Dyson 360 Heurist(ダイソン スリーシクスティー ヒューリスト)の実機。ルンバより直径がかなり小さく、一方で高さは大きいというデザインは第1世代と共通。ACアダプターはコンパクトだ。
ダイソンは2月27日、都内でロボット掃除機の最新モデル「Dyson 360 Heurist(ダイソン スリーシクスティー ヒューリスト)」の発表イベントを開催。同日から直営店とオンラインストアで先行発売を開始した。価格は11万8800円(税込)。量販店などでの一般販売は3月19日から順次開始する。
学習するロボット掃除機、何が変わったのか
360 Heuristは、ボディーの幅ギリギリまでローラーブラシがあるのが特徴。右下の赤い部分がそれ。水平回転ブラシなしでも、「面」の掃除力の高さを実現する仕組みだ。
ダイソンの初代ロボット掃除機「Dyson 360 Eye」は2015年10月に発売された。今回のDyson 360 Heuristは2世代目にあたる。新型のポイントはいくつかあるが、最新モデルの「力点」は、いわゆるスペックシートで語れるものとは少し違う部分にありそうだ。
吸引力は従来の360 Eyeから20%向上しているが、外観の大きさや基本的なデザインは第1世代から踏襲しており、上面も裏面も、パッと見は色が変わった程度にも見える。
左が2015年に登場した第1世代モデル。右が今回の第2世代モデル。ボディー下側の形状も見たところ酷似している。
違いがわかるのは上部。第1世代では、つるっとしたシンプルなデザインだ。
第2世代の360 Heurist。ボタンの周囲にWi-Fiの受信やバッテリーの状態を示すインジケーターが付いたほか、360度カメラ周囲の8つの溝の部分にも円周状にLEDがついた。
それもそのはずで、第2世代発売にあたってダイソンが力を入れたのは、ロボット掃除機の「賢さ」を支える部分、つまり“環境センサー”とその情報を処理する“頭脳”、そして快適なユーザー体験を作り出す“ソフトウェア”だ。
前面センサーの解説。360度カメラで環境マップをつくる一方、障害物にぶつからないようにする対物認識はこのセンサー類が担っていると思われる。
今回、センサーに関しては、長距離センサー、障害物センサー、壁面近接センサー、段差センサーを一新。
内蔵するプロセッサーは処理能力を第1世代の20倍に高めた1.4GHzのクアッドコアプロセッサー。さらに各種センサーに加えて、既存モデル360Eyeの特徴でもあった上部の360度カメラと合わせて、掃除する空間の認識能力と精度をより高めているという。
ダイソンのフロアケア部門 製品開発 シニアデザインエンジニア、ジェームズ・カーズウェル氏。
発表イベントに登壇したダイソンのジェームズ・カーズウェル氏(フロアケア部門 製品開発 シニアデザインエンジニア)は「ボディーにキーテクノロジーを詰め込んだ。未来のアップデートに対応できるプラットフォームである。購入したあとも、ソフトウェアのアップデートでどんどん向上できる」ような設計にしたと語る。
英語で「ヒューリズム」とは学習して成長する能力という意味があるが、360 Heuristという製品名もそこからきている。
名前こそ出さないが、競合機種を使った実際の吸い込み比較実演。それぞれ最も吸引力が強いモードに設定し、ゴミとして重曹約20ccを1000mmx600mm の幅で敷いた。水平回転ブラシを持たないこともあり、360 Heuristは埃のようなゴミについては、ほぼ撒き散らすことなく吸い込むことがわかる。
デモでは他社機種との集塵能力の違いも見せていた。水平に回転するブラシを持たず、ボディー幅ほぼいっぱい、横一直線のブラシを使うことで、「吸い漏らし」を極力減らすというのが、360 Heuristの基本的な設計思想だ。これに加え、従来から20%高めたという吸引力を合わせ、ダイソンでは「他社の4倍の吸引力」であり「吸引力も損なわれない」と説明している。
壁も障害物も「ギリギリ回避」をし続ける
フローリングの室内に見立てた実演展示の風景。
こういった背後に壁、手前にクッションといったシチュエーションでも360 Heuristはぶつからない。ただし、正面のセンサー位置の関係で、センサーに近い高さの部分が奥まった形状の障害物(宅内のAVラックなど)にはぶつかることも、実機で確認した。
この分野のライバル機種は言うまでもなく、先日新製品を発表したばかりのアイロボットの「ルンバ」。筆者はルンバユーザーだが、ルンバとの比較で一番気になったのは、その動き方の違いだ。
ルンバも360 Heuristと同様に周囲の環境認識をするが、最新機種でもその動作は壁や障害物まで進んで、ボディー周辺のバンパーがこつんと当たるまで走り、方向転換……というようなアルゴリズムになっている。
一方、360 Heuristが特徴的なのは「障害物にほぼ一切当たらない」ことだ(この特徴は初代機でも共通)。
さまざまな障害物を置いた発表会のデモでは、床に置いた植木鉢やカゴなどをちゃんと避けていくほか、床に置いたクッションも、ぎりぎりまで攻めるものの「接触」は一度もなかった。
つまり、床に置いた重量が軽い物体でも、360 Heuristに押されて場所が動く、といったことが非常に少ないだろうと想像できる。
ペアリングしなくてもロボット掃除機としては十分使えるが、スマートフォンとつなぐことで、Wi-Fi経由のアップデートや、時間帯別・エリア別などさまざまな高度な制御ができるようになる。
音声操作についてはアマゾンのAlexa対応。原稿執筆時点では英語とドイツ語のみの対応だった。
実機の動作チェックのためのデモ機を編集部に設置してみたり、住宅内で動かしてみたりしたところでも、挙動はまったく同じだった。
環境マップを一切持っていない初回の走行時から、テーブルやオフィスチェアの脚、床に置いたカバンといったものを巧みに「ギリギリ回避」して、掃除をしながら環境マップをつくっていく。
自分が部屋のどこにいるかを理解する「自己位置推定」は360度カメラの映像を主体に行なっている。360 Heuristでは新たに、360度カメラの周囲にLED照明を搭載した。これによって、低照度な(薄暗い)部屋でもナビゲーションできるようになっている。
試しに自宅のリビング全体を掃除させてみたところ。見た目にはきれいだと思っていたが、ちょっとびっくるするくらいの細かなチリと、埃が取れた。
室内のエリアごとに「強弱」を使い分けで自動掃除
ゾーニングについて説明するオルドレッド氏。こんな風に360 Heuristが作成する環境マップを区切る形で設定していく。名前もつけられAlexaから呼び出す場合には、そのカスタムの名称で呼び出せる。
発表会でシニアプリンシパルエンジニアのマイク・オルドレッド氏がさかんにアピールしていたのは、周囲の環境認識の精度の高さと、そのデータに基づくパーソナライズだ。
第1世代に比べてカメラから取り込める情報量を増やし、クアッドコアプロセッサーと「長期メモリー」の容量を32倍に増やした結果、20倍多くのデータを扱えるようになったという。それによって、より品質の高い環境マップの生成と、高精度な自己位置推定ができるということだった。
これによるメリットは
・掃除するエリアの重複が少なくなることによる効率的な電力消費
・きめ細かな室内のゾーニング
の2つがある。ゾーニングの機能はなかなか面白い。
スマートフォンとペアリングすると、360 Heuristが自動生成した環境マップをスマートフォンから見ることができる。
このマップの中を直線で区切って、エリア別に3段階の掃除モードを設定して使うイメージだ。日本の住環境でいえば、玄関口近くの埃が多そうなエリアや絨毯のある場所は「強」モード、さっと掃除しておけばいい程度のリビングは「静音」モード、といった使い分けができる。
環境マップをつくったあと、エリアを区切ってみた(画面下)。すべて通常モードになっているが、好み次第でエリアごとに「強」や「静音」モードを切り替えることができる。
デモでは、ダイソンが言うように、自己位置推定の精度がかなり高そうなことが感じられる。リビングを模したセットでの実演では、カーペット部分を「静音」ゾーンに設定すると、カーペットに差し掛かった瞬間に動作音が小さく、エリアから出ると「強」モードで掃除する様子を見られた。
なお、ダイソンによると、購入後のアップデートによる「機能強化」は今後1年分程度はすでに予定が立っているという。
「買ってから機能が増える、性能が上がる」のは、EVメーカーのテスラが得意とするビジネスモデルだが、白物家電にも同様の世界観を作るメーカーが出てきたのは面白い(実は、アイロボットも同様のアップデート型モデルを採っている)。
この「賢さ」がどの程度、実際にも体感できるのか。後日、実機を使ったレポートでお伝えしていきたい。
(文、写真・伊藤有)