セクハラ被害続出。就活OB訪問アプリの社会人ユーザーは男性8割。運営会社は対策をしているのか

OB訪問アプリを悪用した就活セクハラ被害が広がっている。Business Insider Japanはこれまでの記事で、夜に自宅に連れ込まれたり、レイプされた女子大学生がいることを報じた。複数人を同じ方法で誘い出す社会人もおり、OB訪問を悪用した“成功体験”から、同様の手口を繰り返している構図も浮かび上がる。

代表的な3つのサービスとその運営会社に、身元確認やセクハラへの対応策を聞いた。

関連記事:OB訪問アプリで広がる就活セクハラ。自宅に連れ込まれレイプされた女子学生も

スマホ

就活にとって今やスマホはなくてはならないものになっている。OBOGとつながるのも、専用アプリがある(写真はイメージです)。

GettyImages/Kohei Hara

OB訪問をしたい大学生と社会人をつなぐマッチングアプリでは、以下の3つが代表的なものだ。

ビズリーチ・キャンパス

同じ出身大学のOB・OGとマッチングできる。社会人は企業公認ユーザーとボランティアユーザーがいる。転職支援大手の株式会社ビズリーチが運営。

VISITS OB

出身大学を問わず、希望する業界・企業のOB・OGとマッチングができる。社会人は企業公認ユーザーとボランティアユーザーがいたが、アプリを通じて出会った女子大学生への強制わいせつ容疑で大林組の男性社員が逮捕されたことを受けて、ボランティアユーザーの中止を決定。VISITS Technologies株式会社が運営し、就職情報会社「ディスコ」と業務提携している。

就活

企業の本当の姿を知るにはOBOG訪問は欠かせないのだが……(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

Matcher

社会人からの要求に応えることを条件に、出身大学問わず希望する業界・企業のOB・OGとマッチングできる。株式会社マッチャーが運営し、リクルートキャリアと業務提携している。

「会話を監視して」「セクハラの定義から教えるべき」

前述したように、逮捕された大林組の男性社員は「VISITS OB」を通じて女子大学生と知り合った。初めて会った日に容疑者が自宅に連れ込み、わいせつ行為をした疑いだ。

Business Insider Japanは就活セクハラ被害を報じているが、2月12日から開始した「就活セクハラ緊急アンケート」には、上記3社も含めたOBOGとのマッチングサイトを通じた被害の声や改善要望が多く寄せられている。こうしたセクハラ、性暴力被害が起きないために、学生側が運営会社に求めるのはこんな対策だ。

就活

就活でセクハラ被害にあった学生たちには「どこにも相談できない」と泣き寝入りしているケースが多い(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

1. 身元確認

「OBマッチングサイトで何度か相談していた人に『俺が人事だったら絶対にとる』『見せるつもりのなかった会社の資料が家にある、君になら見せてもいい』と家に来るよう誘われた。このチャンスはどうしても逃してはいけないとついて行き、その資料を見ながら体の関係を求められた。 その後、その人が会社を半年前に辞めて独立準備中だということを知らされ、どうしようもなくなった」(女性、20〜24歳、学生)

所属企業の許可がない人は使えないようにすべき」(女性、20〜24歳、学生)

アプリの運営会社は必ず名刺や会社のアドレスを確認して欲しい」(女性、25〜29歳、会社員・団体職員)

2. 通報機能

「アプリ内に通報機能や相談窓口を設けて欲しい」(女性、20〜24歳、学生)

3. レビュー機能

「面談した学生からの匿名のコメントや評価が他の学生にも見えるようにする。また、どのような面談が行われたかを学生も社会人もアンケートなどでサービス運営者や企業に報告させるようにすべき」 (女性、20〜24歳、学生)

4. 利用の制限や罰則

「彼氏はいるか、どんなセックスをするかなどを聞かれて選考を辞退した。アプリ運営会社はセクハラ行為を見つけたらアカウントを永久凍結するなど厳しい規約が必要だと思う。」(女性、20-24歳、学生)

「アプリ上の会話を全て監視して欲しい」(女性、20〜24歳、学生)

会う場所はオフィス内に限定した方がいい」(女性、20〜24歳、学生)

また、そもそも何がセクハラなのかを記載すべきという意見も。

「何がセクハラであるか分からず嫌な思いをしても黙ってしまう人も多いはずなので、『セクハラとは何か』ということがわかる文面をアプリのわかりやすいところに記載して欲しい」(女性、20〜24歳、学生)

企業公認でなければ利用できないように

VISITS OB

VISITS OBは大林組男性社員の逮捕を受け、容疑者が利用していたサービスの停止を決定した。

出典:「VISITS OB」ホームページ

こうした声を元に、「セクハラ被害を想定してどのような対策をとっているか」「大林組社員の逮捕を受けて利用規約の改定を考えているか」などをサービス運営各社に問い合わせた。

「VISITS OB」を運営するVISITS Technologies代表の松本勝さんは「認識が甘かった。被害にあわれた方に心から申し訳ないと思っています」と話す。3月いっぱいをメドに全ボランティアユーザーの利用を停止し、またOB訪問の面談時間を昼に限定することや、場所も企業のオフィスやオープンな場所にして密室には絶対に行かないようにするなどガイドラインを作成する予定だという。

もともと上記のような決まりは企業公認ユーザーには説明会を開いて周知していたそうだ。企業公認ユーザーとは、企業が指定した自社社員のみが登録できる仕組みだ。

オフィス

撮影:今村拓馬

VISITS OBの学生の登録者数は約10万人(2019年2月時点)で「男女比は約半々」。一方、「社会人の登録者数及び男女比は非公表」だ。

問題になっているボランティアユーザーは、社会人登録者全体の3.6%(過去3カ月のアクティブユーザーにおいて)。つまりほとんどが企業の公認ユーザーだという。

もともとサービスを始めたきっかけは、OB訪問を通じて社員が学生にセクハラやパワハラをしてしまうのではないかと懸念を抱く企業の人事担当者から相談を受けたことだ。VISITS OBでは「オンラインでリスクを一括管理できるシステムを採用」(松本さん)。企業公認ユーザーの学生とのやり取りや行動記録は全て企業の担当者がモニタリングでき、またNGワードも検出される仕組みになっているという。

ビジネスパーソン

撮影:今村拓馬

LINEの連絡先を尋ねるなど他のアプリへの誘導の文言には警告を出すようにしており、ほとんどの人がそれで諦めるという。強制わいせつ容疑で逮捕された大林組の宗村港容疑者(27)も一度警告を出され、止めていたことが分かっている。

ボランティアユーザーは社会人から学生へのアプローチはできず、メッセージを開始するために企業ドメインのメールアドレスを認証することで所属企業を確認している。またボランティアユーザーと学生のやり取りは、システムだけでなく専任スタッフによる目視で常時監視しているそうだ。

就活

GettyImages/a-clip

学生のための通報窓口は設けているが、これまでに社会人と学生との間のトラブルは「金銭問題」が1件あっただけで、セクハラ被害はなかったという認識だ。何か問題が起きた時には、学生本人からヒアリングした後は社会人の所属企業に報告し、その後の対応は基本的に企業に判断してもらうフローだという。

学生による社会人のレビュー機能もあるが匿名では書き込めず、ボランティアユーザーに対するレビューは強制的に公開されるのに対し、企業公認ユーザーのものは企業の管理担当者が内容を確認して公開・非公開を判断できるそうだ。

システムとしては確かによく「管理」されているが、意思決定の多くが企業に委ねられているように感じた。

学生は女性6割でも社会人は男性が8割

ビズリーチ・キャンパス

出典:ビズリーチ・キャンパスHP

VISITS OB同様に社会人の企業公認ユーザーとボランティアユーザー2種類を抱えているのが、転職サービス大手のビズリーチが運営する「ビズリーチ・キャンパス」だ。

2019年2月時点の登録者は学生5万4000人以上(男性6割、女性4割)に対して社会人 2万2700人以上(男性8割、女性2割)と、社会人の男女比にかなりの偏りが見える。また企業公認とボランティアユーザーの割合については「回答は差し控える」(ビズリーチ広報室)とのことだったが、日経新聞の報道によると、社会人の登録者数の多くが個人のボランティアで、「後輩の力になりたいという愛校心によって成り立っている」(ビズリーチ担当者)という。

ボランティアの割合は「非公表」、身元確認は「可能な範囲で」

就活

就活はまさにこれから本格化する(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

ボランティアユーザーの所属企業などの身元確認は「可能な範囲で」行っているそうだが、その方法などについては「回答は差し控える」とのことだった(ビズリーチ広報室)。

登録している社会人の総数は「非公表」だが、ソニーや東京ガスなどの他、2018年1月にはオリックスの若手社員200名が、2月には住友商事の入社1年目の若手社員から中堅社員約350名が登録するなど、企業として導入する例も増えている。

利用規約には「面識のない他者との性交、わいせつな行為、出会い等を主な目的として利用する行為」を禁止していること、違反した場合は強制的に登録解除することが記してある。学生が社会人のメッセージ画面やプロフィール画面から通報できるようアプリ上に「通報ボタン」も設置しており、企業公認ユーザーの場合は、所属企業が学生とのメッセージのやり取りを都度閲覧できる仕組みもあるそうだ。

ビズリーチ

ビズリーチ・キャンパスのプレスリリース

出典:ビズリーチHP

一方で、これまでに上記のような行為を「把握したことはない」(ビズリーチ広報室)という。

「(大林組の件を受けて)学生の皆様の未来を応援するはずのOB/OG訪問で、このような痛ましい事件が起きたことを、非常に遺憾に感じております。学生と利用企業の皆様に安心してOBOG訪問を頂くために、双方に一定のご負担をお願いすることになりますが、サービス機能と規約の改定を進めます」(ビズリーチ広報室)

「就活相談にのるので、カウンセリングさせてください」

Matcher

Matcherホームページ

出典:Business Insider Japan2018年4月27日記事より

「就活相談にのるので、◯◯してくれませんか?」がキャッチフレーズで、「社会人のお願いを叶えることで、就活相談にのってもらえる」(公式サイトより)というユニークさがウリの「Matcher」。

サイトを覗くと、「身の回りで流行ってることを教えてください」「うつ病(傾向)の学生さん、カウンセリングさせてください」「美味しいスイーツを食べに行きましょう!」などの社会人のお願いが掲載されていた。

VISITS OB やビズリーチ・キャンパス同様に取材を申し込んだが、一切を「答えかねる」(担当者)とのことだった。

日経新聞の報道によると、2018年4月時点での登録者数は学生約1万6000人、社会人約7000人だ。

運営費は学生のデータベース

スマホ

撮影:今村拓馬

Matcherは登録している学生のデーターベースを契約企業に提供し、運営費用にあてている。

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その仕組みが「Matcher Scout」だ。Matcherが学生から社会人にアプローチするのに対し、Matcher Scoutは企業が学生にスカウトを送信する、いわゆるダイレクトリクルーティングだ。ホームページによるとGYAOやパソナなどが導入しており、候補学生のリストアップやスカウト送信、面談日程調整などは全てマッチャーの担当者が行っている。

ビズリーチ・キャンパスもこうした企業からのスカウト機能を備えており、学生は企業からインターンの案内やスカウトメールなどの連絡を受けたり、企業やビズリーチと提携する事業者が主催するイベントに参加できるようになる。Matcher Scoutと異なり、こうした連絡は主に企業の採用担当者が行っているそうだが、その際に学生の電話番号や住所などの個人情報企業が把握できない仕組みになっているという。

運営会社に取材すると(回答拒否はあったが)、それなりに社会人の身元確認、通報の仕組みなど“対策”はとっている印象は受ける。だが、私たちのアンケートに集まった被害を見る限り、これらは有効に機能していない。

社会人と学生の間には圧倒的な力関係が生じる。だからこそ、サービス運営会社は身元確認をより厳格化したりレビュー機能を強化したりするなどの対策をさらに進める必要があるし、これらのサービスを利用する企業は登録する社員の教育や使い方を考え直す必要があるのではないだろうか。

(文・竹下郁子)

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