挫折あり20代にもう一度チャンスを、マルチ、借金、就職失敗でも大丈夫

社員たち

リバースラボに参加する、10代、20代の社員たち。2年間の契約社員として雇用され、トレーニング期間を経て、新たな就職先につなぐ。

提供:3Backs

「四国から東京に出てきて、知り合いが一人もいませんでした。もともと人見知りで友達も少なくて。そんな時、SNSで知り合った人たちから、ネットワークビジネスを紹介されたんです」

ユイトさん(29、仮名)は地元の専門学校を卒業後、19歳の時に上京した。フレンチレストランやホテルなどで料理人として働いた。ただ、給与は手取りでも15万円程度と十分ではなく、「もう少し稼ぎたい」と副業を探していた。

500万円を託したが「ああ、やっぱり」

きっかけはSNSコミュニティのミクシィだった。人見知りのユイトさんもSNSを通じてなら、見知らぬ人とも気さくに話ができた。

ただ、ユイトさんは知り合いがほとんどいなかった。知人のツテをたどって販売網を広げる、日用品全般を扱ったネットワークビジネスを試したものの「全然稼げなかったんです」。

そんな中、社会人サークルのようなものを紹介される。

「なんかよくわからないけど、楽しそうだなって。稼げるとも聞いたので」

そこで「絶対にもうかる投資話」を持ちかけられた。まとまったお金を預ければ、サークルで資産運用することで毎月5%のリターンがあるという。

スマホ

人見知りでもSNSでなら、他人とも話ができた(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

「ちょっとあやしいな」と思いつつも、言われるままに消費者金融4社から500万円を借りた。たしかに2カ月間は5%分の金利が口座に振り込まれたが、3カ月目から振り込みはなかった。

"サークル”の人たちに聞いても、「ちょっと待って」を繰り返されるだけで、最終的には連絡がとれなくなる。

ああ、やっぱりか、と思いました。弁護士に相談してみたのですが、僕、証拠を全然とっていなくて。警察に届けても無駄だと思ってしませんでした」

500万円を取り返すこともできずに、借金だけが残った。踏み倒そうとすら思ったが、自分の状況を、やはりSNSなどで出会った人に相談する中で、紹介されたのが3Backsという会社だった。

借金返していないまま母に会えない

GettyImages-

ユイトさんは故郷の母親に、借金のことは話していなかった(写真はイメージです)。

GettyImages

3Backsは学歴や職歴がなくても、18〜29歳の若手人材を営業職や育成担当として2年間雇うカリキュラム「リバースラボ」を運営している。仕事内容は、3Backsが事業者として請け負う、メディアの新規契約をとることだ。

「2年以内には日本の平均年収420万円」を目標に、給料は固定プラス歩合制。実績に応じた報酬を得ながら、社会人としての基本やビジネススキルを身につけられることをうたっている。同僚と寮生活をしながら、契約獲得の仕事は、在宅の人が多い夜間や土日祝日が主となることが多いという。

これだって当初は、「あやしいと思いました。厳しい仕事だし、ほとんど自分の時間はない、とも言われました」とユイトさんは振り返る。体力的にも精神的にも、覚悟がいるのは目に見えている。即決できなかった。

高知の実家で一人暮らしをする母親にも自由に会いに行けなくなるかもしれない。それでも結局、ユイトさんは入社を決めた。

一番やらなくてはいけないのは、借金の返済。借金を返していない自分のままで、お母さんに会えない

選択肢は他になかった。それが、2017年10月のことだ。

ここで逃げたら一生、このまま

スーツ足

最初はなかなか契約がとれず、何度も辞めようと思った(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

ユイトさんは2019年2月現在、リバースラボでのカリキュラムを終えて、春から新たな職場で働き始めることが決まっている。取材当日も、紺色のスーツをビシっと着こなし、穏やかな話しぶりと自然な笑顔が印象的だった。

しかし、「3Backsに来たころは、人と目をあわせて話すこともできなかった」と、当時を知る同僚たちは言う。

2年前の秋、ユイトさんは関東の6営業所のうち、埼玉の支店に赴任。3Backsの上司に返済計画を一緒に立ててもらい、毎月5万円ずつ給与から返すことになった。

午前中は勤務外の自主トレーニングを行い、昼からは担当エリアの契約獲得に出る。寮に戻るのは深夜になる日も少なくない。

「何度も向いていない、辞めようと思いました」(ユイトさん)

そもそも全く契約がとれない。住人に会うことすらできず、たいていはインターホン越しに断られる。辞めたいと上司に訴えても、「まだ早い。お前は何もしていない」と、取り合ってもらえない。

とにかく毎日出社する、終わったら電話で報告するを徹底させられた。

いつでも帰れる場所ができた

泣き言を繰り返せば、「辞めてしまえ!」と突き放されることもあった。それでも「ここで逃げたら一生このまま、逃げグセがつく」と、踏みとどまった。

変化が訪れたのは「人に相談できるようになってから」と、ユイトさんは振り返る。自分のことを話せるようになり、励まされたり叱咤されたりを繰り返すうちに、契約獲得もついてきた。

2年間は決してなまやさしい日々ではなかったが、リバースラボによって「人として成長できた」と今では思っている。新しい職場でのスタートを前に「いつでも帰れる場所ができました」(ユイトさん)という。

なにごとも続かない「自分に幻滅」

高山

リバースラボに参加した、高山幸一さん。かつては「自分に幻滅していた」と話す。

「ここにいて成長とかあるのかな」

新卒で不動産投資の会社に入った髙山幸一さん(24)が、3Backsのリバースラボに出合ったのは、日々の仕事にモヤモヤしていた頃のことだ。

大学で教員免許を取得し、体育教師を目指していたという髙山さんだが、進路でふと立ち止まる。

「このまま学校の外から出ないで教師になるってどうなんだろう」

教職に進むことを止めて、就職を選んだ。

入社した会社での仕事は1日600〜1000件のテレアポだった。パソコンに向かって、自動でリストの連絡先にかかる電話を、相手がとれば投資話の営業をする。手取りは月額20万円超、新規獲得できれば30万円が上乗せされた。それで日々はこなせたが、悶々としていた。

状況を変えたいと、ネットワークビジネスや仮想通貨、フリマアプリでの転売など稼げる話にあれこれ手を出したが、「そこからさらに勉強を続けるのが面倒くさい、辛いという気持ちがあって、どれも続かず。そんな自分に幻滅していました」と、髙山さんは言う。

2017年10月、3Backsのリバースラボに入社を決めた。もともとひとなつっこい性格も営業向きだったのか、実績を重ね、今では複数の営業担当者をたばねる支店長になっている。

「自分には何もない」からレバレッジ

みうらさん2

3Backs社長の三浦尚記さん。自らも「ドロップアウト人材だった」と話す。

「中卒高卒や中退だったり仕事が続かず転々としていたり、学歴や職歴の乏しい人たちが、運ではなくてここを通れば社会で活躍できる。そんな場をつくりたいのです」

3Backs社長の三浦尚記さん(37)は、リバースラボについてそう話す。

2014年に試験的に立ち上げ、2017年秋から本格的にサービスを開始。現在、70人程度が営業職として実践研修をしている。皆、何らかの挫折経験をもつ18〜29歳の男性だ。2年で“卒業”して、就職支援を出口とするプログラムを経て、就職先が内定したのが前出のユイトさんだ。

三浦社長はリバースラボを「雇用型長期インターンシップ」と位置づけ、人材再生を目的としている。若年無業者やフリーターをミクシィコミュニティやTwitterなどで探し出し、3Backs本社の社員が足を運んで何度も面談を重ね、リバースラボへの参加を勧めているという。

「彼らは向上心がないわけではない。ただ誤った情報に惑わされがちです。仮想通貨を買ったり、一発逆転でYoutuberを目指したり、情報商材やマルチ商法にはまったり。なぜなら、学校中退や無職で自分に何もないので、レバレッジを効かせたいと考えるからです」

みうら

多くのそんな10代、20代を見てきた三浦さんは言う。

彼らはゼロに10や100を掛けようとしているが、それではゼロでしかない。まず、1を積み重ねる経験をする必要があると話しています

その「1」が生活を整えるための寮生活だったり、メディアの新規契約をとる業務だったり、あいさつや会話の仕方から教える研修だったりするわけだ。

社労士とやりとりを重ね、休日を確保し過重労働は防いでる。とはいえ、時には深夜まで自主トレーニングをしたり寮生活がデフォルトだったりと、3Backsのやり方は一見、スパルタ式にも思える。

ただ、そうした指摘に対し三浦社長は「初めは生活習慣やコミュニケーションの基本すらできていないケースが多い。彼らには、まずは生活を整え、きつい局面を乗り越える体験が必要なのです」と説明する。

メディアの新規契約の受託事業が売り上げになるビジネスモデルだが、挫折経験のある若手をビジネスパーソンに育てる過程はものすごく手がかかる。

消費者金融はじめ親や友達から数千万円の借金を抱えている人もいる。嘘やごまかしを繰り返し、辞めグセがついてしまっている人も。その「ダメな自分」と向き合わせるところからやらなくてはならない。

そこまでして、三浦さんがやる理由は何なのか。

自分もサボることばかり考えていた

自分自身が、ダメダメだったから、彼らの気持ちがよくわかるんです。10代はサボることばかり考えていました

大学は1年目で中退し、大手企業の工場のラインで働くが3カ月で辞めた。親が見兼ねて紹介したオフィス機器メーカーの営業の仕事も、半年で放り出した。浄水器の訪問販売の仕事を請け負うが、在庫を抱えて300万円の借金をつくる。

見よう見まねで営業スキームをつくり、営業成績でその会社の全国トップを叩き出し、借金を返済した後は、2000年代前半のITバブルに乗って起業。父親の建設会社の後継、オンラインアパレル企業の立ち上げと、事業の経営を続けた経験を持つ。

アパレルEC事業が競合の躍進で陰りをみせた2010年代半ば。今までの自分自身が歩んできた道を振り返り、若者の人材再生プロジェクトを立ち上げようと決めたのが、リバースラボだ。

ブレークスルーするチャンスを与える場

若者

撮影:今村拓馬

これから「日本は究極の人材不足というが、数百万人のフリーターや無業の若者がいます。彼らを活躍できる人材にできれば、外国人労働者を受け入れるより、もっと早い」

三浦さんはリバースラボに賛同してくれる提携先企業を探して、カリキュラムを全国展開するつもりだ。育成した若手人材を、人手不足に悩む企業につなぐ仕組みをつくろうと、大手人材企業と提携を進めている。

既存の人材市場では、こぼれ落ちてしまう層にあえて切り込んでいくのはなぜか。

変わりたいともがく彼らに必要なのは、「自分と向き合う辛い体験を超えてブレークスルーする、そのチャンスを与えてくれる場」(三浦さん)だと信じているからだ。

この春から新しい職場でのスタートを切るという冒頭のユイトさんは、2018年の年末、高知県の実家の母親を訪ねた。

借金を抱えてから、初めてのことだったという。

(文・滝川麻衣子、写真・竹井俊晴)

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