メルペイの事業戦略発表会「MERPAY CONFERENCE 2019」が2月20日に開催。長らく謎のベールに包まれていたメルペイの全貌が見えてきた。
- メルペイはiDの非接触決済、中小規模店舗向けのコード決済のどちらもサポート
- アプリ利用で加盟店にかかる手数料は1.5%の決済手数料のみ
- 後発サービスながらも他社との幅広い提携で、長所を活かし、短所を埋めている
メルカリの決済子会社メルペイは2月20日、同社初となる戦略発表会「MERPAY CONFERENCE 2019」を東京・渋谷で開催。フリマアプリのメルカリとメルペイの関係、メルペイ自身の詳細やビジョンについて発表した。
メルペイ社長の青柳直樹氏。
同社は2月13日、iPhone向けに「iD」ブランドの非接触決済機能(Apple Pay)を公開しているが、20日の発表会ではAndroid向け施策や、両OSに対応したQRコード支払いについても言及。
発表会でメルペイ社長の青柳直樹氏は「(モバイル決済は)まだまだ普及していないというのが現状である」と、昨今追い風の吹いている日本のキャッシュレス業界を振り返り、「使える、使われる決済を目指す」と意気込みを語った。
そんなメルペイの今回明らかになった特徴とは何なのか、4つの視点に分けてチェックしてみよう。
1. 全国約90万カ所で使える「iD」をiPhoneとAndroidで
メルペイはすでにiPhone向けにApple Payでの「iD」決済を実現している。
まずは、メルペイが提供する決済方法の1つ「非接触決済」について見てみよう。
先述の通り、同社はすでにiPhone向けにはApple Payを通した「iD」ブランドでの決済機能を提供している。そして今回、Android向けにも2月末から3月初旬までに、iPhone向けと同じく「iD」での非接触決済をサポートすると発表した。
おサイフケータイ対応のAndroid向けにも「iD」機能を提供予定。
これらの機能は、メルペイと三井住友カードとの提携により実現している。メルペイはiDを採用することで、対応端末はある程度限られるものの、ローンチ直後から全国約90万カ所ある既存のiD加盟店を利用できるようにした。「ユーザーに使われる決済」を目指すメルペイにとっては、自社で開拓した少ない加盟店での利用をアピールするより、ユーザーの印象のいいスタートを切れた格好だ。
メルペイと三井住友カードは非接触決済領域において提携関係にある。
ちなみに、iDはApple Payではキャリアフリーのサービスとして利用できるが、2月20日時点でおサイフケータイ対応のAndroid端末については、au端末だけ利用できない仕組みになっている。しかし、青柳氏はAndroid版メルペイでも「NTTドコモ、au、ソフトバンク、MVNOユーザーが利用可能になる見通し」と話しており、au端末でも問題なくiD決済が利用できると明言した。
2. 当初約45万カ所で使えるコード決済
メルペイは、非接触決済対応端末を入れにくい中小企業向けにコード決済も提供する。
続いては、日本では乱立と言える状況になっているコード決済の領域について見てみよう。メルペイは、3月中旬よりQRコードとバーコードによるコード決済サービスの提供すると発表した。
メルペイのコード決済が使える店舗はローンチ当初は約45万カ所となる見込みで、加盟店の中には現在コード決済ではOrigami Payにのみ対応する「吉野家」や、現在コード決済を導入していない「串カツ田中」「フレッシュネスバーガー」など、意外な顔ぶれもそろっている。
非接触決済が可能な約90万カ所と合わせると、予定されるメルペイ利用可能店舗の数は約135万カ所となる見込みだが、青柳氏は「年内には200万カ所」と加盟店の拡大について語った。
メルペイが今後使えるようになる店の一覧。
では、どのように加盟店開拓を行っていくのか。メルペイは2つの方向性を明らかにしている。
1つ目は、メルカリ内にたまった購買データの活用だ。メルカリでよく取り引きされている場所やブランドを中心に営業を行い、無闇に加盟店数を増やすのではなく、メルカリ利用者=メルペイユーザーにとって真に相性のいい加盟店を増やしていこうというわけだ。
2つ目は、これも他社との協力だ。QRコード決済については、JCBとKDDIとの提携が発表された。JCBは同日に発表したバーコード決済スキーム「Smart Code」を発表。メルペイはこのSmart Codeに参画する予定で、JCBが既に持っているクレジットカードの契約網を活用して今後開拓するSmart Code加盟店でメルペイが利用できるようになる。
KDDIのau PAYとメルペイは、加盟店獲得のための営業活動を協力して行う。
また、KDDIとは営業面での提携を発表。KDDIは「au PAY」として4月に独自のコード決済をリリースする旨を明らかにしているが、KDDIとメルペイが今後、中小規模の加盟店に営業をかける際はau PAYとメルペイの両サービスを提案していくとしている。
メルペイとしては、加盟店拡大のネックはやはり物理的な営業力だ。すでに営業ノウハウとリソースを持っているKDDIと組むことはかなり合理的な決断だと言えるだろう。
3. 「ネット決済」と「あと払い決済」にも対応
将来的に提供されるネット決済版メルペイの特徴。ネットで買った商品を、ワンタップで出品できるようにする構想がある。
発表会の後半では、メルカリらしい今後提供予定のプロダクトも発表された。それが「ネット決済への対応」と「メルペイあと払い」だ。
「ネット決済への対応」は、他社のECサイトなどでメルペイを利用できるようにする仕組みで、競合の「Amazon Pay」や「LINE Pay」「楽天ペイ」などではすでに実現している機能。
メルペイならではの点として、メルペイのネット決済で購入した商品をワンタップでメルカリに出品できるようにする仕組みを検討しているという。なお、ネット決済およびワンタップ出品の提供時期は現状では未定だ。
メルカリでも2017年から導入されているあと払いの仕組みを、メルペイにも導入する。
「メルペイあと払い」は、その名のとおりメルペイで使った金額を後日まとめて支払う仕組みだ。メルカリ内の機能としては「メルカリ月イチ払い」としてすでに同様の仕組みが存在するが、今後この機能をアップデートする。
提供時期は2019年春頃。あと払いの上限額などの詳細は定められていないが、メルカリ内の取り引きや購買データとの連携が発表されているため、それらから算出される「ユーザーの信用度」によって利用可能枠は前後していくだろう。
4. 加盟店には永年1.5%の決済手数料を約束
メルペイは、月間アクティブユーザー(MAU)1200万人というメルカリアプリで利用できる。
ここまではどちらかと言えば、ユーザー向けの特徴だ。しかし、他の多くのキャッシュレス決済事業者が主張しているとおり、キャッシュレスサービスはユーザーの利便性を高めただけでは浸透しない。加盟店側のメリットも重要となる。
メルペイの執行役員である山本真人氏が挙げたメルペイならではの強みは以下の4つだ。
- 月間アクティブユーザー1200万人超のメルカリユーザーがそのままメルペイユーザーになること
- メルカリユーザーの売上金の合計額は5000億円以上。言わば臨時収入であるこのお金を使おうとするユーザーは、これまでの決済サービスにはないポテンシャルを持っている
- ユーザーがどこに、どれだけいるかといったメルカリが持つ統計データを利用できる。クーポンなどのマーケティング施策はもちろん、商品開発などにも活用できる
- メルペイの店舗用アプリを使った場合、初期導入費用と固定費用は無料。決済手数料は永年1.5%
コード決済をメルペイの店舗用アプリで導入した場合、初期費用などはかからず、決済手数料も永年1.5%となる。
加盟店にとってはとくに「1.5%の決済手数料」「メルカリの統計データの活用」は非常に大きな魅力として映るだろう。とくに、決済手数料については、期間限定で無料にしている競合他社が多いが、加盟店側からしてみれば無料期間終了後の手数料が気になっても不思議ではない。そこでメルペイは「永年1.5%」とすることで、一種の安心を加盟店側に提供しようというわけだ。
後発だからこその「したたかな」立ち回り
乱立するキャッシュレス決済サービス。メルペイが取るポジションは?
今回のメルペイの発表会取材を終えて、筆者が感じたのはメルカリとメルペイの「後発ながらのしたたかさ」だ。
非接触決済では確かにiOSとAndroidの両OSに対応しているサービスは他にないが、コード決済やあと払い、自社プラットフォームで蓄積したビッグデータの活用などは他社もすでに取り組んでいる。
しかし、メルペイは後発だからこそ、他の企業とうまく連携を行い営業力などの自社の弱点を埋め、長所を伸ばしている。最初から決済手数料を低く抑えたり、加盟店数の少ないQRコードではなくすでに多くの加盟店を持つiDと組んだことがその代表例だ。
オープンで中立性のある決済サービスを目指すとしたメルペイ。他の決済事業者とのパートナーシップも視野に入れて展開していくとしている。
「●●Pay」というサービスが雨後のタケノコのように増えている昨今の日本のキャッシュレス環境で、青柳氏の「メルペイは中立性を保ち、オープンな立場の決済サービスを目指す」というメッセージもその印象を強めた。
メルペイのこうした戦略がいかにユーザーと各店舗に受け入れられるか、またこれに触発される他の決済事業者の動きから今後も目が離せない。
(文、撮影・小林優多郎)