どれくらいすごいのか? 世界トップ級の衛星画像“無償データ”基盤「Tellus」の全貌

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無償利用できる衛星データプラットフォーム「Tellus」について解説するさくらインターネット創業者の田中邦裕社長。

人工衛星の画像利用に「市場は存在しない」と言われていたところに、新たなビジネスを生み出せるのか?

さくらインターネットによる、人工衛星のデータをWeb上で無償利用できるデータプラットフォーム「Tellus(テルース)」が2月21日、正式にサービスを開始した。無償で使える衛星画像の質としては世界最高レベルで、そのほかに気象データや人流データ、Twitterのテキストなども組み合わせて使える。プラットフォーム上でデータ分析ツール「Jupyter Notebook」を利用した解析も可能だ。

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商用レベルの衛星画像を無償で、ブラウザ上で利用可能。登録した日から利用できる。

利用できる衛星画像に「ASNARO-1(アスナロ1)」の光学画像が入っていることは注目に値する。ASNARO-1はNECが開発し、2014年に打ち上げられた地球観測衛星で、分解能は最高で0.5メートル。画像の1ピクセルが地上の50センチに相当すると考えてもらえば良い。この分解能なら、乗用車またはバスといった自動車の車種、空港のターミナルと飛行機、ビルに建設現場の進捗状況などさまざまな経済活動が判別できる。NTTドコモが携帯電話ネットワークで取得した1時間ごとの人口統計「モバイル空間統計」(今後提供開始)のデータなどを重ね合わせることもできる。

どれくらいすごいのか? 世界トップ級の衛星画像「無償データ」プラットフォーム

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Tellusに今後追加される各種統計データ。

衛星画像が無償で利用できる衛星データプラットフォームは世界にいくつかある。Amazon.comによる「Earth on AWS」や、オーストラリアや欧州の公営プラットフォームも知られた存在だ。

ただし、利用できるデータは、光学衛星ではアメリカのLANDSATシリーズ(分解能30メートル程度)、欧州のSentinel-2(分解能10メートル)などが中心だ。一般に商用利用で求められる衛星の分解能は1メートル以下で、最高レベルでは0.3メートル。

このレベルの衛星画像は高額で、日本では分解能0.3メートルのWorldView-3衛星画像は、25キロメートル四方あたり8万円以上という価格で販売されている。つまり、“商用レベルのASNARO-1画像が無償”で使用できるTellusは、世界トップレベルに気前の良いプラットフォームなのだ。

日本発、衛星画像による新ビジネスは誕生するか?

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2画面比較や地図との重ね合わせはメニューで選択するだけ。無償の国土地理院地図が利用できる。植生指数のようによく使われる手法はプリセットで用意されている。

国内で無償利用できるデータとしては、日本の地球観測衛星だいち(ALOS)、だいち2(ALOS2)などの光学およびレーダー衛星画像も利用できる。これらは一部がJAXAからすでに公開されていたものだが、利用前に大容量の画像データをダウンロードする必要があり、手間がかかる。

Tellusならばブラウザー上で画像の種類を選ぶだけ、地図との重ね合わせもメニューで選択するだけ。さくらインターネットの持つコンピューティングパワーを利用でき、ユーザーがストレージや処理するPCの能力を考えなくてもよい点が魅力だ。

今後はASNAROシリーズのレーダー衛星、ASNARO-2や気象衛星ひまわりなどのデータを利用できる。JAXAが2020年に打ち上げ予定の地球観測衛星「ALOS-3」や、経済産業省のハイパースペクトルセンサー「HISUI」などのデータも利用できる方向(検討中)だという。

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打ち上げ前のレーダー地球観測衛星ASNARO-2。

撮影:秋山文野

これまで入手が難しかった高分解能の画像を開放することで、新たなビジネスが興せるチャンスをつくる……Tellusはそんな期待を背負っている。

ただし、どんなことができて何のビジネスにつながるのか、それは未知数だ。これまで衛星画像を使ったビジネスというものが、日本にほとんど存在しなかったからだ。

さくらインターネット xData Alliance Projectの山崎秀人シニアプロデューサーは、2018年末のTellusベータ版提供時に「衛星画像は土木の分野で研究に利用されてきたもので、産業としての規模は数千万円から数億円程度だと思います。アウトプットは(商用のサービスではなく)論文でした」とコメントした。ビジネスに利用したユーザーはほぼいなかったということだ。

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2月22日のTellus正式版提供開始の日、さくらインターネットの田中邦裕社長は、Tellusというプラットフォームでは、これまでほとんど存在しなかった「ユーザー視点」を前提に、「ユーザー開発、開発者開発、顧客開発」をしていくと述べた。

「失敗が許されるスピードとコストでチャレンジできる。失敗しても無駄にはなるのは自分の時間だけ」(さくらインターネット田中社長)。市場のないところに必要なのは、こうしたチャレンジの余地だという主張は、学生起業の末、荒波を乗り越えながら東証一部上場企業にまで成長させた創業社長ならではの考え方だ。

さくらインターネットは「Tellus Satellite Challenge」と呼ばれる画像解析技術の賞金付コンテストや、解析技術の入門セミナーを開催してユーザー育成に努めている。衛星画像のユーザーを増やし、市場を創出する目的がある。

海外の成功例に見る「衛星画像ビジネス」

今後、必要なのが、利用が進んでいる海外の事例研究だろう。

この分野で注目されてきたのが、米Orbital Insight(オービタルインサイト)社だ。同社は、光学衛星の画像を利用し、石油貯蔵施設のタンクを「見る」ことをビジネス化した。石油タンクの蓋は“浮き蓋”と呼ばれ、貯蔵量に応じて上下する。

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Orbital Insightの公式サイト。石油貯蔵タンクの蓋の沈み込みが貯蔵量によって違うことを利用して需給情報を提供する。

タンクの縁から差す影の長さを測ることで、蓋がどれだけ沈んでいるか、つまりタンクの石油貯蔵量が判別できる。この手法でエネルギー関連企業や政府、投資家向けに最新の需給ステータス情報を提供している。

2018年秋には、オーストラリアの鉄鉱石の積み出し港として有名なポートヘッドランドで、ばら積み船の航行を衛星データを使って調査し、11月に起きた鉄道脱線事故の影響で日本や中国向けの鉄鉱石の出荷が38パーセント低下した、といった情報を明らかにしている。

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SpaceKnowの公式サイト。サンプルを見ると、高分解能の衛星画像データがどういう精緻なものかがよくわかる。

オービタルインサイトと同様に、衛星画像で経済を読むビジネスを展開しているのが、カリフォルニア州のSpaceKnow(スペースノウ)社だ。

中国・広東省は2018年、これまで公表していた省独自の購買担当者景気指数「広東PMI」の公表を急に停止した。公式の統計が利用できない中で、スペースノウ社は衛星画像で自動車、船舶、飛行機など交通網の監視やAIを組み合わせ、独自の「衛星製造業指数(SMI)」という情報を配布している。

消えていった衛星画像ビジネス企業

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Shutterstock

アイデアは良かったものの消えていった企業もある。コーヒーの木の葉を黄色く変色させる「さび病」はコーヒーの栽培にとって致命的な病気で、収量の大幅減少につながるだけでなく最終的に木を枯らしてしまう。

衛星画像を使ってさび病をいち早く検出し、感染の広がりを防ぐというビジネスが数年前にイギリスで立ち上がった。さび病の情報を農家ではなく、コーヒーのサプライチェーンに販売するというビジネスモデルだった。コーヒー店チェーンは将来のコーヒー豆買い付けの不確実性を減らすことができ、開発途上国のコーヒー農家の支援にもなる。

イギリス政府の衛星ビジネス創出プログラムにも取り上げられるなど有望そうに見えたが、2015年以降Webサイトを更新しておらず、活動実態が見えなくなっている。

ベンチャー企業の成長を阻む要因は資金難や人材確保の困難などさまざまあるが、コアになる技術が当初の期待ほどでなかったこともあると考えられる。コーヒーのさび病を衛星画像から見つける技術について、NASAの衛星が公開していた無償のデータを利用する技術に関する引用数の多い論文を過去にブラジルの研究者が発表している。

だが、より新しい論文によると、これまで利用できた衛星データでは精度が足りないという。コーヒー同様にさび病を持つ小麦の場合、ハイパースペクトルセンサーという高精細なセンサーを持つ衛星データを使ってさび病を見つけ出す技術が研究されている。

すでに誰かが手をつけた分野であっても、より精度の高い、大容量のデータが出てきて初めてビジネスモデルが確立できる、ということは十分に有り得る。

Tellusがそうした後押しをする存在なれれば、日本の“衛星テック”が立ち上がるかもしれない。低コストで試行錯誤できる環境に加え、対象をよく知る専門知識を持った人物が、「これに衛星データを使えないかな?」と思うことが重要だ。

(文、写真・秋山文野)

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