「データの会社」目指すヤフー川邊社長の野望 ── ビッグデータで他社や自治体とも連携へ

ヤフー データフォレスト会見

データフォレスト構想を実現する新たなデータソリューションサービスが発表された。写真右端がヤフー社長の川邊健太郎氏。

ヤフーは2月13日、「データフォレスト」構想に基づき、ビッグデータ分析で企業の課題解決などを図る新しいサービス「DATA FOREST INSIGHT」「DATA FOREST ENGINE」を発表した。

ヤフー社長の川邊健太郎氏が「データの会社になる」と表明してから約1年。その間、実証実験を進め、今回いよいよ実際のサービスが提供されることになる。サービス開始は2019年10月からの予定だ。

話題の「PayPay」はオフライン領域との架け橋

PayPay

PayPayによるオフラインデータにも期待を寄せる。

ヤフーは長くオンラインの情報を扱う企業だったが、現在ヤフーが注力する「PayPay」はインターネットとリアルをつなぐ架け橋として、川邊氏は「今まで得られなかったデータが得られる」と見る。PayPay自体は別会社なのでデータをそのまま流用できないが、何らかのデータ連携を図り、さらなるサービス改善・強化につなげたい考えだ。

問い合わせ・パートナー

発表以来、問い合わせは100を越え、その中から20のパートナーと実験を行ってきた。

ヤフーが集約してきたデータとAIを活用することによるビジネスの改善に対して、自社内にとどまらずにクライアントの事業創造、改善につなげるサービスを提供するのが、今回のデータフォレスト構想だ。

2018年2月に構想を発表し、実証実験への参加者を募っていたが、問い合わせ企業や自治体は100以上にのぼり、有力な知見をお互いに得られそうな20のパートナーと実験を行ってきたという。

江崎グリコ、セブン&アイ、福岡市などで一定の成果

例えば、江崎グリコとの実験では、ある栄養素とダイエットやトレーニングに関する用語を合わせて検索している女性が多いことがわかり、消費者の興味・関心を定量的に捉える手段として有効だと結論付けた。

セブン&アイ・ホールディングスも、実験の結果を「真のニーズを探る手がかりとなる、特にバリューが高いデータ」だと指摘する。ほかにも、神戸市や福岡市、西武鉄道、ユー・エス・ジェイ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの運営会社)といった実験事例が紹介され、その効果を実証してきた。

2種類のデータ活用サービスを提供へ

2つの新サービス

提供するのは「DATA FOREST INSIGHT」と「DATA FOREST ENGINE」の2サービスで、それぞれ「People」と「Place」「Recommend」というメニューが用意される。

今までデータを使ったサービスは、「マーケティング領域が中心だった」とヤフーの執行役員でチーフ・データ・オフィサー(CDO)である佐々木潔氏は話す。しかし、今回の実証実験の結果では、「企画・開発」「生産」「物流」というバリューチェーン全体に貢献することを目指して2種類のサービスを開発した。

DATA FOREST INSIGHT

DATA FOREST INSIGHTは、ヤフーのデータと性別などの個人の属性データを掛け合わせて、より高い精度で興味・関心などの知見を提供する。

2サービスの1つ「DATA FOREST INSIGHT」は、大きく分けて2つの機能から構成されている。

1つ目は「People」で、ヤフーのニュースや検索、購買、各種アプリからの位置情報といったユーザーデータをもとに、ランキングや関連性、時系列の推移という情報が集められる。これに性別、年代、居住エリアといった情報を組み合わせることでより絞り込みが行える。

さらにクライアント企業も連係させるデータを持っていれば、ID連携で情報を掛け合わせて分析を行うことで、より精度の高い分析が可能になる。絞り込んだターゲットに適した商品開発などで有効だとしている。

もう1つのメニューが「Place」で、ヤフーの地図アプリなどから得られた位置情報をもとに、当該エリアの人口や移動状況、そのエリアにいる人の興味・関心といった分析が可能になる。自治体の地域開発など、どのエリアをどのように開発すれば効果が高いか、といった分析が行える。

DATA FOREST ENGINE

Recommendでは、さまざまなデータの掛け合わせでより精度高くオススメの情報を導き出す。

2つ目のサービス「DATA FOREST ENGINE」では、ヤフーのデータやクライアント企業のデータを分析することで、そのユーザーに対して最適なオススメを行う「Recommend」を提供する。10月以降には、将来の需要、価格、在庫などの予測を行う「Predict」も用意する。

データの「質」と「管理」が事業の要

スケジュール

DATA FORESTのタイムスケジュール。

肝となるのは、いかに価値の高いデータを集めるか、そしてそれをいかに解析するか、という点だ。同社は長年培ったユーザーデータに加え、ID連携によってほかの企業が持つデータも活用することで、より精度を高くすることを目指す。

例えば、競合となる楽天などのように、大量のデータを抱える企業、共通ポイントでデータを収集する企業なども、こうしたデータ連携を期待する企業の1つだ。

データ分析の分野では、「日本でも有数のデータサイエンティストがいる企業」(川邊氏)であるヤフーとして、さらに今回のサービスに向けて「人員を相当程度強化」(同氏)して体制を整備する。

プライバシーに関する取り組み

プライバシーとセキュリティに関しても重視する姿勢を見せる。

すべてのデータは統計処理をするとはいえ、もとは個々のユーザーのプライバシーデータを集めたものだ。佐々木氏は、「全社的に、セキュリティ・プライバシーを重視している」と強調し、どのようにデータを取得し、何のために活用しているかを分かりやすく示すようにし、ユーザーがデータの取り扱いを自身で設定できるページも用意する。

データ自体は他社に販売せず、外部に提供するのはあくまで解析した結果の知見だけである点も強調。川邊氏は「個人のデータはすべて法律、利用規約に基づいて活用するが、現在は急激に環境が変化してきていることも認識しており、たとえ法律や規約に適合しても、社会通念上、許容できないものは無理に事業を行うつもりはない」という。

5月には東京・紀尾井町の同社オフィス内にデータフォレストラボを開設して、実際のサービス体験などができるようにしつつ、10月のサービス開始に向けてクライアント企業を集めていく。

2019年度内には、100以上の企業、自治体などへとサービスを提供することが目標で、同社の事業の4つ目の柱となるよう育てていきたい考えだ。

(文、撮影・小山安博)


小山安博:ネットニュース編集部で編集者兼記者、デスクを経て2005年6月から独立して現在に至る。専門はセキュリティ、デジカメ、携帯電話など。発表会取材、インタビュー取材、海外取材、製品レビューまで幅広く手がける。

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