会社の電話をなくしたら、顧客に切られて売上ダウン。それでも「電話依存はヤバい」理由

LINEやチャットワーク、メッセンジャーなどチャットツールが仕事の連絡を取り合う主な手段という企業がIT業界などで徐々に増えつつあります。しかし、そうではない業界、企業ではいまだに「電話」が主流、固定電話にしても、会社から支給される携帯電話にしても、それがなくなっては困るという企業がほとんどでしょう。

そんななか、オフィス移転を機に「会社の電話をなくした」企業があります。サイト内検索技術などを開発・提供する日本発のグローバルBtoB企業、マーズフラッグ社です。同社は北米・シンガポール・上海など海外でも事業を展開し、サイト内検索市場では国内トップシェアを誇る、数少ない ”IT業界でGoogleに勝った” 日本の企業です。

営業職用の携帯電話も含めて、会社の電話をなくした結果、解約を言い渡す企業が現れ全社売り上げは1割ダウン。それでも「この判断は正しかった」と同社の代表・武井信也さんは胸を張ります。「会社の電話をなくす」ことを決めた背景と、社員や業績への影響、電話をなくして見えてきた日本企業の課題について話を聞きました。

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PROFILE

武井信也 : 株式会社マーズフラッグ 代表取締役社長。1971年長野県松本市生まれ。英国国立ウェールズ大学 大学院経営学修士修了。17歳でパソコン通信のホスト局を開局。現在事業となっている技術の元はこのころに開発。1998年マーズフラッグの前身となる会社を起業。1999年熊谷正寿氏、穐田誉輝氏らと広告オークションサイトを運営する株式会社サイバーコムを創業し、取締役に就任。2001年DACとしてナスダック・ジャパンに株式公開し、同年取締役辞任。2006年サイト内検索サービス「MARS FINDER」を提供開始。2013年シンガポール、2016年上海に進出。

パワハラ電話の削減と、グローバル基準に合わせることの合理性

——まずは、電話をなくした背景から教えてください。

私は日ごろ、月に一度は重要な会議のため日本に帰ってきますが、多くの時間は海外のいろんな都市で過ごしています。海外にいる間はコワーキングスペースかパートナー企業のオフィスで仕事をしているんです。

そんな私が思うに、海外のテック企業では全然電話が鳴らない。だから、日本にある私の会社のオフィスで電話が頻繁に鳴っているのを疑問に思うんです。電話に出ることで、付加価値や利益が増えるならまだしも、直接的にはつながりませんし、それどころか、不利益が多いと感じていました。

ごく一部のお客さまですが、電話がかかってくる時点で怒っていることも多く、感情的で、高圧的に、パワハラを受けることもあります。中には「わしじゃ、あれ終わった?」と名乗らずにかけてくることも。電話対応に疲れたあと、周囲が担当者を慰めるための時間も生まれていて、そういうのは精神的に疲れますよね。

また、弊社は外国人社員も多数採用しています。彼らは日本語は話せますが、ネイティブではないですし、文化も違うので、会社名を聞き取れないこともあるんです。例えば「◯◯信託証券」という言葉の意味が分からないこともあります。企業名の省略や長い部門名も多い。それらを営業ツールのセールスフォースで検索して探すのも毎回大変でした。

そもそも世界中にサービスを提供している場合、時差もありますし、電話を使わないほうが好都合が多いんです。SNSやメールを使ってのコミュニケーションは、履歴が残りますし、自動翻訳にかけたり、漏れなく転送もできたり、ほかのツールとも連携できるので。

主要な取引先でも世界を見据えたグローバルニーズは高まっていて、弊社としてもさらにグローバル化を進めていく中で、日本ではなくグローバル基準で業務フローを設計していくほうが、合理的な判断だったんですよね。「電話して話そう。話せば解決する」っていうスタンスを否定はしないのですが。

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電話にこだわる人は、商品理解とコミュニケーションスキルが低い

——そうはいっても、電話がなくて本当に仕事ができるのか、疑問に思ってしまいますが、社員の反応はいかがでしたか。

営業の担当役員は特に揺れていたと思います。グローバルスタンダードを踏まえると合理的な判断だと、頭で考えれば分かるけど、感情的には難しいですよね。

なぜなら、そもそも彼らは電話のスキルが高いんです。会社とお客さまの要望をすり合わせ、ことを荒立てずに交渉する術を磨いてきています。自分が潤滑油であることが生きがいに感じている部分もある。だからこそ「じゃあ俺たちいらないじゃん」っていう意見もありましたから。そんなことは全然ないんですけど。

役員会議で3カ月間、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論をしました。そもそもマーズフラッグにとって、営業の仕事ってなんだろう、営業に求めていることってなんだろう、電話ってなんだろうって。

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実績を載せている弊社のWebサイトは、多言語に翻訳していて、広告も配信していますし、セミナーも実施しています。そもそも営業のためにテレアポはいらないんです。つまり電話を使う大半は、お客さま対応に割かれていました。

「電話じゃなくてもメールフォームがあります、SNSツールがあります」とも伝えてきたんです。それでも電話をしたがるお客さまの中には、全てとは言いませんが、当社の商品理解と、コミュニケーションスキルが低い方が多いと感じました。つまり、相手のスキル、引き出しに依存していて、だからこそ電話が魅力的な手段なんです。

しかし、そうしたコミュニケーションを続けていくことで、弊社の製品はよくなるのか、世界で戦っていけるのか。取引先のご担当者さまは30代が主力になってきているなかで、電話好きな人も減っていましたし、それなら電話を無くしても、弊社は潰れないんじゃないかと。

ちょうどオフィスをWeWorkに移転するタイミングだったので、働き方も変えていこうと、対外的には「うちのオーナー社長の意向でこうなりました」と言っていいですよ、ということにしました。社員が本当に言ったか知りませんが(笑)。

実際にお客さまに「電話をなくす」と伝えたところ、どんな反応がきましたか。

「本当になくなるんですか」「本当は裏があるんじゃないですか」「仲の良いお客さん向けの番号があるんじゃないですか」って。2017年12月27日の17時までは電話があったので、電話をなくす意思決定についての質問で、バンバン電話が鳴りましたよ(笑)。

ただ、緊急時で本当にお困りのお客さまもいらっしゃいますから、電話をなくすと同時に、アウトソーシングではありますが、24時間かけられる緊急電話先を用意したんです。そこにかければ、多言語で一次対応が可能になるし、重要度を勘案して、SNSで彼らがエスカレーションしてくれるので、と説明をしていきました。

売り上げが1割ダウンしても、電話をなくすことの総合的メリット

——電話を理由に、取引の停止などはありませんでしたか。

予想の範囲内ではありますが、解約になった企業もありました売り上げとしては全体の1割ダウンです。うちはベンチャーですし、受託企業ですから、当然痛いですよね。ですが、なくして良かったんだと思っています。

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なぜなら、今までは、解約されたその1割のお客さまに30〜40%のサポートコストを費やしていました。でも、その分の時間をシステムの安定化や、疲弊した社員を休ませること新規の合理化に使っていけるんですよ。

例えば、もともとクレーム電話をされなかった大多数の既存顧客さまに対しては、お待たせしている新機能の開発スピードを上げられるメリットがあります。それに、これまで電話対応が仕事だった社員は、空いた時間で新しい製品や、新しいお客さまの開拓、新しいお客さま対応のためのチャットボットを作ることに注力できるからと、モチベーションも上がってます。うちは元々、技術の会社ですからね。

また、会社の電話が鳴ると、社員同士の雑談もヒソヒソと遠慮せざるを得ないじゃないですか。でも、電話が鳴らなくなったので、社員同士の会話が増えました。パワハラのような電話で疲弊して、それを慰めるようなものではなく、本来の生産性を上げるための会話も増えました

営業職も、電話によるクレーム対応や、問題の火消しに時間を割かなくてよくなったので、サービスを売る伝道師として、訪問頻度を上げて、対面でパフォーマンスを出す方向に向かっています。

日本の売り上げは一時的には下がりましたが、今は中国で伸びていて、米国、ヨーロッパの開拓も進んでいます。特にデジタルマーケティング領域では、新規の売り上げは日本だけでなく、海外も見込めるんです。これは顧客である日系グローバル製造業さまのブランドイメージに助けられているわけですが。

電話依存社会の日本が、グローバルに戦っていくには

——「電話をなくす」ことで生まれた意外な変化や、マイナス面はありましたか。

想定外だったのは、営業やカスタマー職ではなく、管理・間接部門系の人たちが困ったこと。電話番号がないと、役所で登録ができないんですよ。インターネット契約や労務士さんとの契約には、電話番号が必要なんです。

例えば、採用をサポートしてくださる会社さんは、いい採用候補者の人が現れたら「いい人いました」って電話で言いたいんですよね。意外にも、電話番号を書く場所があったというか、過度な電話依存社会の日本が見えてきました。

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私は企業に勤めた経験があまりないので、実情は分からないですけど、本音を言うと「電話依存はやばいんじゃないか」と思っています。海外のサービスからも攻撃されて、価格破壊も起こるだろうし、グローバルの合理性を取り入れていかないと、日本の市場だけで生き残っていくのはやっぱり厳しい時代ですよね。

また、最近感じているのは、海外だけでなく日本でも、新卒でベンチャーを目指す人材が増えてきたこと。弊社には東大理系で主席だった新卒社員や、海外のトップ校出身の若手たちがいますけど、彼らの多くは複数の語学ができて、高い専門技術もあり、どこでも働ける自負がある。それでも日本は安全で文化も好き。そういう彼らは企業の大小問わず、グローバル基準とかけ離れている企業を選ばないし、むしろ規模が小さいほうが任される仕事が大きいので好む傾向があります。

まだまだ、優秀な人はまずは大企業に行くと思っている方が多いとは思いますが、ここ数年の動向を見ていると、その選択肢の幅は確かに、大きく変わってきている。だんだんと、弊社のようなITサービスだけでなく、どんな業種でもボーダレスになって来るでしょう。

これからは、日本基準ではなく、グローバル基準で経営も、採用も、そのための制度づくりもトライしていかないと。旧態依然としたやり方では、難しいと思いますね。

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[取材・文] 水玉綾、岡徳之 [撮影] 伊藤圭

"未来を変える"プロジェクトから転載(2019年1月30日公開の記事)

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