチェーン上で管理することになる。(つまり)その人がどのウォレットを使っていて、秘密鍵はどこに保管していて……と(いうことが、人によってバラバラなのが現状)。この先、どうやって安全に資産を引き継ぐかは、必ず社会課題として浮き彫りになってくる」(沼澤氏)
極端な話、いま仮想通貨資産を持つ人が不幸にも急死した場合、その資産の移転は技術的に相当に困難なことになる、ということだ。
一方で、仮想通貨を含む暗号資産の「相続」の課題が噴出するのは少なくとも10年以上先のことだろう。そのため、いまはそのゲートウェイ構想の「入り口」の部分からサービス化を進めているという。
「短期的な観点でいうと、(多くの人の課題は)仮想通貨の投資にまつわる確定申告をどうするか。まずはここから、ステップバイステップでサービスを広げていく。最終的には“仮想通貨の情報を管理するツール”を提供することを見据えて、開発を進めていきたい」(沼澤氏)
Aerial Partnersには、今回の資金調達に合わせて、社外取締役2名、アドバイザー1名も参画する。
社外取締役の1人目はZコーポレーション取締役でCoindesk Japanの運営元N.Avenue社長の高田徹氏。
もう1人は、元ゴールドマン・サックス日本法人技術部門でManaging Directorを務め、金融系テクノロジーや金融業界水準のセキュリティーの知見を持つJohn Flynn氏。
またアドバイザーには、国内外の仮想通貨業界に幅広いネットワークを持つ、グラコネ代表の藤本真衣氏が就任する。
Zコーポレーションの公式サイト。キャッチコピーは「次世代に誇れる未来を創る」。
これまで、水面下の動きが続いていたZコーポレーションの仮想通貨事業。そこに、ベンチャーを巻き込んだ具体的な動きが見え始めた。2019年、どこまでサービスや事業が進展するのか。そしてヤフー本体にどんな好影響があるのか、まだまだ興味は尽きない。
(文、写真・伊藤有)