外国人労働者受け入れ拡大で「出稼ぎ留学生」が激減?日本語学校の危機

カトマンズの留学代理店街

ネパールの首都カトマンズの学生街には、アメリカ、オーストラリア、日本などへの留学を支援する代理店が並んでいる。日本への留学熱はいまだに高い。

撮影:小島寛明(2018年11月30日)

2019年春からの外国人の受け入れ拡大を控え、日本語学校が岐路に立っている。

留学生として来日する外国人と日本語学校はこの数年増加を続けていたが、今後、日本に留学を希望する学生数の減少が予想されているからだ。

現在、留学生は最大で週28時間の労働が認められていることから、とくに東南アジア、南アジアからの留学生を引きつけてきた。

だが今後は、一定の技能があると判断された外国人については、外食や宿泊、農業、製造業など14分野で就労が可能になる。

アジアの途上国の地方で暮らす若い世代にとって働き口は限られ、働き口があったとしてもそこから得られる収入は少ない。留学生たちにアルバイトを認める日本の制度は、こうした人たちを引きつけてきたが、新しい制度が導入されると、留学生として日本語学校に入らなくても就労目的で日本に在留できる可能性がある。

こうした背景から、アジアの国々から日本での就労を目指す人たちが、留学生として来日する流れは減速しそうだ。

留学生の確保だけでなく、日本語講師の待遇、教育の質の維持など、日本語学校は解決の困難な課題を抱えている。

出身国ごとに異なる留学生の事情

「私たちも、春以降は学生の募集に影響があると予想しています」

東京・表参道にある青山国際教育学院で、学院長補佐を務める西原幸伸さんはこう話す。30年以上留学生の受け入れを続けてきた同校は、日本語学校の世界では老舗にあたる。

同校が受け入れている406人(2018年7月時点)のうち、約4割にあたる170人がベトナムからの留学生だ。

留学生を取り巻く状況には、出身国ごとに大きな違いがある。特に出身国の経済レベルに大きく影響される。

中国、韓国、台湾からの留学生には、家族からの仕送りを受けている人が比較的多い。家庭ごとに状況は違うものの、これらの国の世帯収入は日本を追い上げている。

反対に、ベトナム、ネパールからの学生はこの数年大幅に増えたが、家族からの仕送りをあてにできる学生はほとんどいない。

ベトナム、ネパールからの留学生は減少か

撮影:小島寛明

アジア各国からの外国人たちが集まる東京・新大久保の路地裏には、日本語学校が点在する。

撮影:小島寛明

学校ごとに違いはあるが、青山国際教育学院の場合、日本の大学や専門学校への進学を目指す2年間のコースは、授業料や入学料などを合わせて140万円かかる。学校の寮を利用する人は、少なくとも月3万5000円の寮費や渡航費もかかる。

少なく見積もっても、学費・生活費を合わせて月に12〜13万円かかる費用をベトナムやネパールから仕送りできる世帯は多くない。

このため、週に28時間という上限が設定されているアルバイトをしながら日本語の勉強をしている留学生が多い。

西原さんは、留学生たちの窓口になるベトナムなどの代理店は、軒並み「様子見」ムードだと指摘する。

「新しい在留資格ができて、アルバイトで学費をまかなっている子たちは、労働か、バイトをしながら学業か、どっちを取るかという判断をすることになるだろう」

これまで、アルバイトができる制度でアジアからの留学生を引きつけてきたが、日本への留学を選んでいた人たちが、「特定技能」制度による就労を選択すれば、日本語学校の経営にも影響しそうだ。

低い講師収入と習得の壁

永野将司さん

日本語学校の講師を辞め、自らの会社NIHONGOを立ち上げた永野将司さん。

撮影:小島寛明

「日本語教育の現場は、危機的な状況にある」

日本語の講師として10年以上、経験を重ねてきた永野将司さん(34)は、2018年春、勤めていた学校の講師をやめ、自身の会社を立ち上げた。会社の名は、「NIHONGO」にした。

NIHONGOをつくったのは、日本語教育の新しい形を模索するためでもある。

クラウドファンディングで100万円余りの資金を集め、2019年春から日本語のできない親を持つ在日外国人の子どもたちに日本語を教える学校を開く予定だ。

永野さんが特に課題だと感じているのは、日本語講師の確保の難しさだ。

日本語学校を審査する法務省の基準で、1クラスあたりの学生数の上限は20人とされている。

となると、1人の留学生が支払う授業料には限りがあるから、必然的に、日本語講師の給与の上限も見えてくる。

複数の関係者の話を総合すると、日本語講師は300万円前後の年収の人が多いようだ。結婚して子どもを育てて、といったキャリアパスは描きにくく、3年以内に他業種に移っていく人も少なくないという。こうした背景から、経験のあるベテランの講師が育ちにくい。

この数年日本語学校が急増したことで、講師の育成も追いついていない。2010年の国内の日本語教育機関数は445校だったが、2020年までに留学生30万人の受け入れを目指す政策や、留学生でもアルバイトができる制度もあって年々増え続け、2018年8月の時点で711校になっている。

「危機」の要因は日本語そのものにもある。世界中の言語の中でも、日本語は習得が難しいと言われる。

中国や韓国からの留学生であれば漢字とのなじみもあり、他の国からの留学生と比べて、習得の期間は短いという。しかし、近年留学生が増加しているベトナムやネパールは非漢字圏のため、日本語の習得に苦労しがちだ。

永野さんは「2年間、日本語学校に通ってカタカナをきちんと書けない留学生も少なくない。このままでは日本語のできない単純労働者ばかりになってしまう」と話す。

引き続きコンビニは受け皿か

コンビニのイメージ

首都圏のコンビニでは、多くの留学生たちがレジでアルバイトをしている。

Shutterstock

「日本語学校に入学せず、特定技能にごそっと行くのかというと、必ずしもそうは言えないのではないか」

日本語教育振興協会の高山泰・専務理事はこう、日本語学校を巡る悲観論に反論する。

これまでであれば留学を選んでいたベトナムやネパールの人たちが、そのまま労働者として来日できるかというと、それも難しい。新制度は、一定の「技能」を前提としているからだ。

新たに創設される特定技能は1号と2号の2種類がある。

5年まで日本に在留できる特定技能1号は、技能と日本語のレベルを試験で確認することから敷居が高い。

一方、3年まで日本に在留できる特定技能2号については、技能のレベルは試験で確認するが、日本語の能力は要件とされていない。

留学生たちのアルバイト先は、飲食店やスーパー、コンビニでの接客が多いと言われる。飲食店については、特定技能の14分野に含まれたが、小売りについては含まれておらず、今後も、コンビニやスーパーでのアルバイトは留学生の受け皿となる可能性が高そうだ。

高山さんは「特定技能制度の中身が明らかになるつれて、留学生が激減する心配はなくなってきている」と話す。

「日本語教育」法制化の動き

春からの外国人労働者の受け入れ拡大を控え、「日本語教育の推進に関する法律」を制定する動きもある。

この法律の早期成立を求める署名活動がネット上で展開され、1万2000人余りの署名が集まったという。

日本語学校関係者の間で期待の声があるのは、法案に盛り込まれている日本語教育推進のための政府による「財政上の措置」だ。国や自治体からの補助金や助成金の受け皿になれれば、講師の待遇を少しは改善できる可能性もあるからだ。

超党派の日本語教育推進議員連盟(河村建夫会長)が、開会中の通常国会でこの法案の成立を目指している。

(文:小島寛明)

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