カナダのオートショーに登場した、テスラのModel3。新たな境地を開拓するか。
Reuters/Chris Helgren
Q. 350万円で買える電気自動車・テスラModel 3の粗利益率は?
A. 20%以上を維持。目標は25%。
今回は、少し前までは大きな赤字が問題になっていた、テスラの記事を書いてみたいと思います。
2018年10月から12月期の決算を、詳しく見ていきましょう。
Tesla Fourth Quarter & Full Year 2018 Updateテスラの最大の焦点は、廉価版のセダンであるModel 3の売上にかかっています。
Model 3はアメリカでは既に発売されていますが、当初アナウンスされた$35,000(約350万円)という価格の、一番安いモデルは未だに発売されていません。
現在発売されている中で最も安いモデルは、中規模のバッテリーが搭載されたモデルで、ベース価格が$44,000(約440万円)となっています。
実際には、このベース価格にオプションなどを追加していくことになるので、もっと高くなります。
当初アナウンスされていた$35,000(約350万円)のモデルが発売されない理由としては、十分なマージンが確保できる体制になっていないのではないかと言う推測がなされていますが、実際のところ、現在のModel 3の粗利益率はどの程度なのでしょうか。
Model 3 gross margin stayed flat compared to Q3, remaining above 20% despite the headwinds described above. The mix of the Performance versions of Model 3 remained only slightly above the percentage mix of Performance versions of Model S and X.
現在発売されている、中規模バッテリーと大規模バッテリーを搭載したModel 3の粗利益率は20%を超えており、Model SやModel Xと、ほぼ同程度の粗利益率が確保出来ていると発表されています。
We continue to target a 25% Model 3 non-GAAP gross margin at some point in 2019.
さらに、2019年中に、Model 3の粗利益率を25%に到達させたいとも書かれています。
つまり、粗利益率という点では、Model 3は十分利益が確保できる体制になりつつあるとも言えるのではないでしょうか。
ちなみに、現時点でのTeslaの営業利益率ですが、約5%となっており、他の高級車メーカーであるBMWやアウディなどと、ほぼ同程度となっています。
テスラはいつになったら利益が出るのかと、皆に心配されていましたが、最近ではModel 3の販売が加速していることもあり、利益率という点では他の高級自動車メーカーに見劣りしないレベルに、既になっているとも言えます。
Model 3は年間50万台ペースへ
テスラは2018年にModel 3の量産体制を確保することが出来、2018年の1年間で13万台以上のModel 3を納車したことになります。この数字はアメリカの高級車としては最も大きい数字で、いつのまにかテスラはアメリカで最大の高級車自動車メーカーになりました。
2019年は、1週間あたりの製造台数目標を7000台と定めています。
また、新たに開業する中国上海におけるModel 3の製造も、1週間あたり3000台を見込んでおり、合計で1週間あたり1万台の製造ができるようにするという目標を掲げています。
2019年の第4四半期から2020年の第2四半期にかけて、年換算した製造台数を50万台まで引き上げたいと発表されています。
営業キャッシュフローは$1.23B(約1,230億円)の黒字
PL上は黒字になっていても、テスラのように大きな借入があると、その金利だけでキャッシュフローが厳しくなる場合もあるわけですが、テスラのキャッシュフローはどの程度になっているのでしょうか。
決算資料に書かれている内容を抜粋すると、以下のようになります。
・2018年の10月から12月期で$230M(約230億円)の返済を行ったにも関わらず、現金が$718m(約718億円)増えている・営業キャッシュフローは$1.23B(約1,230億円)の黒字
PLだけではなく、キャッシュフローの面でもテスラはすでに黒字になっており、新たな資金調達がなくても会社が存続可能な状態になっていると言えます。
Model 3の約80万台分のデポジット(前払金)
Customer deposits decreased sequentially by $113 million in Q4 to $793 million as we continue to work through our Model 3 backlog.
テスラは、クラウドファンディングのように予約金を預かって、予約した人から順番に優先的に新車を販売する形態を取っていますが、顧客からの前払金デポジットは、2018年10月から12月の3ヶ月間において$113M(約113億円)減って、$793M(約793億円)となっています。
大半がModel 3の予約金だと考えられますが、仮に全てがModel 3の予約金だとすると、Model 3を予約するためには$1,000(約10万円)のデポジットが必要であるため、現時点で約80万台分のデポジットが残っていることになります。
予約金を支払った人の全員がModel 3を購入するわけではないとは思いますが、まだまだ十分販売する余地が残っているとも言えるのではないでしょうか。
誰がModel 3を買っているのか?
一つ面白いデータが決算資料に載っていたので、紹介したいと思います。
Model 3を購入する人は、その直前まで一体どのような車に乗っていたのでしょうか。
興味深いことに、直前までModel 3と同じような中規模の高級セダンに乗っていた人はたったの17%(グラフ中Mid-sizedのうちPremium)だったというデータが、このグラフから読み取れます。
さらに興味深いのは、約60%のModel 3購入者は、直前まで高級車に乗っていませんでした。
このグラフから読み取れるのは、直前まで SUV などの大きな車に乗っていた人が、ダウンサイズをしてModel 3を購入しているという事実です。
Model 3は他のセダンと比べて、インテリアスペースが非常に大きく設計されているため、このように車をダウンサイズしてまで購入したい人がたくさんいる、ということなのではないでしょうか。
グラフの赤い部分になりますが、Model SからModel 3に買い換えた人はたったの4%しかいなかったという事実も、非常に興味深いと言えるでしょう。
テスラは2019年中に、廉価版のSUV、Model Yを発表するとも言われており、Model 3に引き続き、より大衆にアピールできる体制が整ってきたとも言えます。
今までのテスラは非常に高価な車をだけを販売する会社でしたが、Model 3やModel Yの登場によって、より多くの人にとって魅力的な車を製造できる会社になりつつあります。
今後もテスラの動向を見守っていきたいと思います。
シバタナオキ:SearchMan共同創業者。2009年、東京大学工学系研究科博士課程修了。楽天執行役員、東京大学工学系研究科助教、2009年からスタンフォード大学客員研究員。2011年にシリコンバレーでSearchManを創業。noteで「決算が読めるようになるノート」を連載中
決算が読めるようになるノートより転載(2019年2月18日公開の記事)