専業主婦の家事労働を給料に換算するといくらになるのか?
ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」で話題になった家事の経済的価値だが…。
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2016年に大ヒットしたテレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の中で、実際に夫が妻に給料を渡す生活が描かれたことから、家事の経済的価値について大いに話題になった。
ドラマでは、夫である平匡から妻であるみくりに支払う「月給」を、当時の政府の報告書(*1)に基づき、家事の時給を1383円として1カ月140時間の家事の対価を「19万4000円」(≒1383円×140時間)と算出していた。
*1:内閣府経済社会総合研究所 国民経済計算部 地域・特定勘定課「家事活動等の評価について -2011 年データによる再推計-」(平成25年6月)
その後、2018年12月に政府の報告書は更新され(*2)、家事の時給は1450円に上昇している。
*2:内閣府経済社会総合研究所 国民経済計算部 地域・特定勘定課「無償労働の貨幣評価」(平成30年12月)
最新の試算に基づくと、1カ月140時間の家事を行う専業主婦の月給相当額は、「20万3000円」(=1450円×140時間)ということになる。
女性の平均時給アップで家事の時給もアップ
家事に時間を割くことで、外で働いていれば得られたはずの賃金を失うと考えると…。
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なぜ、家事の時給が改定されるのか?
それは、家事の時給を「機会費用法」で算出しているからだ。家事をすればその時間は仕事をすることができないので、外で働けば得られるはずの1時間当たりの賃金を「機会費用」として家事の時給とみなすのである。
機会費用とは:経済学の用語で、現実に支払った費用ではなく、「機会」を失ったことで得られなくなった収入金額のこと。
直近5年間で女性活躍は進み、日本人女性の平均時給は1383円から1450円にアップした(ここでいう時給とは、月給制の人も含めた1時間当たりの賃金のこと)ため、機会費用法で計算する家事の時給も1383円から1450円にアップしたのだ。
家事や育児の経済的価値について機会費用法で金銭換算できるのは、専業主婦に限った話ではない。現在働いている女性(または男性)の家事や育児を金銭換算する場合は、自分自身の「時給」を使って計算するのが妥当だろう。
ふだん「月給」や「ボーナス」をもらっている正社員が時給を意識することはあまりないだろうが、年収を年間労働時間で割って時給を計算すると案外高額になることに気付くはずだ。正社員の労働時間は平均年間2000時間ほどなので、例えば年収500万円の会社員の場合、時給換算ではおおよそ2500円となる。
ドラマではないのだから、実際には時給2500円の人が家事育児を1時間したところで、誰かから2500円をもらえることはない。だが、家事や育児の金銭換算値として使うと、収入と家事育児を同じ基準で比べることができる。
夫婦の年収差と家事分担どう考える?
家事分担はどう決めればいいのか。
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夫婦の間で年収の差がある場合、家事育児の分担につきどの程度の差があるべきかが夫婦で争いになる。
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そこで、家庭運営への貢献を「手取り収入を家計に入れること」と「家事育児をすること」の両方からなるものとし、夫婦それぞれの「家計に入れる手取り収入と家事育児の金銭価値の合計額」を比較すると、適切な分担のあり方が見えてくるのではないだろうか。
例えば、子どもができるまではほぼ年収が均衡していたが、子どもが生まれた後に妻だけが短時間勤務をしたため夫婦の年収差が生じるケースはミレニアル世代に多い。このケースにおいて夫婦のあるべき家事育児時間の差は、どのように計算できるだろうか。
短時間勤務を利用しても勤務時間に比例して年収が減るだけなので、時給が減るわけではない。時給が夫婦でほぼ同じであれば、「家計に入れる手取り収入と家事育児の金銭価値の合計額」のバランスが取れるための条件は、勤務時間と家事時育児時間の合計が夫婦で均等になるように行うのが妥当ではないか。
このようなケースでは、夫が残業したりするために家事育児ができないことは仕方ないとしても、平日の帰宅後や休日の家事育児は均等に行うべきだろう。
総務省「平成28年社会生活基本調査」では、未就学児のいる共働き世帯においても、7〜8割の夫は全く家事や育児をやっていない。これほどまでの家事育児分担の差が、果たして年収の差によって説明できるものだろうか?
筆者はそうは思わない。
是枝俊悟:大和総研研究員。1985年生まれ、2008年に早稲田大学政治経済学部卒、大和総研入社。証券税制を中心とした金融制度や税財政の調査・分析を担当。Business Insider Japanでは、ミレニアル世代を中心とした男女の働き方や子育てへの関わり方についてレポートする。主な著書に『NISA、DCから一括贈与まで 税制優遇商品の選び方・すすめ方』『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(共著)など。