なぜこうなった「スマホで画像保存」が違法になり得る、“行き過ぎ”著作権法 改正案に警鐘

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撮影:今村拓馬

2月13日、文化庁は、かねてより文化審議会 著作権分科会で審議中だった著作権法の改正案について、基本的な方針をまとめた。

その内容は、「権利者の許可なく、インターネット上のあらゆるコンテンツについて、著作権を侵害していると知りながらダウンロードすることを全面的に違法とする」こと。

この方針案が、ネット文化に大きな影響を与えるのではないかと、議論を呼んでいる。

従来、ダウンロードが違法になるのは音楽・映像などに限られていたが、今回の改正案ではその限定がなくなり、画像や文章なども対象とする方向だ。「ダウンロード」という行為には、スマートフォンなどで日常的におこなわれる「スクリーンショット」の撮影(画面保存)も含まれるため、日常生活に与える影響はきわめて大きい。文化庁は会期中の通常国会(会期は6月26日まで)に著作権法の改正案を提出し、成立を狙う。

違法ダウンロード範囲の拡大は、以前より実効性を含め、多数の課題が指摘されていた。著作権侵害の被害を被っている漫画家などからも「行き過ぎであり、望まない」とする声明も出ているほどだ。

なぜこのような決定がなされたのか? 結果として、どうなるのか? 本質的な問題がどこにあるのかを、審議会の議事録などを元にまとめた。

漫画の違法コピー対策で「画像など」にも対象拡大

文化庁

出典:文化庁HPより編集部がキャプチャ

今回の法改正議論の根本にあったのは、違法コピーされたコンテンツの流通に伴う経済的被害の拡大がある。

直近の事例としては、2017年に急速に利用者数を伸ばして社会問題化した、違法コピーされた漫画の閲覧サイト「漫画村」問題が有名だ。漫画村は2018年4月に突如運営を停止したが、同様のサイトは今も存在しており、漫画の著作権侵害問題は解決していない。

あらゆる著作権侵害の経済的被害に対する対応策として、政府は、著作権法第30条「私的使用のための複製」に関する内容について、2009年以降改正を進めている。

過去も現在も、著作物を「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的」とする場合、コピーは「私的複製」とみなされて、合法的に行える。

けれども、現在の著作権法では、そこに「除外条件」がある。

2009年にまず「音声と映像に限り」「それが違法にアップロードされたものであることを知りながらダウンロードする行為」が違法化された。2012年には、有償で提供されている映像や音楽のファイルの違法ダウンロードについて、刑事罰を科す法改正も行われている。

今回の方針決定は、その範囲を映像・音楽に限らず、画像や文章などあらゆる著作物へと範囲を広げることだ。念頭にあるのは、漫画や小説などの違法コピー対策だ。

「範囲の広すぎる対策」に著作権者も反対

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撮影:今村拓馬

しかし、冒頭でも述べたように、この方針にはいくつもの問題が指摘されている。そのため、権利者側からも強い反対意見が提示されてきた。

2月8日にも、参議院議員会館で開催された「違法ダウンロード範囲拡大を考える院内集会」では、日本マンガ学会会長でマンガ家の竹宮惠子氏や赤松健氏が、違法ダウンロードの静止画などへの拡大について異議を唱えている。

争点は「条件がきわめてわかりづらい」ことに加えて「実効性が薄い」ことだ。

そもそも、違法コピーしたものをダウンロードした、と認められるにはそれなりの条件が必要だ。

著作権法では「私的複製」は認められている。今回の場合も、「それが違法にコピーされたものと知った上で」複製した場合にのみ問題となる。例えば、記事が掲載されているウェブサイトのスクリーンショットを撮っても、それだけでは違法ではない。

  • ウェブサイトに掲載されたコンテンツが違法コピーされたもので、
  • かつ、それが違法であると知った上で、
  • スクリーンショットを撮ったり、ダウンロードしたりした時

に、初めて「問題」になる。

「なんだ、日常的には大きな問題はないじゃないか」そんな風に思う人もいるかもしれない。だが、それは早計だ。

問題の本質は、

「なにが違法コピーされたものなのか、判断がつきにくい」

「違法コピーと知った上でダウンロードしたものではない、という証明が難しい」

そして、

「グレーゾーンに置かれたコンテンツについても対象となり得る」

という曖昧さにある。

ウェブ上に掲載された記事には、「どの部分が違法コピーである」とは書いていない。作った側に悪意があるかないかにかかわらず、見ている側が「これは違法コピーされたものだ」と判断できない場合は多数ある。

同人作品のような二次著作物は、他人の著作物の上に成り立つ著作物で、確かにグレーな部分が大きい。では、その性質を理解していたら、すぐに「違法ダウンロード」となるのだろうか?

ここに関わってくるのが、「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律」(TPP整備法による著作権法の改正を受け、2018年12月30日より施行された「著作権侵害の非親告罪化」だ。

それまで著作権侵害は、著作者やその代理人からの申し立てがあって成立するものだった。だが法改正後は、有償で配信された著作物について、著作権者の利益を侵害していることが認められた場合、「著作者の申し立てがなくても」訴追される可能性のある著作権侵害とみなされる、ということだ。

明確に理解しないうちに、いつのまにか自分が「コンテンツを違法コピーした」という扱いになり、訴追対象になる可能性を秘めている。

いつのまにか「違法コピーしていた」になる懸念

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撮影:今村拓馬

さらに言えば、これらのことはすべて「おおまかな方針」に過ぎない。実際に法が施行された時、どういう条件で違法性が判断されるか、明確な条件は現状示されていない。

「私的複製」「引用」などの条件を、多くの人は正確に把握していない。すべての条件を理解した上でネットを使うのは難しいし、仮に理解していたとしても、「見ているサイトを作る側」が理解しているとは限らない。

きわめてあやふやな状態ながら、「多くの人が行う可能性のある行為に、違法性がつきまとう」ことが、今回の問題の根幹だ。

今回、違法ダウンロード範囲の拡大が行われた背景には、「主要国では音楽・映像にかかわらず違法ダウンロードについての規定が存在する」という点がある。たしかに、音楽などと画像・文章を分けて考える必要があるのか、という提案については、一定の説得力がある。

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大前提として、著作権侵害から権利者を守ることは大切なことだ。しかし、恣意的な運用ができかねない曖昧な法解釈が可能で、ネットを通じた日常生活にも影響を与えかねない法改正は、極めて慎重に考える必要がある。

Business Insider Japan

だが、文化審議会 著作権分科会での審議の中で報告された海外事例のうち、刑事罰を設けているのはドイツとフランスだけだ。アメリカなども、被害額の基準を定めた上で罰則を定めており、個人は事実上対象外だ。前述のように、広い範囲に網をかける形で法制化することについては疑問がある。

実は、先に行われている映像・音楽の違法ダウンロードへの刑事罰適応について、これまでも「刑事罰が適応された」事例はない。政府としても個人レベルの細かな侵害をすべて摘発することは目的としていないからだ。

だが、それはあくまで「現在の運用方針」による規定であり、非常に恣意的なものだ。画像などへの拡大が行われたのちに基準がどうなるかはわからず、別件逮捕などに使われる可能性もある。

本質論として、慎重な意見が出るのも当然と言える。審議会ではその点もいくども議題に上がっているが、結果的には「法改正」という基本方針が定められた。

「漫画村」対策にならないのに導入する意味はあるのか

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一連のブロッキング議論の最中に閉鎖された海賊版サイト「漫画村」 。今回の議論の起点のひとつでもあるが、この法改正方針では効果がない、という指摘もある。では何のための改正なのか?

Business Insider Japan

そしてもうひとつの問題は、「そこまでしても、違法コピーによる経済損失の対策になるかは怪しい」ということだ。

漫画家の赤松健氏は、自身のツイッターで以下のように発言している。

「著作権処理が適切でないCGイラストの場合、『がぞうをほぞん』という行為がNGかもしれず、保存した人に刑事罰までありうる、というのが今回の『静止画ダウンロード違法化』の問題点ですね」(赤松氏)

違法ダウンロードについては、人の側が「違法であることを認識した上で」ダウンロードする必要がある。ウェブブラウザーなどのソフトが、動作を高速化する「キャッシュ」などの目的で自動ダウンロードする行為は、人間が行うものではないので対象外だ。

となると、赤松氏が指摘する通り、「漫画村」のようなサイトでは効果がない。ウェブブラウザーが表示のためにダウンロードしてはいるものの、それは「保存」されていないし、人がダウンロードしたものでもないからだ。

漫画違法配信サイトへの対応については、2018年に入って以降、特定のサイトへのアクセスを排除する「ブロッキング」が検討されてきた。だが、ブロッキングは通信の秘密を侵害する可能性が高く、情報統制にもつながるとの批判があり、実施には至らなかった。

同時に進められた「違法ダウンロード範囲の拡大」も、結局は問題解決にならないだけでなく、多数の問題を抱えたままである。このままの法制度化は、誰のためにもならない可能性が高い。

(文・西田宗千佳)

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