【南青山・児童相談所問題】反対住民説得に必要なことを過去の事例から学ぶ

保育所、児童相談所を含む子ども支援施設、障がい者施設や火葬場……。さらにホームレス支援施設、外国人労働者の研修施設と、全国各地で施設建設をめぐる反対運動が相次いでいる。

これはNIMBY(Not In My Back Yard)と呼ばれるもので、必要性は認めるけれど自分の家の裏庭には嫌だ、という考え方が色濃く反映されている。存在自体の賛否が分かれる原発や基地の問題ほど大きなものではないが、生活する地域で起こっている問題に私たちはどう対処していったらよいのだろうか。

南青山・児童相談所建設予定地

南青山の骨董通りから1本入った場所にある建設予定地。住民の中には「資産価値が下がる」と反対する人もいる。

撮影:樋田敦子

住民説明会はまたもや紛糾

2月21日夜、東京都港区南青山の小学校で近隣住民を対象とした『(仮称)港区子ども家庭総合支援センター新築工事に関する「港区中高層建築物に係る紛争の予防と調整に関する条例」に基づく説明会』が開かれた。報道陣はシャットアウトした会場には子どもを連れた母親や高齢者など多くの住民が詰め掛けた。「あれだけ騒がれたので、ちょっとのぞきに来た」と話す近所の高齢女性もいた。説明会では「建設計画を取りやめてほしい」と強硬な反対意見も出て紛糾したという。

港区では「児童福祉法等の一部を改正する法律」の成立を受け、区が児童相談所や子ども家庭支援センター、母子生活支援施設などが入る複合施設の設置を計画。高級ブランドの店が立ち並ぶ南青山の通りから1本入った土地に、建設費32億円をかけて、地上4階建ての建物の建設を目指している。着工は2019年8月で、開設は2021年の予定。

ところが2018年秋以降行われてきた住民説明会で「南青山のブランドイメージを損なう」と反対意見が出て、その様子が全国に放映された。

「ブランドイメージ低下などは住民のエゴ。救わなければいけない子どもを最優先させるべき」など、賛否の意見が分かれ、説明会では怒号が飛び交った。

全国で起こる建設反対の紛争

保育園

保育園に対しても建設反対運動が起きる昨今。開設を断念した園もある。

撮影:今村拓馬

ここ数年、全国各地で同様の紛争は起こっている。ざっと最近の事例を振り返って見よう。

  • 2016年には千葉県市川市の私立保育園が「子どもたちの声が騒音」「送り迎えのときに付近の道が渋滞する」という反対の声で開設を断念。
  • 東京都の中野区や杉並区で待機児童問題の解消にと公園の一部に保育園を建設するという計画が頓挫。
  • 京都市では、民営によるホームレスの救護施設建設にあたって、住民説明会では「子どもが多い地域に建設されることに不安を感じる」「なぜこの場所を選んだのか」と反対意見が飛び交う。
  • 大阪府摂津市の分譲住宅予定地に計画された外国人向け研修センターに、住民への説明の杜撰さや外国人に対する懸念から、反対運動。

環境紛争やNIMBY問題に詳しい京都教育大学教育学部の土屋雄一郎准教授はこう話す。

「それぞれのケースに背景はありますが、NIMBYとは社会的必要性を主張する側と受け入れる側の関係の問題です。原発や基地の問題となると政治的経済的な背景もありますが、生活の中で起こる地域の紛争も根本は同じ。

以前は地域のご意見番みたいな大人がいて、いろいろあるけれど問題や紛争にまでは発展しなかったのです。紛争が極端に増えたわけではないけれど、いろいろな考えの人がいて、コミュニティーや地域だけでは解決できない社会になってきたことが紛争発生の1つの理由だと思います。生活の身近なところで、今まで思いもよらなかったことが迷惑だと言って紛争になってしまうのです」

NIMBYという考え方は、社会的な必要性がなければ生まれない考え方だという。

多くの場合、建設する側は公共性や社会的な必要性を主張する。受け入れる住民側は、必要性は分かるけれど、なんでそこでなければいけないの、という主張になる。

「その施設は社会的に必要だというけれど、誰にとって必要なのか。この施設が、この規模で、この場所に、どうして必要なのか。双方できちんと根気強く話を積み重ね、共有できなければ紛争は起こります。

大問題になるケースは丁寧に積み上げておらず、ボタンの掛け違えなのです。

南青山の問題では、富裕層の住む場所に児相ができ、そこにやってくる子どもたちは虐待、貧困などの厳しい環境にいます。そのため社会的必要性が声高に叫ばれ、それに反対する人を食い止めたい人たちもいる。 対立に感情的になった場で、はたして理路整然と議論ができるのでしょうか。

やっぱりここに必要なんだという議論が抜け落ち、受け入れるか、受け入れないか、という問題になってしまっている」(土屋氏)

不寛容と不寛容のぶつかり合い

南青山・児童相談所建設予定地

どうしたら住民に納得してもらえるのか。行政は粘り強く話し合いをするしかない、と土屋准教授は言う。

撮影:樋田敦子

施設建設に反対している人たちはエゴだと断罪する声もあるが、「社会的必要性という名のもとに追い込んでいくのも、どうか」と土屋氏は指摘する。

「受け入れないのは不寛容だという意見もあります。しかし社会的必要性を問うこともしないで、反対している人たちの問題にすり替えて、反対すればエゴだというのも不寛容ではないですか。今、不寛容と不寛容がぶつかり合って、そこに亀裂が生じている。亀裂を作って分断させていく社会って、どうなのかなと考えさせられます」

建設される施設は、住民たちにとって本当に迷惑なのかという本質を考えていくことが必要だ。

「一概に迷惑施設という言い方をしますが、今回の施設が迷惑なのか、迷惑でないのかを考えるべきです。

かつてごみ処分場を建設する際に反対運動が巻き起こりました。話し合いの結果、建設されて住民への還元に焼却熱を利用した温浴施設ができ、そこに広場ができ、住民同士の交流の場になり、処分場は結局“迷惑”施設ではなくなりました。 迷惑施設と決めてかかるのではなく、迷惑になる関係をなぜ作ってしまうかに問題はあるのです」(土屋氏)

東京都武蔵野市ではごみ焼却施設をめぐり反対運動が起こったが、住民、専門家、行政を含めた委員会を立ち上げ、竣工するまでの3年間で委員会は75回開かれ、建設にこぎつけた経緯がある。

青山ブランド

高級ブランド店が立ち並ぶ青山。こういう地域にも“必要”な施設だと思ってもらうには…。

撮影:今村拓馬

「とかく行政は『理解してほしい』と言いますが、住民が求めているのは理解ではなく共感。頭では理解できるけれど、共感がないので気持ちが追い付いていけない。だから納得できないのです。

南青山の問題でも、住民と区が信頼関係を作り、納得してもらえるようにきちんと議論を積み重ねることが必要です。 同じ住民同士なのですから、話し合ううちに解決の方向に進むはずです。 区はいつ建設に踏み切るといった短期的な方針を示すのではなく、長期的な視野に立って反対派の気持ちを解きほぐしながら、話し合いを進めていく。

児相を含む施設は、けっして“迷惑”ではなく、南青山のブランド力の強化になっていくような教育の要になる施設にするためにはどうしたらいいかを考えるべきでしょう」(土屋氏)

港区では、2月24日にも再度、説明会を開催する予定でいる。

樋田敦子:ノンフィクションライター。明治大学法学部を卒業後、新聞記者を経てフリーランスに。主に女性と子どもの問題をテーマに取材、執筆している。著書に『女性と子どもの貧困』『東大を出たあの子は幸せになったのか』など。

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