「家の地図こそが最大の武器だ」ロボット掃除機メーカー・アイロボットCEO単独インタビュー

ルンバi7+

ついに日本にも上陸したロボット掃除機の最上位機種「ルンバi7+」。

撮影:小林優多郎

ロボット掃除機という市場を作った「ルンバ」シリーズで知られるアイロボット(iRobot)社は2月19日、日本で最新モデル「ルンバi7/i7+」を発表した

今のロボット掃除機の市場をどう考えているか? 今後どう進化させていくのか? ロボット掃除機の未来について、米アイロボット・コーポレイションのColin Angle(コリン・アングル)CEOは次のように語る。

ロボット掃除機を阻むのは「懐疑」の壁だ

Colin Angle

米アイロボット・コーポレイションCEOのColin Angle氏。

撮影:西田宗千佳

「ロボット掃除機の普及を阻むもの……一言でいえば、それは『懐疑』です」

アングルCEOはそう話す。

現在アイロボットでは、日本市場での家庭普及率をまずは「2023年に10%」にすることを目指してビジネスを進めている。低価格製品から、今回の新製品・i7シリーズのような高機能機種まで、ラインナップを広げることがひとつの施策なのだが、もっとも大きな課題が「懐疑を取り去る」ことだ。

「低価格なロボット掃除機もありますが、そうしたもので悪い体験をしてしまうと、『やっぱりロボットなんて実際には役に立たない』と思ってしまう。それが口コミで広がると大変です。

ですから弊社では、全機種で良い体験を提供することで、ロボット掃除機への懐疑心を取り去ろうとしているのです。人々の懐疑は、いまだ完全に取り去れたわけではありませんが、品質改善を進め、人々が良い評判をさらに耳にするようになれば、変わっていくはず。それが『普及』につながります」

ルンバ 3代障壁

アイロボットが挙げている「ロボット掃除機の普及を妨げる3大障壁」。

撮影:小林優多郎

懐疑を取り去るには、なにより「ちゃんと部屋の隅々まで掃除してくれる」ことが重要だ。特に新機種の「i7」シリーズでは、家の間取り・部屋の中の様子を過去の機種以上に正確に把握し、求められた部屋を素早く効率的に掃除する機能が備わっている。

「現在多くの開発を進めていますが、そのほとんどは、いかに複雑な家の中の状況を把握してロボットを動かすか、という点になっています。床には色々なものが落ちているし、家具もたくさんありますし。

とはいえ、ユーザーがロボットと協力することも重要です。家の中のことを一番よく知っているのは、ユーザー自身ですから」

ホームマップはアイロボットの中核武器、他社とも協業へ

ルンバ ホームマップ

ルンバi7/i7+が作成したホームマップ。清掃完了後は、ルンバがどのような軌跡で清掃したかアプリでチェックできる。

撮影:小林優多郎

i7は、ユーザーがアプリを介して間取りや部屋の名前を家の地図「ホームマップ」に追記し、それを使って掃除をするようになっている。だから、「キッチンを掃除して」「子供部屋を掃除して」といった、人間にとっては当たり前だが、ロボットにとっては難しかった指示もこなせるようになってきた。

「10年にわたって独自開発を進めてきた結果、i7では素早くホームマップを認識できるようになっています。そのデータはクラウド上にありますが、将来的には、より多くの家庭用機器で、このホームマップを使えるようにしたい、と考えています」

アングルCEOは、「家庭用機器にとって、ホームマップは極めて重要な要素であり、どの製品にとっても大切な要素だ」と強調する。

「現在、ホームマップの活用は初期の段階にあります。しかし、多くの家庭用機器を作る企業が興味を示しています。

例えば、グーグルやアマゾンのようなスマートスピーカーを開発している企業です。家のどこにデバイスが置かれているかを認識することで、家全体がもっとインテリジェントになります。『この部屋の電気をつけて』という命令に、ちゃんと答えられるようになるんです。

ただ、繰り返しますが、開発はまだまだ初期段階であり、具体的に計画を示せる段階にありません」

Colin Angle氏とスライド

「ロボットがどこにいるかを認識すること」の重要性を発表会で語るコリン・アングルCEO。

撮影:小林優多郎

アイロボットがルンバで作ったホームマップを他社へ提供や共有しようと考えているのは、それが他の企業では作るのが難しい、非常に貴重なものであるからだ。

「消費者の視点に立てば、ホームマップは1つであることが望ましい。いろんなマップを使い分けたいとは思わないでしょう。ホームマップが多数の企業に共有され、家のメンテナンスに使われていけば、我々の生活はもっと便利になります。

そのための他社との協業については、非常にオープンな姿勢で取り組みます。相手が、掃除機を作っている競合相手であったとしても、その時の判断によって、ホームマップ活用について協業する可能性はあります。

ただし、現在はその計画はありませんし、すぐにやる、ということではないですが。しかし、ホームマップは、弊社にとってきわめて重要な技術で、資産です。アイロボットという存在を『ロボットそのもの』にしてくれるでしょう」

今後3年は「買い切り」を続ける

ラインナップを増やすルンバ

ラインナップを増やすルンバ。

撮影:小林優多郎

ロボホン

例えば、シャープの「ロボホン」の場合、Wi-Fiモデルであっても多くの機能を使うためには月額1058円(税込)の「ココロプラン」に加入する必要がある。

撮影:小林優多郎

ルンバの本質はソフトにあり、さらにホームマップの強化で「クラウド側」も重要になっている。ここが、一般的な家電との差別化点でもある。

特に最新のi7では、過去の製品とは比べものにならないほどのソフトウェア規模になっている。同社の命はソフトなので、ルンバは他の家電よりも頻繁に機能向上する。

だが、アップデートが多いということは、販売したハードウェアに対するソフトウェア投資がずっと続く、ということでもある。他の家電メーカーは、そうした投資の厳しさを訴えている。

ソニーの「aibo」やシャープの「RoBoHoN」のような愛玩系ロボットでは、継続的なアップデートとクラウドのサービスのために「サービス料」を別途支払うビジネスモデルになっている。今後、アイロボットはどうするのだろうか?

「i7を今日買えば、今後も継続的にソフトウエアのアップグレードを受けて、賢くなっていきます。非常に頻度は多いのですが、それらはすべて無料で提供されます。いつi7を買ってもどんどん賢くなるのが利点です。そのことで、我々は顧客からの信頼・忠誠心を得ることができます。

もちろん、よりデータに依存したサブスクリプション形式のビジネスモデルにも興味はあります。とはいえ、少なくとも今後3年は今の『買い切り』モデルを続けます。まだ今のビジネスモデルでできることを、やり切ってはいないですからね」

昆虫からより賢い存在に、ペット化していく掃除機

Colin Angle氏

ルンバのデザインの理由についても語ったColin Angle氏。

撮影:西田宗千佳

このように進化してきたルンバだが、元々のAIは「昆虫の動き」をベースにしている。今もその部分は、ルンバの「本能」として生きている。

「ルンバのAIは多層的な構造をとっています。おっしゃる通り、最初の発想は昆虫の動きです。昆虫が効率的に歩く様からヒントを得て作られています。

その部分は、いまも一番下、動作のためのレイヤーで動いています。そこに、現在のホームマップ認識のような高度な部分が積み重なって進化しています。」

結果的に、ルンバは家の中で非常に親しみをもって接することの多い機器に成長した。ペットのように名前をつけている人も少なくない。この点を聞くと、アングルCEOはニコニコ笑いながらこう答えた。

「面白いことに、人々はルンバを買うまで、『掃除機をかわいいと思うはずがない』と思っています。だから、吸引力が重要であり、デザインもなんというか……力強い、いかにも家電っぽいものが好まれる。

でも、ロボット掃除機に懐疑的な人々は、そういうものなのです。ひとたびルンバを使ってみると、2週間で誰もがルンバに名前をつけて呼ぶようになっている(笑)。一緒に遊んだりして、家族の一員になります。私たちのデザインも、それを考えてああいう丸い形にしているんです」

(文・西田宗千佳)


西田宗千佳:1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)、「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)がある。

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