「チーム手帳」は、外出時やテレワークなどでも、深いコミュニケーションが取れるツール。
ビジネスチャット「チーム手帳」での雑談が成果につながる理由
場所や時間を問わない柔軟な働き方を実現し、仕事のスピードを加速させるツールとして、企業で導入が進むビジネスチャット。一方で課題となっているのが、対面ではないやり取りの中で、いかにコミュニケーションを活性化させて、チームの仲間と信頼関係を築ける かということ。ビジネスチャット「チーム手帳」は、この課題に切り込むユニークなサービスだ。
使いやすさを追求するだけでなく、本来の目的であるチーム活性化に立ち返って、「心理学的アプローチ」を採用している。どのような経緯でこの商品が開発されたのだろうか。
「縁の下の力持ちを可視化」というアイデア
リコーと共創するドリームネッツ代表取締役の井上一成氏。
開発を手がけたのは福山に拠点を置く、ソフトウェアベンチャーのドリームネッツ。「BONX for BUSINESS」の事例もあるように、リコーは2018年来、ベンチャー企業との共創に積極的に取り組んでおり、「チーム手帳」もまた、ドリームネッツとの共創によって生まれたサービスだ。ドリームネッツ代表取締役社長の井上一成氏によれば、リコーとは当初、まったく異なる案件で顔を合わせたという。 「従業員のよりどころになる、社員手帳のようなアプリを作りたいと思ってちょうど開発を進めていたところでした。当社もそうですが、オフィスで従業員はみんなパソコンに向かっていてあまりお互いに話をしない。意思の疎通がなかなかうまく図れなくて、それがときに仕事の効率を下げてしまう。この問題をなんとかできないかと考えていました」(井上氏)
リコー デジタルビジネス事業本部 センシングソリューションセンター 事業開発室 事業企画グループリーダーの染谷芳朗氏。
一方、リコーで「チーム手帳」のプロジェクトリーダーを務めるのは、デジタルビジネス事業本部の染谷芳朗氏。もともと、「福利厚生費を活用して社員のモチベーションを高めたい」という顧客からの要望を形にしたいと構想を練っていた。 「社内のコミュニケーションを数値化することで、縁の下の力持ち的なメンバーの貢献も可視化でき、日を当てることができるのではないか」(染谷氏)というアイデアを温めていた。
使いやすさに心理学的アプローチを加味したビジネスチャット
「チーム手帳」のサンプル画面。報告、提案、質問、感謝などさまざまなコミュニケーションがテキストやスタンプなどで気軽に取れる。利用料金は1IDにつき月額400円だが、現在はキャンペーン中につき、月額300円で導入できる。10IDから1ID単位での追加が可能。
交錯する二者の想い。そこから誕生したチーム手帳は、他のビジネスチャットと比べかなりユニーク。例えば、使いやすさに加えて心理学的アプローチを採用したアプリケーションである点だ。個別またはグループでのテキスト、写真、動画、ファイルの共有に加え、ビジネス用途に厳選した「気持ちを動かすスタンプ」を用いることで円滑なコミュニケーションを支援する。 また、ありがとうなどの気持ちを表す「プレミアムカード」を送り、受け取った相手の「承認欲求」を満たすというモチベーションを高める工夫もされている。
さらに、これらのコミュニケーション状況を示すデータをダッシュボードで俯瞰できる仕組みも取り入れている。
「雑談が深い信頼関係の基盤となる」という考え方
北海道情報大学 経営情報学部 システム情報学科准教授の五浦哲也氏。
このコミュニケーションツールに心理学的なアプローチを取り込んだのは、なぜか。それは、染谷氏が北海道情報大学で臨床心理学等を研究する五浦哲也准教授と交流する中で耳にした、「交流分析」の話が浮かんだからだ。
五浦准教授によれば交流分析とはアメリカの精神科医、エリック・バーン博士が提唱した心理学である。交流分析は、「今ここ」に焦点を当て、自分を知り他者との適切な交流を目指している。その中には、コミュニケーションを行う際の時間の使い方を、「閉鎖、儀式、雑談、活動、ゲーム、親密」の6つに分類した「時間の構造化」という考え方がある。仕事でのコミュニケーションは「活動」にあたるが、コミュニケーションには「雑談」が重要だという。
「これは私自身の経験から得た考えでもありますが、『雑談』という交流からその人の価値観や過去の体験を共有し、人となりに共感し信頼関係を築くことでチームは強くなる」と五浦准教授。この話を受けて染谷氏は「単に業務のためのコミュニケーション(活動)ができるだけでなく、絆を深めるコミュニケーション(雑談)を戦略的に展開できるツールにしたい」と考えるようになったという。
Google、楽天の食堂は、なぜ無料なのか?
人が出会い、交流し、新しい気づきや発想を得る場となっている社員食堂。ワークスタイルが変化する中で、時代に即したコミュニーションの形として「チーム手帳」はテスト運用の段階から注目を集めた。
gettyimages
Googleや楽天が食堂を社員に無料開放しているのは有名な話だが、「雑談」のようなコミュニケーションはこうした社員食堂のような場所や、昔でいえばタバコ部屋、あるいは飲み会の席などで自然に行われてきたものだ。
先の井上氏の言葉にもあるように、働き方が多様化し、コミュニケーションが希薄になりつつある今、「従業員同士の関係性をいかに構築するべきかという悩みは、我々のお客様からもたくさん耳にしていた」と染谷氏は強く言う。ソーシャルネットワークの個人アカウントを用いて個別にやり取りしているケースもあるが、それはそれで情報漏洩という大きなリスクがつきまとう。
「チーム手帳」のダッシュボード例。社内や部署内のコミュニケーションがどれだけ活発だったのか一目瞭然。コミュニケーションの多さ、少なさが極端に目立つときは組織内で問題が起きている可能性があり、企業の健康診断書のような役割も果たす。
提供:リコー
「もし企業がアカウントを管理できるセキュアなコミュニケーションツールで『雑談』のような交流ができ、従業員同士の信頼構築に貢献できれば、業務のためのコミュニケーションでもより活発な議論やチームワークを醸成できるのではないか。ひいてはそれが、組織を強くすることにつながると考えました」(染谷氏)
この発想はすぐさまドリームネッツにも共有され、絆を深めるコミュニケーション実現のための、さまざまなアイデアが議論された。東京と福山を結んだ電話会議はもちろん、2カ月に1度は実際に顔を合わせたり、テスト版を用いて進捗状況などを確認したりしながら、開発を進めて行ったという。
みんなの気持ちをダッシュボードで可視化するために、何度も議論を交わし、新しいアイデアが生まれるたびにプログラムを更新して、ようやく「チーム手帳」に辿り着いたというドリームネッツのシステム開発事業部営業チームリーダー金尾有香氏(写真右)。
2018年夏にはリコーがドリームネッツに出資する形で、資本及び業務提携も行われている。「アイデアや能力を持つベンチャー企業に、我々の資金や営業力を提供し、双方の利益になる共創を目指すのは、リコーが掲げる次の戦略の大きな柱。ベンチャー単独ではキャズム(製品やサービスを市場で成功させるため、超えなければいけない一線)を超えるまで資金が続かないかもしれないが、我々にはそれを超える後押しができます」と染谷氏は、出資の理由を説明する。
「いい雰囲気」を見える化できた
「チーム手帳」のダッシュボード例。感謝カードを誰が何枚受け取っているかを見ることで、通常では発見しにくい影の功労者に光を当て、インセンティブの対象にすることが可能になる。
提供:リコー
まさに両者との深い絆コミュニケーション、そして心理学的アプローチを随所に盛り込むことで生み出された「チーム手帳」。ローンチする前に、東京と札幌でテスト運用を行ってもらった企業の反応を見ると、評価は上々。
特にチームごとあるいは個人ごとに、どのようなカードやスタンプが、どのくらいやり取りされているかを数値化しダッシュボードで俯瞰することで、従業員の今の気持ちやモチベーションを把握できる機能が好評だった。本格的に導入したいとの意思を示した企業がほとんどだったという。
このダッシュボード機能では、誰がどれだけトークに参加し、カードやスタンプをポジティブな気持ちで、あるいはネガティブな気持ちで送ったのかが分かる。
提供:リコー
言うまでもなく人間関係は組織の礎となるものだが、これまでそれは「社内の雰囲気がいい」といったようにあいまいに表現される、目に見えないものだった。しかし、これからの企業にとってコミュニケーションを解析して定量化することは、組織の状態を把握するためにも欠かせないはずだ。
「チーム手帳」は従業員の交流を深め、心理学的アプローチに基づいてモチベーションを喚起し、円滑な業務コミュニケーションを実現する使いやすいツールであると同時に、組織の健康診断ができるツールともいえる。
リコーとドリームネッツではさらに近い将来、これらのデータをAIによって分析することも視野に入れている。新しい働き方を支えるツールが、個人だけでなく組織の力も最大化する——そんな未来が待っている。
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