日米の自動車関税交渉は5月にヤマ場?今後の展開はこうなる

アメリカの港に停められているたくさんの輸入車

アメリカの港に停められている輸入車。日本からの輸入車への追加関税が現実化すれば、日本経済に大きな影響を与える可能性がある。

REUTERS/Eduardo Munoz

2019年2月17日、米商務省は、通商拡大法232条に基づく自動車関税に関する報告書をトランプ大統領に提出した。その詳細は未公表とされているが、恐らくは「追加関税が妥当」との内容が含まれているとの見方が多い。

全輸入車に対して最高25%の関税を検討するほか、電気自動車に代表される先進技術を使った自動車部品も対象とされる可能性がある。報告書の内容もさることながら、市場の注目はこの報告書を受けたトランプ米大統領の挙動にある。

注目の日付は「5月18日」と「6月2日」

トランプ米大統領。

トランプ米大統領の挙動に注目が集まる。

REUTERS/Carlos Barria

法律によれば、大統領は報告書提出から「90日以内」に内容を精査した上で、報告書の勧告する措置に関して最終決定する必要がある。その上で大統領による最終決定から「15日以内」にその措置が実施に至ることが法律で求められている。

この「90日」と「15日」は具体的にいつを指すのか。「2月17日」の90日後は5月18日、そこから15日後は6月2日である。

5月までに何らかの大きな動きがあると想定し、構えておく方が無難であろう。とりわけ、自動車はEUと日本にとって神経質な品目であるため、両者の現在の立ち位置も今後を見据える上では重要な論点とならざるを得ない。

もちろん、報告書の内容を吟味した上でトランプ大統領が「輸入自動車への追加関税は課さない」と決断する可能性もないわけではない。

だが、その場合、巨大な対米貿易黒字を有するEUないし日本に対する最大にして最強のカードでもある輸入自動車関税を、自ら放棄することになる。

2月15日、トランプ大統領は「私は関税が好きだが、相手国が交渉に応じることも好きだ」と述べているが、まさにこの発言に大統領の本心が出ている。

関税は産業保護のみならず、相手から譲歩を引き出すためのカードなのであり、自ら完全に放棄することは戦略上ありえないはずだ。

ゆえに、ここではとりあえず、「輸入自動車への追加関税を決断する」ことを前提に思索をめぐらせてみたい。

なお、報告書提出を受けて米自動車部品工業会(MEMA)は、鉄鋼・アルミ、中国製自動車部品への追加関税などが実施されている中で自動車関税を発動すれば、アメリカへの投資縮小を招くと警鐘を鳴らしている。こうした声がトランプ大統領にどのように届くのかは定かではないが。

「約束」が反故に?身構える日欧

2018年7月に行われたユンケル欧州委員長とトランプ米大統領の会談。

2018年7月、ユンケル欧州委員長(左)とトランプ米大統領が会談。その際、当面は自動車への追加関税などは留保するとの判断が下された。

REUTERS/Joshua Roberts

報告書提出を受けたEUと日本の反応は酷似している。

提出の翌日となる2月18日、ユンケル欧州委員長は独紙とのインタビューにおいて「トランプ氏は自動車関税を当面課さないと私に語った。これは信頼できる約束だと考えている」と述べた。

さらに、ユンケル委員長は、もしアメリカが欧州車に追加関税を課せば、EUは直ちに報復措置を取ると続けており、アメリカからの大豆や液化天然ガス(LNG)の輸入を拡大する合意を遵守する義務はないとの考えも示している。

ここで過去をおさらいしておく必要があるだろう。

2018年7月、ユンケル委員長とトランプ大統領は会談を持ち、自動車を除く工業製品の関税撤廃や、アメリカ産の大豆やLNGの対EU輸出拡大に向けて交渉を始めることで合意し、声明も出した経緯がある。その際、「交渉中は今回の合意の精神に反したことはしない」という約束も付されており、自動車への追加関税などは留保するとの判断が下された。

しかし、今回の報告書提出を受け、ここまでユンケル委員長が予防線を張るということは、米EU通商協議がキーと目される「5月18日」までに何らかの合意に至る道筋が、今のところほとんど見えていないということの証左なのだと推測される。協議進展に不安があるからこその発言であろう。

日本も全く同様の事態に陥っている。

2月19日の閣議後会見で、茂木経済再生相は報告書について「報道で承知しているが、内容を明らかにしていないのでコメントは控えたい」と述べた上で、日米両首脳が2018年9月の共同文書で「協議の間、声明の精神に反する行動を取らない」と合意した点をやはり指摘している。

茂木経済再生相の言う通り「交渉中は追加関税が課されないことは、安倍晋三首相からトランプ大統領に確認し明確になっている」のが客観的な事実であろう。

要するに、日欧ともに「話し合っている途中で追加関税を仕掛けられることはない。そう約束したのだから」という基本姿勢であるのだが、同時に「5月18日」までに対EU、対日本で米国の納得のいく通商協定が合意されず、約束が反故にされる可能性を不安に思っている状況でもある。

優先順位は「EUより日本」

2019年1月2日に皇居であった新年恒例の一般参賀。

2019年1月2日に皇居であった新年恒例の一般参賀。5月に即位する新天皇に初めて謁見する国賓としてトランプ大統領が想定されており、同じ時期に日米首脳会談が開かれる予定だ。

REUTERS/Issei Kato

現状のところ、「5月18日」までに対EU、対日本で、アメリカの納得のいく通商協定が合意される可能性が高いとは言えない。

米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表を筆頭とする米国の通商当局者は対中協議に忙殺されており、それ以外の交渉に時間と人員を割けないと言われている。それは恐らく事実なのだろう。

一部報道によれば、対中協議は注目される3月1日の期限には間に合わず、2か月間の延長が検討されているという。そうなれば4月末まで、通商当局者は再び対中協議に拘束されることなる。

そこで決着がついたとしても、5月に入ってから(18日までの)3週間弱で対EU、対日本との交渉がまとまるだろうか。あまり現実的な想定ではあるまい。

3月1日までに対中協議がとりあえず落ち着きをみせた場合(合意もしくは90日以上の大幅延長などに至った場合)、2月27・28日の米朝首脳会談を済ませたトランプ政権は「5月18日」を念頭に、いよいよ対EU、対日本との通商協議を検討し始めるだろう。

しかし、その場合でも協議期間は2か月半しかないため、対EU、対日本のどちらかを優先するしかないのではないか。

この際、恐らく優先されるのは日本ではないかと思われる。改元後、新天皇に初めて謁見する国賓としてトランプ大統領が想定されており、5月26~28日の来日が予定されている。このタイミングで日米首脳会談の開催もあるため、それまでには何らかの協定をまとめておきたいはずだ。

そう考えると、3~5月は日米の物品貿易協定(TAG)交渉がにわかに山場を迎える可能性を念頭に置きたいところである。同交渉に付随してくるであろう「為替条項」の存在は今から懸念されており、とりわけ円相場にとっては重要な局面となる可能性を秘めている。

「先送り」がメーンシナリオだが…

トランプ米大統領(右)と安倍首相。

2018年9月の日米首脳会談。自動車関税問題は2019年5月の会談で決着するのだろうか?

REUTERS/Carlos Barria

もっとも、日本との交渉を優先したとしてもTAG交渉が「5月18日」までに合意に至るのかどうかは定かではないし、間に合ったとしても対EUの通商協定は未締結のまま「5月18日」が到来してしまう(可能性が高い)。

では、どうするか。最もあり得る選択肢は「5月18日に大統領が輸入自動車への課税を決定した上で6月2日から実施する。ただし、EUと日本は協議中なので除外」という展開だろう。

要は先送りに過ぎないのだが、そうした決定は一時的に市場の緊張感を和らげる可能性が高く、為替市場では円安・ドル高が進む可能性が高い。

しかし油断は全くできない。そもそも巨大な対米自動車黒字を有するのはEUと日本であり、これらを対象外とする輸入自動車関税はトランプ大統領の本意とは程遠いはずだ(例えば2017年実績をみた場合、アメリカの乗用車輸入のうち、日本が20%程度、ドイツが10%程度を占める)。

輸入車への追加関税を留保した分、二国間協議の場においてそれを補って余りある要求を突きつけられる可能性を心配したい。重要なことは、輸入自動車への追加関税という「EUや日本が特に困りそうなカードをトランプ大統領が使わないはずがない」という事実であり、この見送りを認める代わりにアメリカ産品の輸入拡大を迫る展開がベースラインとして想定されるはずである。

過去の教訓を踏まえれば、そうした貿易「量」の交渉が難航すると、米国は「価格」での調整に戦略を切り替えてくる公算が大きい。

貿易収支上、「価格」に影響を与えるのは関税もしくは為替である。とりわけ技術的・政治的な調整が必要になる関税に比べ、為替は基軸通貨国ならではの即効性を持つ手段である。日本としては、円高をもたらす「為替を介した調整」だけは避けたいところであろう。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。


唐鎌大輔:慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)国際為替部でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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