ミレニアル世代にはぜひとも見てほしいドラマ「ゾンビが来たから人生見つめ直した件」。
出典:NHKホームページより編集部がキャプチャ
Business Insider Japanをご覧のミレニアル世代のみなさま、「ゾンビが来たから人生見つめ直した件」(NHK)というドラマ、見てますかー?
って、こういう呼びかけ方も昭和的かもしれないと思いつつ、つい呼びかけてしまったのにはワケが。
NHKオンラインの、このドラマのページの、「ドラマのみどころ」のところを見ていただきたい。
ある地方都市でゾンビが大量発生!立ち向かうのはアラサー女子とその仲間たち!(略)現代日本の諸問題をあぶりだす社会派ブラックコメディー。(略)新しい価値観を持つミレニアル世代に向けて、完全オリジナルのジャパニーズ・ゾンビドラマです!
安全運転ではない気概のあるドラマ
ターゲットはミレニアル世代。彼らの心をつかむ秘訣とは......?
NHKホームページより編集部がキャプチャ
そう、制作側が「ミレニアル世代」がターゲットだとはっきり宣言しているのだ。そして、ミレニアル世代でない私が見ても、実におもしろい。1月スタートのドラマの中で、圧倒的ナンバーワン!おすすめ!
私のことを少し書くと、ヒカキンという人がイケてるユーチューバーだとは存じあげているものの、「ヒカキン」の発音が「タイトル」みたいに最初にアクセントを持ってくるのか、「ケータイ」みたいに平板な感じなのか、その点については存じあげない。それくらいイマドキとは距離があり、その代わりというのもなんだが、幼少時からの習慣そのままに、あれこれドラマを視聴する。そしてしみじみ、我が世代、ターゲットされていると思う。
西島秀俊ってカッコいいよね、しばらく見てないぞ、と思うと「メゾン・ド・ポリス」(TBS系)が始まる。高畑充希演じる巡査部長をちょっとオラオラな感じで助けていく元捜査一課主任。嫌いな設定ではない。「原作あり」も安心材料。で、見る。結果、びっくりもしないががっかりもしない。
アラ還世代を相手にすれば、そこそこの数字が取れて、安全運転。そう制作側が思うからだろう、テレビの中には医者と刑事と弁護士ばかりが増殖している。と、こちらもわかっていた。でも見てしまう。痛し痒し。と思っていたら、気概ある制作者がいた。
「私には『何もない』だけがある」
鉄板の医者と刑事と弁護士ドラマが多いのは、アラ還世代が安心するから?
出典:TBSホームページより編集部がキャプチャ
それが「ゾンビが来たから人生見つめ直した件」(以後、「ゾンみつ」と略す。発音は「壇蜜」風に)制作陣。ミレニアル世代の心をつかむためにどうするか。実にシンプルな回答で臨んでいる。
まずはオリジナルでおもしろい脚本、そしてちゃんとメッセージがあること。その2つがなければ話にならないよね、ってことで櫻井智也という舞台育ちの脚本家を抜擢した。彼にとって初めての連ドラだそうだが、実に巧み。タイトル通り、ゾンビをきっかけに「人生」を見つめ直す人々が次々と心情を吐露する。笑えるけど、身につまされる。
私は初回を何気なく見て、ヒロインみずほの「この街と同じように、私には『何もない』だけがある」という台詞にドキッとし、次にみずほと一緒に暮らす同級生(美佐江と柚木)の「ねー、コンプライアンスって知ってる?」「おめでとう?」のやりとりで爆笑した。美佐江がしっかり者で、柚木がおバカキャラ(それだけでないことは、すぐにわかるが)。みずほは冷静すぎるキャラで、すぐに「コングラチュレーション」と訂正する。
本質を突く会話。小技が効いた会話。どちらも入れながら、ドラマもちゃんと「え、そうなの?」が積み重なる。
まずは初回で、みずほの夫の浮気相手が美佐江だとわかる。この時すでにゾンビが街に増殖していて、2回目で結局、彼もゾンビになってしまい、ゾンビになりながら、美佐江に「また行こう」とさまざまな場所を口にする。「行こうね、全部、私が行ったことないところだけど」と美佐江。
考えさせ励まして30分
撮影:今村拓馬
それはみずほとのデートで行った場所らしく、みずほの心の声が、「曖昧で良かったのに、はっきりすべきははっきりしてしまった世界で、相変わらず曖昧な私がいる」と入る。みずほ(石橋菜津美)と柚木(土村芳)と美佐江(瀧内公美)の気持ちが、三者三様ながら共感ポイントばかりだ。
もう1人、彼女たちと関係なく登場しているのが、街のユーチューバー「尾崎乏しい」。名前からしてパッとしない彼もゾンビになることなく、街に出て映像を撮り、アップする。Twitterは反映されない、固定電話はつながる、警察は空っぽで、国道県道は防護服の男たちに封鎖されている、と説明する。
「どーも、尾崎乏しいでーす。この街は、世間の認識からはぐれちゃったような状況なんだよね」と語っていたのが6回目までオンエアされ、彼と謎のピザ屋(説明省略)はゾンビの核心に近づきつつあるようだ。命が危ないっぽい彼ら、なんとなく変質しているらしいゾンビ。これはもう、どうなることか目が離せない!
もう1人、ゾンビになっていないのがスナックのママで、これがなんと葛城ユキ。「ボヘミアーン」なんて彼女の歌をミレニアル世代のみなさんは多分ご存じないだろうけれど、ユキ姐が主人公3人&その家族や恋人たちに「明日のあんたたちがあんたたちでいなくちゃなんないなら、無理やり奮い立たせてでも、前を向かなきゃなんないんじゃないのかい」などと啖呵を切る。ウンウンと頷く私。考えさせて励まして、それなのに「ゾンみつ」毎回たった30分。すごい!
「変わろう」「自分の頭で考えろ」…
で、このドラマと実に重なるなあ、と思っているのが、「3年A組 今から皆さんは、人質です」(日本テレビ系)。こちらは高視聴率でも話題になっているが、制作者は若い世代を意識しているに違いないと思う。
高視聴率で話題のドラマ「3年A組」。「ゾンみつ」との共通点は?
出典:日本テレビホームページ
卒業間際の高校3年A組で、美術教師(菅田将暉)が生徒全員を人質に立てこもる。水泳部の全国優勝選手(上白石萌歌)がなぜ半年前に自殺したのか、それを明らかにするため、「授業をしまーす」。
という設定で、菅田が毎回、生徒たちに熱弁をふるう。その熱さは「ゾンみつ」とはまるで真逆なのだが、でも共通点が多い。まずオリジナル脚本(武藤将吾)であること。菅田が生徒たちに「変わろう」「自分の頭で考えろ」「他人のことを想像せよ」とメッセージし続けること。そして、彼女を追い詰めた犯人探しが次々と転がり、目が離せないこと。要はよくできた脚本なのだ。
さらに、「ゾンみつ」でYouTubeが大切な役割を果たすように、「3年A組」もSNSが大きな役割を果たしている。ただしこちらは「マインドボイス」なる架空のアプリをみんなが使うという設定で、他に「元文部文化大臣」なる悪そうな人が出てきたりする。「Twitter」やら「文部科学省」やらに忖度しすぎなのでは、と思うけれど、まあ、民放だからしょうがないのかな。
というわけで、ミレニアル世代のみなさーん、このふたつのドラマ、ぜひ見てみてくださいねー。
矢部万紀子(やべ・まきこ):1961年生まれ。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、「AERA」や経済部、「週刊朝日」などに所属。「週刊朝日」で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長を務めた後、2011年退社。シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に退社し、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』。最新刊に『美智子さまという奇跡』。