高級家電「ザ・トースター」のバルミューダはなぜ韓国で大ヒットしたのか —— 1〜2年で北米展開も視野に

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韓国で世界初披露した空気清浄機の新製品「バルミューダ ザ・ピュア(BALMUDA The Pure)」。左はバルミューダの寺尾玄社長。

高級トースター「ザ・トースター」など、個性的でデザイン性の高い白物家電を次々に発表する家電メーカーとして、量販店の家電売り場でも一目置かれる存在になったバルミューダ。

積極的な海外展開を進めた結果、いまやその売上高の約3割を韓国市場から得ていることは、あまり知られていない事実だ。

2月12日、バルミューダは韓国で空気清浄機の新製品「バルミューダ ザ・ピュア(BALMUDA The Pure)」を発表した。同機は日本でも発売する製品だが、それに先駆けて韓国で披露した形だ。同社の寺尾玄社長は、その理由を「我々にとって韓国が重要なマーケットだから」と話す。

なぜバルミューダは韓国市場で「売れる家電」の地位を築けたのか?

当初は苦戦した韓国参入

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バルミューダ ザ・ピュアの日本国内での発売は3月14日から。価格は5万2000円(税別)だ。

バルミューダが韓国市場に参入したのは2012年のことだ。

「当時、東小金井にあった当社の事務所に、現在の現地代理店であるリモテック社の方がいらっしゃいました。“ぜひ韓国で販売したい”とお話をいただき、そこから韓国市場に参入することになりました」と、同社のビジネスオペレーション部佐藤弘次部長は当時を振り返る。

新製品バルミューダ ザ・ピュアと佐藤部長

新製品バルミューダ ザ・ピュアと佐藤部長。

2012年に最初に韓国で発売したのはサーキューレーター「グリーンファンサーキュ(GreenFan Cirq)」、続いて扇風機「グリーンファン(The GreenFan)」を発売した。グリーンファンは、東日本大震災を背景とする省エネ性の再評価の流れを受け、扇風機としては高価格にも関わらず日本国内で大ヒットし、バルミューダ飛躍の原動力となった製品だ。それでも「サーキュレーター、扇風機を発売しても韓国での販売数は伸び悩んでいました」(佐藤部長)。

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韓国進出は、2012年のサーキュレーター(写真内一番右)からはじまった 。

しかし、2013年に空気清浄機エア エンジン(AirEngine)を発売してから状況が変化する。

「2013年秋頃から、韓国のメディアでPM2.5に関する報道が増え、空気をキレイにするというニーズが高まりました。こうした社会的な要因が後押しとなり空気清浄機の売れ行きが伸び、現在では韓国への出荷台数は日本の10倍です」(佐藤部長)。

さらに、「(現地代理店の)リモテック社が手がけたブランディングが非常にうまくいったと思います」と続ける。

インフルエンサーの起用が転機に

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空気清浄機、トースター、デスクライトなど各アイテムのカラーバリエーションを分かりやすく展示する現代百貨店。

韓国市場における同社のチャネル別シェアは7割がネット通販・テレビショッピングだ。

「韓国は日本に比べてインフルエンサーの影響が大きい。当社の認知度が上がったきっかけがニューヨーク在住のインフルエンサーChoi MoonKyu(チェ・ムンギュ)さんがブログで紹介したことです。その後テレビショッピングで当社の空気清浄機が15分で300台売れました。以降、テレビショッピングの度に売れ行きがよく、韓国市場で空気清浄機を販売するのに自信が持てました」と話すのはビジネスオペレーション部海外セールスチームの伊奈博彦リーダーだ。

いま、韓国での売り上げの3割を占めるのは、高級家電が売れる百貨店ルートだ。

バルミューダは韓国参入当初から百貨店での販売を行っており、現在韓国内での直営店は12店舗だ。すべて百貨店内への出店で、そのうち1店舗は百貨店内のインショップである家電量販店ハイマート内への出店だ。

今回、パンギョ(板橋)にある手百貨店の現代(ヒュンダイ)百貨店内を見学する機会を得た。バルミューダの売り場は、エスカレータのすぐそばの通路に面したよく目立つ場所にある。売り場は、全体的に低い什器(

じゅうき)を用い、白を基調に木目をアクセントにした明るく清潔感のあるつくりだ。

「百貨店内でも目立つ立地に出店することで、百貨店にいらっしゃるお客様の認知度を高めるねらいがあります」(伊奈リーダー)。

ハイマートの入り口

ハイマートの入り口。

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シネコンなどが入る百貨店内にある、ハイマートの売り場。販売しているのはリモテックでバルミューダ製品販売に関する教育を受けたスタッフだ。

最後に見学したのがセレクトショップだ。子供服やほかの生活アイテムなどとともに展示してあり、バルミューダ製品がある生活空間をイメージできる。「セレクトショップだから販売するのではなく、バルミューダの世界観にあった店舗を選んで販売しています」と伊奈リーダーが説明する。

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子ども向けのアイテムと、照明の展示。

こうした取り組みが奏功し、バルミューダの製品は韓国で「デザインと機能に優れている製品」として認知度を上げ、20代30代の若い世代を中心に人気を博しているという。現地取材中に、結婚祝いにバルミューダ 製品を購入した男性や、まとめ買いする新婚カップルの姿を目撃したのが印象的だった。

いま、バルミューダでは、会社自体の認知度を上げるために、展示会への出展にも取り組んでいる。

「当社は日本国内の展示会には出展していませんが、韓国ではソウルリビングデザインフェアなどに出展しています。デザイン感度の高い一般人や専門家が訪れる展示会で、バルミューダの大きなブースを設け、当社を広く知っていただきたい」と伊奈リーダー。

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デザイン系の展示会で大きなブースを設けてバルミューダのデザインの魅力を伝えた(写真提供:バルミューダ)。

最近では、寺尾社長が韓国内で開催されたHerald Design Forum(ヘラルドデザインフォーラム)でメインスピーカーとしてよばれるなど、会社としてのバルミューダのブランド認知度、経営者としての寺尾社長の認知度が上がってきた。

日本の新興家電メーカーの「海外ブランディング」の成否の要素

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「バルミューダは15年間で売り上げが1850倍になった。一度できたことはまた出来ると思っている。今後15年でまた1850倍にできるはず」(寺尾氏)。

今回、韓国での取材の中で「バルミューダはブランディングがうまくいった」という話をいろいろなところで耳にした。そこで、発表会後の個別取材で、寺尾社長にブランドとは何かと聞いたところ、寺尾社長は次のように答えた。

「ブランドとは、バルミューダにとってもっとも重要なもの。ブランドとは1つ1つのコミュニケーションがブランドとして形成されていくもの。ブランドとは信頼です。1つ1つの商品こそがブランド価値をあげるものです」

空気清浄機のヒットを経て、いま韓国で人気なのが日本でも同じみの「バルミューダ・ザ・トースター」だ。「韓国では”死んだパンをよみがえらせるトースター”と言われてSNSで人気が出ています」とリモテック社の担当者は説明する。

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個別取材にこたえる寺尾玄社長。

「韓国での成功がそのまま他の国で生かせるわけではない。その国その国の生活の感覚が大きいので、ローカライズが必要」と寺尾氏。同社が今後成長する上で、海外展開は欠かせないが、その目標は高い。「将来的には海外の売り上げ比率を6~7割に引き上げたい」(寺尾氏)という。

北米市場には、1~2年のうちに進出する

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発表会参加者に対してリベイク(焼き直し)したパンの試食を実施。

現在、バルミューダは韓国のほか、台湾や中国、ドイツの市場に参入している。さらに、同社では「1~2年のうちに北米市場参入を目指して現在準備をすすめている」(佐藤部長)という。

「北米進出はまずキッチン家電から。北米のキッチンは冷蔵庫など大きな家電は既に持っている人が多いですが、当社のキッチン家電のような小物家電なら追加アイテムとしてニーズが期待できます」と佐藤部長は意欲をみせる

韓国でのプレス発表会では、同社のトースターでリベイク(焼き直し)したクロワッサンの試食が提供された。

バルミューダ の寺尾社長は「バルミューダ はモノではなく体験を売っている」と口にする。味覚に訴えるトースターは「体験」を実感しやすいアイテムだ。

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バルミューダ は2月28日、「BALMUDA The Pot」のスターバックス リザーブ限定モデ「BALMUDA The Pot Starbucks Reserve Limited Edition」も発表している。通常、限定モデルをつくらない中で異例といえるこのコラボも、北米進出の布石だ。

キッチン家電に強みをもつバルミューダが、今後海外でどのようにブランドを浸透させていけるのか、注目しておきたい。

(文、写真・伊森ちづる)

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