イギリスがファーウェイ排除に反旗。経済ブロック化懸念——日本は米追随でいいのか

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イギリス・ドイツの影響で、中国に「デジタル冷戦」を仕掛けたトランプ米政権の目論見が狂い始めようとしている。

REUTERS/Dado Ruvic

次世代通信規格「5G」から中国の華為技術(ファーウェイ)を排除し、中国に「デジタル冷戦」を仕掛けたトランプ米政権の目論見が狂い始めた。イギリス情報当局が全面排除しない方針を決定したのに続き、ドイツも同調する可能性が高まった。中国排除が経済「ブロック化」を招き、世界経済を委縮させる懸念が背景だ。

英国離れの損失を埋めるためにも

アメリカの最重要同盟国、イギリスの「反旗」は意外だった。2月17日、英国家サイバーセキュリティーセンター(NCSC)が、ファーウェイについて利用を一部制限すべき領域はあるが「安全保障上のリスクは抑えられる」との判断を固めた、と報じられた。

トランプ政権は、上下両院が2018年可決した「国防権限法」に基づき、2019年8月以降、米政府機関がファーウェイなど中国通信5社の製品を調達することを禁じ、さらに2020年8月からは同5社の製品を利用している「世界中のあらゆる企業をアメリカ政府機関の調達から排除する」ことを決めた。

実行されれば世界中の企業が、中国が絡むサプライチェーン(供給網)から排除されかねない。

NCSCは排除しない理由を「調達先の多様性を確保する狙い」としている。

イギリスは3月末の欧州連合(EU)離脱の期限を控え、ホンダの工場閉鎖など企業の「英国離れ」が加速する。離脱に伴う経済損失を埋めるため、イギリス政府も中国との経済関係を重視せざるを得ない。特にファーウェイは2013年からの5年間で、同国に20億ポンド(2880憶円)もの投資をした「お得意様」である。同盟関係は重要だが、背に腹は代えられない。

崩れる「ファイブ・アイズ」

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インターネットの回線速度が他の先進国に比べて遅いドイツは、5G回線の導入が今後極めて重要な課題となる。

REUTERS/Andreas Gebert

一方、「欧州の雄」ドイツはどうか。2月初め来日したメルケル首相は、「ファーウェイが中国政府にデータを引き渡さないとの保証が得られない限り、5G通信網の構築に参加させない」と発言し、「米ブロック入りか」とみられた。

しかし、ここにきてドイツ政府はファーウェイを排除しない方針を決定したと、ロイター電は伝える。メルケル首相の首席補佐官が2月6日の定例閣議後、各省庁と合意したという。

トランプ政権は、ファーウェイ排除のコア・メンバーとして、アメリカ中心の諜報機関の協力組織「ファイブ・アイズ」(米、英、加、豪、NZ)を想定していた。

しかし、イギリスが排除しない方針を正式決定すれば、5カ国の一角が崩れる。さらに排除を表明したニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は2月18日の記者会見で「5G通信網構築における安全性を独自に調査する」と述べ、不排除に含みを持たせる姿勢に転換した。

「踏み絵」で世界を二分

IT産業は冷戦が終わりヒト、モノ、カネが国境を越えて移動する時代に急速に発展した。関税障壁のない自由貿易の代表であり、グローバルなサプライチェーンを発達させた。その中で中国の役割は極めて大きい。アメリカが主導する自由貿易体制の恩恵を受けながら、今やアメリカIT産業を追い越す勢いだ。

そんな中、トランプ政権は同盟国に対しファーウェイ排除の「踏み絵」を踏ませ、世界経済を二分しようとしている。世界は、ファーウェイ採用を軸に固く閉じた「米ブロック」と、緩やかな「非米ブロック」に分かれていこうとしている。

米中対立の「核心」は、貿易赤字問題ではない。アメリカは中国による「技術移転強要」やハイテク分野での中国企業優遇など、国家主導で進めるデジタル経済の構造自体を問題視している。

2020年8月から、米政府機関と取引する会社は国籍を問わず、中国製機器の不買を誓約させられ、違反と分かれば何億ドルもの罰金を科せられる。規制の詳細はまだはっきりしないが、調達参加の企業だけでなくグループ企業全社から中国製機器の一掃を求めるかもしれない。

ハイテク企業の多くは中国に現地法人を置いている。その現地法人にも排除を要求される恐れもある。中国企業を完全排除したサプライチェーンなどあり得ない話だ。

「核心利益」では譲れず

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中国市場の落ち込みが影響し、業績見通しを下方修正する日本企業が増えている。

REUTERS/Bobby Yip

米中対立はすでに、グローバルなサプライチェーンを直撃している。中国のIT関連業は2018年第4四半期から急速に落ち込み始めた。

永守重信・日本電産CEO は1月17日、業績見通しの下方修正を発表した際、「落ち込みは私が経験したことのないレベル」と危機感をあらわにした。中国市場の落ち込みを理由に業績見通しを下方修正する日本企業が増え、日本の対中輸出も1月、2カ月連続で減少した。

一方の中国。対米政策をめぐって揺れ動いた習近平指導部だが、昨秋になってアメリカとの全面衝突を避けるため、「対抗せず、冷戦はせず」などの超柔軟路線を打ち出した。だが譲歩は底なしではない。

通商はいくらでも譲歩できる。大豆も自動車も油もジャブジャブ買って、「2024年までに対米貿易黒字をゼロにする」との展望すら示している、と報じられている。しかし「中国の発展モデル」をめぐる対立は、「主権」にかかわるから妥協できない。ファーウェイは、“核心的利益”の象徴であり、徹底抗戦するだろう。

日本のIT産業衰退も?

日本政府は2018年12月10日、政府調達から事実上中国製機器を排除することを各省庁が申し合わせた。申し合わせには、「中国」や「排除」という言葉はないが、ソフトバンクなど携帯主要4社は、ファーウェイ製品を採用しない方針をすんなり「受け入れた」と報じられる。

同じアメリカの同盟国でも対応にこれほど差があるのに、日本ではほとんど議論なしに排除が進んでいるのは不思議だ。ニューヨーク・タイムズ(1月26日)は、アメリカ政府はファーウェイにハッキングし、同社が軍とつながりバックドアを仕掛けようとしている証拠をつかもうとしたが証拠は得られなかった、と伝えている。

ファーウェイを排除すれば、日本のIT業界の衰退はいっそう加速するだろう。アメリカの思惑通り進むと、5G通信網の建設投資コストは上がり、そのツケは消費者が払うことにならないか。肝心のトランプ氏ですらここにきて、「排除見直し」を示唆するツイートを出したほどだ。

「結果的には米ブロックは孤立し失敗する」とみる経済専門家は少なくない。「安全保障上の危険」が証明されていなくても、アメリカ政府の決定には思考停止でなびいてしまう。ノーベル平和賞候補にトランプ氏を推薦して遊んでいる場合ではない。

岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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