ソニーモバイルがMWC19 Barcelonaで発表した「Xperia 1」。
ソニーの決算は「絶好調」が続く中、不振を極めていたのがモバイル事業だ。国産ブランドのAndroidスマートフォンとして人気のXperiaシリーズは、出荷台数が減少。ソニーは粛々とコスト削減を進めるものの、製品の方向性にも抜本的なテコ入れが期待されていた。
その中で迎えたモバイル業界最大の展示会「MWC19 Barcelona」(以下、MWC2019)には、3年ぶりに製品ナンバリングを刷新したフラグシップ「Xperia 1」を投入してきた。同社が「1から生まれ変わった」と自信を見せる新モデルで、ソニーのスマートフォンは復活するのだろうか。
「好きを極める人々」にフォーカス
21対9の縦長ディスプレイは圧巻。
Xperia 1を理解する上で、鍵となる要素が画面の縦横比「21:9」という縦長の4K有機ELディスプレイだ。最近のスマートフォンはテレビで馴染み深い「16:9」を超え、前モデルの「Xperia XZ3」が採用した「18:9」のように縦長に進化しつつある。その中でソニーモバイルが採用に踏み切ったのが21:9というわけだ。
縦長のスマートフォンは、横に向ければ横長になる。ソニーモバイルは、この超ワイド画面によるシネマ体験によってXperiaを再定義したのだという。同社のテレビ「BRAVIA」のチームに加え、放送局や映画制作の現場にプロフェッショナル機器を提供するチームと連携したとする。
21対9のシネマ体験でXperiaブランドを再定義。
「ソニーはコンテンツと、コンテンツを作る技術を持つ会社だ。コンテンツ体験を価値にした商品を作るために、ソニーの技術を結集した」とソニーモバイルコミュニケーションズ商品企画部門 部門長の田嶋知一氏は語る。
ソニーモバイルコミュニケーションズ商品企画部門 部門長の田嶋知一氏。
商品開発にあたっては「好きを極めたい人々に、想像を超えたエクスペリエンスを」というキャッチフレーズを定めた。その一方で、「何億台も売っている他のプレイヤーとは、規模感が違う。ジャイアントプレイヤーと同じことは絶対にしない」(田嶋氏)とし、「何をするか」と同時に「何をしないか」のラインを明確にした結果、誕生したのがXperia 1というわけだ。
「好きを極める人々」とは、マスに訴求しないという意味なのか? この点について田嶋氏は、「ニッチという言葉は使いたくないが、まずはターゲットユーザーをがっちりつかむことを優先した。いいものを作れば、そこから波及効果は必ずある」との展望を示した。
21:9の縦長画面の「シネマ体験」を追求
スマートフォンとしては世界初の4K有機ELを搭載。
田嶋氏が示した「シネマ体験」という視点からXperia 1を見ていくと、このスマートフォンが単なるフラグシップの後継機ではなく、シネマ映像や撮影、音響技術を体験するために理にかなったスペックを備えていることが分かる。
ディスプレイには、短辺方向は1644ドットと少し物足りないものの、長辺方向は3840ドットの4K有機ELを搭載。独自の「クリエイターモード」では、映画の制作現場でも使われる400万円クラスのマスターモニターと同等の「BT.2020」という色域に対応。ネットフリックスとの協業で、アプリを起動するとクリエイターモードが自動的にオンになり、クリエイターの意図を忠実に再現できるという。
ソニーブースには映画製作を意識した展示も。
「Xperia XZ2」以降の本体デザインは背面が丸みを帯びていたが、Xperia 1では1枚のフラットな板状に戻っている。初期のXperiaにあった紫の本体色が復活したことも、原点回帰の印象を与える。
映像コンテンツを楽しむことを最優先に、アップルの「iPhone X」などに代表される最近のスマホでの採用が増えているインカメラ用の画面上部の切り欠き(ノッチ)や、サムスンの「Galaxy S10」などに採用されたいわゆるパンチホール(画面上部に丸く穴をあけインカメラのレンズを置く設計)は一切使っていない。
21対9の映像コンテンツを楽しむため、ノッチやパンチホールは採用しなかった。
これまでのXZ2(Premiumを除く)、XZ3でシングルレンズを貫いてきた背面カメラは、一気にトリプルレンズを搭載。26mm、52mm、16mmのレンズで望遠や広角撮影が可能になった。一見すると他社への追従に見られがちだが、これはシネマ撮影においてカメラのレンズ交換がクリエイティビティにつながることから自然に採用に踏み切ったのだという。
待望の「日本版ミドルレンジ」投入なるか
Xperia 1と同時発表のミッドレンジ「Xperia 10/10 Plus」。これらは日本での発売予定はアナウンスされていない。
MWC2019会場に展示されたXperia 1の実機は作り込みきれておらず、細部を自由に触れる状態ではなかった。それでも製品コンセプトが明確になり、名前の通り「1から生まれ変わった」のは間違いない。ソニーモバイルからの説明も、迷いがなく、どこか吹っ切れた印象を受けた。
ただ、懸念されるのはソニーモバイルの主要な展開地域のひとつである日本における市場環境の変化だ。総務省が中心になって進める議論により、大手キャリアによる端末購入補助は困難になり、「スマホは定価で買う」時代が迫りつつある。
背面カメラにデュアルレンズ構成を採用する「Xperia 10/10 Plus」。
出典:ソニーモバイル
Xperia 1の価格は発表されていないものの、10万円超えは必至とみられることから、「好きを極める」Xperiaファンでも購入をためらう可能性がある。
そこで注目されるのがミドルレンジの価格帯だ。これまでソニーモバイルのミドルレンジ機は海外向けだったが、田嶋氏からは「日本でミドルレンジの需要があることは理解しており、日本市場への導入を検討している」と一歩踏み込んだコメントがあった。
他メーカーの追従ではなく、コンテンツ体験に集中するというソニーならではの強みに振り切ったことで、Xperia 1はソニーのスマホ復活に向けて、大きな布石を打ったと言える。
(文、撮影・山口健太)
山口健太:10年間のプログラマー経験を経て、2012年より現職。欧州方面の取材によく出かけている。著書に『スマホでアップルに負けてるマイクロソフトの業績が絶好調な件』。