ユーチューバーのゲーム中継OK、コスプレ貸出業NG —— マリオ著作権めぐり任天堂が示す「侵害」と「よい拡散」の境界

公道カート

東京都内には「任天堂は無関係」と明記した公道カートを走らせている業者もある。

撮影:小島寛明

動画サイトではYouTuberたちがゲームの“実況中継”を流し、路上ではマリオやクッパに見えるコスチュームを来た外国人観光客が、公道カートで走り回っている。

任天堂のキャラクターの権利をめぐってこの半年で、2つの重要な動きがあった。

任天堂は2018年11月に著作物の利用に関するガイドラインを改定し、ゲームの実況中継を事実上容認した。一方、9月にはマリオに見えるコスチュームを貸し出していた公道カートの事業者を相手取った東京地裁での民事裁判で、任天堂側が勝訴している。

企業にとって、ありがたい「拡散」か、迷惑な「タダ乗り」か ——。その線引きはとても難しく、うつろいやすい。

ゲームの実況中継OKのガイドライン

ヒカキンさんの「スーパーマリオオデッセイ実況」動画。

HikakinGames/YouTube

YouTube上には、ゲームをプレイしながら実況中継をする動画が毎日のように公開されている。

例えば、人気のYouTuberのヒカキンさんが任天堂の「スーパーマリオ オデッセイ」をプレイする動画は、2000万回以上再生されている。ただ、「この動画は任天堂著作物の利用許諾を受けて配信しています」との注意書きが付いている。

こうした実況中継に対して、任天堂は2018年11月29日、「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」を示した。

「任天堂は、個人であるお客様が、任天堂が著作権を有するゲームからキャプチャーした映像およびスクリーンショットを利用した動画や静止画等を、適切な動画や静止画の共有サイトに投稿(実況を含む)することおよび別途指定するシステムにより収益化することに対して、著作権侵害を主張いたしません」

任天堂は、自社が保有する著作物の管理について厳格な姿勢を維持してきたイメージが強い。しかしガイドラインは明確に、個人であればゲームの実況中継を認め、収益が出てもよいとの方針を示している。

ただ、任天堂が制作したゲームの映像を、そのまま流してよいかというとそうではない。ガイドラインは「任天堂のゲーム著作物のコピーに過ぎない投稿はご遠慮ください」としており、任天堂の著作物を利用した「創作性」のある投稿や中継を求めている。

著作権に詳しい福井健策弁護士は「任天堂は著作権について厳格ではありつつ、拡散されることによる宣伝効果や、拡散による作品の広がりも理解している会社だと思います」と指摘する。

ディズニーは軟化、任天堂はむしろ厳格化か

福井健策弁護士

著作権に詳しい、骨董通り法律事務所の福井健策弁護士

撮影:小島寛明

著作権に厳格な会社というと、ディズニーも思い浮かぶが、2013年にアニメ映画『アナと雪の女王』が公開されると、主題歌「Let it go」を“歌ってみた”動画が世界中からYouTubeに投稿された。

ディズニーはアナ雪のころから、こうした動画を「止めない」姿勢に転じたと言われる。

福井弁護士は「美術館、博物館も撮影OKというところが増えてきた。SNSで拡散してもらってもプラスの面が勝るということが分かってきたからでは」とみる。

今回の任天堂のガイドラインは、著作権管理の「軟化」ではなく、厳重な管理方針の明確化とみる専門家もいる。

企業が保有する知的財産権に詳しい、林いづみ弁護士が注目するのは、ガイドラインが「ファンアート」などを対象から外した点だ。

ガイドラインは「任天堂のゲーム著作物を利用した動画や静止画を、適切な動画や静止画の共有サイトへ投稿することを対象としたもの」としている。

任天堂のゲームを使った実況中継や、スクリーンショットをTwitterに投稿する行為などは容認する一方で、ファンが独自にマリオやクッパを描いた作品などはガイドラインの対象外としている。

林弁護士は「任天堂の基本戦略が、著作物の単なる『拡散』ではなく、あくまでも、任天堂の知的財産の内容やクオリティを、従来通り厳格に管理することを前提として、任天堂の著作物に触れる人口を拡大することで、自社の知的財産の価値を高めることにある」とみる。

自社でクオリティを管理したキャラクターが映り込んだ動画などは容認するが、管理ができないファンアートについては無条件に容認するものではない、と読める。

マリカー判決の余波は

マリオ 任天堂

サンフランシスコでのメディアイベントにて。

REUTERS/Beck Diefenbach

2018年9月27日には、マリオやクッパの衣装を顧客に貸し出し、公道を走れるカートで都内を巡るツアーを提供していたMARIモビリティ開発に対して、任天堂が知的財産権の侵害行為の差し止めや、損害賠償を求めていた訴訟の判決で、東京地裁が任天堂の請求の一部を認めた。

判決は、マリオやクッパなどのコスチュームを顧客に貸し出していた点について、「任天堂と同一グループの者による営業か、任天堂からの使用許諾があると誤信する恐れがある」として、貸し出しを禁じている。

さらに、被告の会社の名前は提訴段階で「株式会社マリカー」だったが、マリオカートの略称を想起させる名称だった。この点についても地裁判決は「マリカー」の商号の使用を禁じている。

被告の会社側が知財高裁に控訴しているが、東京地裁の判決は、会社にとって「ありがたい拡散」と「侵害」の線引きを考えるうえで重要な材料を提示した。

公道カート事業の関係者のひとりは、「コスチュームはドンキでも買えるし、最初はノリでやったものだと思う。でも、社名を『マリカー』にするのは、明らかにやりすぎだったのでは。もう、任天堂に限らずキャラクターものは怖くて使えない」と話す。

公道カートは、いまも外国人観光客の多い六本木や秋葉原、浅草などの公道を走っている。任天堂との「誤認」のおそれを指摘した東京地裁判決を受けて、「任天堂は無関係」と明記したカートを走らせている業者もある。

公道カートは、運転者の体がむき出しになっていたり、交通量の多い東京都内の幹線道路で小型の車両が列をつくって走り回るなど、危険性を指摘する声も根強い。

林弁護士は「今後も任天堂の知的財産にフリーライドする行為には厳格に対処し、特に公道カートのように危険性が指摘されているサービスでのフリーライド行為への追及の手を緩めることはないのでは」と指摘する。


著作権を巡っては、著作権を侵害しているマンガや論文などをダウンロードすることを全面的に違法とする著作権法の改正案が、開会中の通常国会で審議される見通しだ。

今回の法改正は、違法にコピーされたマンガを無料で配布する「漫画村」(閉鎖)などの登場で、著作権侵害が大規模化、深刻化していることへの対策を検討する中で浮上した。ただ、著作物全般をダウンロード違法化の対象とすることで、画面を画像として保存するスクリーンショットなども対象に含まれることから、マンガ家ら当事者も含め強い反発の声がある。

100人を超える専門家らが「拙速な法改正は、私的領域における情報収集の自由に対して過度の萎縮効果を及ぼす」などとして、慎重な議論を求める緊急声明を出している。

(文:小島寛明)

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中

あわせて読みたい

Popular

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み