アメリカで「不良債権投資」が大流行。日本のアパートローン問題が破裂すると……

リーマンショック

2008年9月に破産した米投資銀行リーマン・ブラザーズ。サブプライムローン(=信用力の低い低所得者向けの住宅ローン)を証券化した商品を大量に抱え込み、住宅バブルの崩壊でそれらが一挙に不良債権化したことが発端だった。

REUTERS/Brendan McDermid

筆者は勤務先の大学で、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)を題材にした社会人向けの英語講座を開いている。

専門は英語ではないので、金融がらみの面白そうな記事を取り上げて、受講生たちと一緒に読んだ上で、筆者なりにコメントをしたり、関連の金融知識を説明したり、といった感じで進めている。この講座で2018年に取り上げた記事のうち、最も印象深かったものを紹介したい。

焦げついた住宅ローンで大儲け、さすがアメリカ

個人投資家の間で、返済不能になった住宅ローンを安く買って高い利回りを稼ぐ「不良債権投資」がトレンドになっているという。「さすがアメリカ!」という感じである。

字面だけ見ると、不良債権をあえて購入し、厳しく取り立てて利益を得るブラックなビジネスの印象もある。そういう例もあるとは思うが、実際には次のようなカラクリでうまく儲けているようだ。

まず、不良債権は、債務者にとって必ずしも「もう1円も返せない借金」を意味するわけではない。例えば、元本の6割ぐらいなら何とか返せるという時もあり、その場合は銀行と交渉して4割を債務免除(=銀行が債権を放棄して取り立てを諦めること)してもらえれば、全財産をはたいて返して、再出発できる。

だが、銀行はおいそれと債務免除には応じてくれない。元本の6割を返済して素寒貧(すかんぴん)になってもまだ4割債務が残り、いつまでたっても借金地獄から抜け出せず、果ては破産というのが残念ながら現実だ。

一方、銀行のほうも回収の見込みがない貸付金をいつまでも放置しているわけではない。多くの場合、回収不能と考えられる金額について、あらかじめ帳簿の上で損出し(損失を確定)をしてから、じっくり回収する。先に損を出しておいて、後でうまく回収できればむしろ利益になるわけだ。

こういう扱いのことを「不良債権の償却」と呼ぶ(焼却ではないから注意)。帳簿で損失を確定させたなら、その分はもう回収を諦めてくれてもよさそうなものだが、そうはいかないのである。

利回りは年率40%にもなる

サブプライム

不動産ローンの焦げ付きで差し押さえられ、売りに出された米カリフォルニア州の物件。

Kevork Djansezian/Getty Images

実はこうした仕組みに目を付けたのが、焦げついた住宅ローンを使った「不良債権投資」だ。わかりやすく単純化すれば、次のような感じになる。

投資家はまず債務者のところに行って、元本の6割までなら返せることを確認する。その上で、銀行に行って「このまま放置していても埒(らち)があきません。いたずらに管理コストがかかるだけです。どうでしょう、今年は業績も良好なようですし、額面の5割で買いますよ」と持ちかけるのである。

銀行からすれば1割の売却損が出ることになるが、住宅ローンは企業向け融資に比べて金額が小さいため、回収にあまり力を注ぎるとコスト倒れする。債務を免除するのは癪(しゃく)にさわるが、業況が良く多少でも余裕がある時期なら、誰かが買ってくれるならこの際、多少損が出ても過去を清算しておこうと考える可能性は十分ある。

さて、額面の5割で不良債権を手に入れた投資家は、返す刀で債務者のところに行って約束の6割を返済してもらう。代わりに残り4割の債務を免除する。こうして、投資家は銀行と債務者の両方から感謝されつつ、買値の5割と回収額の6割の差額、つまり1割を儲けることができるわけだ。

仮に、この間半年かかったとしよう。利益である1割分の投資額(額面の5割)に対する利回りは、年率換算で40%にもなる。

以前はハゲタカファンドの仕事だった

新生銀行

1999年9月、1000億円超の不良債権を抱えて破綻した日本長期信用銀行(現在の新生銀行)を買い受けたのは、「ハゲタカファンド」と呼ばれた米投資会社リップルウッド・ホールディングス。国が保有する同銀行株の譲渡価格はわずか10億円だった。

REUTERS/Eriko Sugita

こういう仕事は従前、いわゆるハゲタカファンド(英語ではvulture fund)と呼ばれるプロの投資家たちがやっていた。

リーマンショック以前の不良債権は、オフィスビルやショッピングセンターを担保にした金額の大きなものが多く、それを銀行から安値で買い叩いて、担保のオフィスビルなどを高めの金額で売却して値ざやを稼ぐビジネスモデルが主体だった。効率は良いが、巨額の資金が必要で、大手のファンドしか手が出せなかった。

日本でも、バブル崩壊後になかなか不良債権の処理が進まず業を煮やした政府が、銀行に不良債権の思い切った償却を迫った時期があり、そこに海外のvulture fundがやってきて、上のやり方で巨額の利益を上げている。

ところが、リーマンショックの原因となったサブプライムローン(=信用力の低い低所得者向けの住宅ローン)の膨大な不良債権は、小口のローンが主体だったため、ハゲタカファンドのようなプロの投資対象としては効率が悪すぎる。そこで登場したのが、素人の個人投資家だったのである。

たとえが悪いかもしれないが、それまでは大型処理施設で分解していたゴミを、土中でバクテリアが分解していくようなイメージ、とでも言えばいいだろうか。

常にうまくいくわけではなく、大きなリスクも伴うが、うまくいけばリターンもまた大きい。WSJの記事では、サイドビジネスのつもりで始めた投資が本業になってしまった若い男性の例が取り上げられていて印象深かった。

日本のアパートローン崩壊後に注目

アパートローン

これからの日本ではアパートローンを中心に不良債権の増加が見込まれる。

Shutterstock.com

まとめれば、不良債権投資は、

  1. リーマンショックや日本のバブル崩壊のように不良債権がまとまって生じる状況があり
  2. その後経済が回復するか、当局の規制強化などにより銀行が積極的に損失を出せる、あるいは、出さざるを得ない状況になった時に
  3. 債務者と銀行を橋渡しすることで大きな回収の負担なく値ざやを稼ぐビジネス
  4. ビジネスが成立する期間は限られているため、好機到来に素早く対応して旬が過ぎたら長居せず手仕舞うセンスが要求される

ということが言える。

以前の記事でも指摘したように、これからの日本ではアパートローンを中心に不良債権の増加が見込まれる。決して喜ばしいことではないが、その後に似たような不良債権投資の好機が到来する可能性がある。その場合でも、上のような「濡れ手に粟」の状況は簡単には生じないだろうが、うまいやり方を見つけ出す投資家が出てくるかもしれない。

Business Insider Japanの若い世代の読者が手を出すべき投資とは言えないが、海外の投資家が入ってきて大儲けするのも癪にさわるではないか。できれば日本人が取り組むことで、国内の貸し倒れ損失が、国内の誰かの利益になる「転んでもタダでは起きない」仕組みがつくれたら、セメテモノナグサメかなと思ったりする。


大垣尚司(おおがき・ひさし):京都市生まれ。1982年東京大学法学部卒業、同年日本興業銀行に入行。1985年米コロンビア大学法学修士。アクサ生命専務執行役員、日本住宅ローン社長、立命館大学教授を経て、青山学院大学教授・金融技術研究所長。博士(法学)。一般社団法人移住・住みかえ支援機構代表理事、一般社団法人日本モーゲージバンカー協議会会長。

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