フランスとイタリアが「大戦以来」の仲違い。「EUの危機」の背景を読み解く

フランスのマクロン大統領とイタリアのコンテ首相

1月に開催された国際会議に出席したフランスのマクロン大統領(中央)とイタリアのコンテ首相(右端)

REUTERS/Yiannis Kourtoglou

フランスとイタリアの外交関係の悪化が、史上稀に見る事態に差し掛かっている。

2019年2月7日、仏外務省はイタリアのたび重なる内政干渉を理由に駐イタリア大使の召還を発表。「フランスは数カ月前から、再三の糾弾や根拠のない批判、荒唐無稽な主張にさらされてきた」と強い語気の声明を公表している。

大使召還は国交断絶の一歩手前と解釈されることが多いだけに、EU加盟国同士、しかもコア国であるイタリアとフランスの間でそのような事態が起きることはEUにとって危機的かつ経験のない出来事と言える。

今回の動きについても「大戦以降、前例のない事態」と声明文では指摘されており、早晩収束するのかどうか予断を許さない。

大使召還という異常事態

イタリアのポピュリスト政党「五つ星運動」のメンバーら。

イタリアのポピュリスト政党「五つ星運動」のメンバーら。

REUTERS/Remo Casilli

声明自体は具体的な出来事に言及しているわけではない。

しかし、イタリアのポピュリスト政党「五つ星運動」の党首であるディマイオ副首相(兼経済発展相)らがマクロン仏政権に対する抗議デモ「黄色いベスト運動」の幹部と会合を持ち、支持を表明したことなどが原因と目される。

元より移民問題を巡って両国の関係は芳しいものではなかったが、最近では副首相自らが抗議デモ運動のリーダーや欧州議会選挙出馬予定の活動家らと面会してはツイッターなどで支持を表明、果ては集合写真なども公開するなど仏政府を挑発するような言動が目立っていたという経緯がある。

遂にマクロン政権の堪忍袋の緒が切れたというところだろうか。声明文で「意見の相違はさることながら、選挙目的に関係を悪用するのは別の話」と指摘されているように、一連のディマイオ副首相の立ち回りは5月の欧州議会選挙で自身が属するポピュリスト会派が支持を得るためのパフォーマンスとの見方がもっぱらである。

もう1人の副首相で極右政党「同盟」の党首であるサルヴィーニ副首相も1月、仏国民が「ひどい大統領から逃れられる」よう期待するなどと踏み込んだ批判を展開している。

サルヴィーニ副首相はフランスの極右政党「国民連合」のルペン党首と共闘する立場であるため、マクロン政権に強く当たるのは当然の戦略だが、同じ加盟国(しかも第2の大国)に対してこれほどまでに外交上のリスクを取る行為は驚きである。

イタリアのポピュリズムを笑えないフランス

パリであった「黄色いベスト運動」のデモ。

パリであった「黄色いベスト運動」のデモ。

REUTERS/Benoit Tessier

移民問題を巡っては、地中海ルートをたどって入国しようとする移民をイタリア政府が退けていることをフランスが批判。イタリアは自国が全く受けられないにもかかわらずそのようなスタンスを取るフランスに不満を抱いてきた。実際、フランスはイタリアに移民を送還してきた経緯がある。

最近では、伊政府が新年度予算編成を巡って欧州委員会と衝突したことが記憶に新しい。この際、伊政府に対し「合意が成立しないならば制裁を科す」と強い態度に出ていたのが、フランス人で経済・財務・税制担当のモスコビシ欧州委員であった。経済・財務・税制担当の欧州委員は加盟国の予算審査を担うポジションであるため、これはEU官僚として原理原則に則った言動をしているだけである。

だが、問題はその後の展開であった。2018年12月に入ると、母国フランスにおいて反体制デモが激化、これを鎮静化するために燃料税増税の凍結や最低賃金の引き上げ、残業代の非課税などが決定されるという事態に陥った。

その結果、2019年のフランスの財政赤字(対GDP比)は従来の見込みの▲2.8%から▲3.2%へ拡大することになった(▲3.2%は12月、フィリップ仏首相が仏メディアとのインタビューで「▲3.2%に抑えたい」と語ったことに由来している)。

EUにおける財政ルール「安定成長協定(SGP)」は「GDP比▲3.0%」を赤字の天井と規定している。事態を客観的に評価すれば、「フランスは民衆が暴れた結果、民主主義で選んだ議会の財政政策をゆがめ、EUルールに違反した」ということである。

「露骨なダブルスタンダード」にイタリアが反発

2月、欧州議会で演説するイタリアのコンテ首相。

2月、欧州議会で演説するイタリアのコンテ首相。イタリア政府には「ポピュリストはどっちだ」という思いもあるはずだ。

この点、イタリアの財政運営を散々批判してきたモスコビシ欧州委員は、仏議会上院の欧州問題委員会で「欧州のルールは、3%ルールの一時的で限定的な逸脱を禁じていない」と容認の姿勢を示した。

財政収支の基調を律する構造的財政収支や政府債務残高といった尺度で見れば、イタリアは依然としてフランスよりも大分劣悪な財政状態にあるというのも事実である。だが、一貫して欧州委員会から厳しい態度をぶつけられてきた伊政府からすれば、露骨なダブルスタンダード、えこひいき、自国優先といった姿勢に映ったはずである。

ポピュリスト政権と揶揄されてはいるけれども、一応は民主的に選ばれた政府が編成した予算を欧州委員会に拒絶されたイタリアからすれば、「民衆が暴れた結果、財政赤字を拡大したフランスが許されて、なぜ自分達が」という思いはあるだろう。「ポピュリストはどっちだ」という思いもあるはずだ。

現在得られる情報を元にすれば、2018~2019年の財政赤字の仕上がりはイタリアよりもフランスの方が悪くなりそうである(図表1)。

フランス及びイタリアの財政赤字

【図表1】

こうした財政運営を巡るつば迫り合いも、伊政府のフランスに対する強い姿勢の背景にあると推測する。

「敵失のドル高」を招くユーロ圏の体たらく

金融市場から懸念すべき展開は、こうした対立が結果的にポピュリスト勢力の追い風となり、欧州議会選挙で反EU会派が躍進、債券市場が混乱(具体的には問題国の利回りが上昇する)という展開であろう。

実際、今回の大使召還騒動を受けて伊国債の利回りは急騰した(図表2)。

ユーロ圏10年債金利の推移

【図表2】

現時点ではイタリア一国にとどまっているが、ECBが2018年末をもって量的緩和(QE)を停止している状況だけに、外的なショックにユーロ債市場全般が脆弱になっているという事実は忘れない方が良い。

為替市場の観点からは、FRBがはっきりとハト派(弱気)姿勢を強めてきたにもかかわらずドル相場が全く下がってこない背景として、今回の件に限らず、ユーロ圏の政治・経済情勢に「まったく良い所が見当たらない」という現状があると思われる。

為替は常に「相手がある話」だ。ユーロ圏がこの体たらくでは、「敵失のドル高」が漫然と続く可能性もあろう。

政治面では言うべきにあらず、経済面でもイタリアがリセッション入りし、ドイツもこれを辛うじて回避する程度の頼りない状況にある。イタリアの現政権では良識派と目されるコンテ首相は両国間の対立が「直ちに解消」されることを期待すると述べているが、同首相が副首相2名に挟まれてレームダック化していることは周知の通りだ。

欧州議会選挙が近づくに連れて仏伊両国の対立が激化する恐れはやはり否めない。もちろん欧州をウォッチする上ではブレグジット(イギリスのEU離脱)の行方こそが最重要論点であることは間違いないのだが、EU加盟国内部での「仲間割れ」が起きていることも覚えておきたい。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

唐鎌大輔:慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)国際為替部でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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