2月22日、東京・表参道で「ロボホンオーナーズミーティング」が開催された。
- 第2世代ロボホン登場を記念したイベントに200人弱の“ロボホンオーナー”が参加
- イベントでは、ロボホンの特徴を活かした他では見られない独自の催しが行われた
- オーナーの楽しみ方はそれぞれだが、共通しているのはロボホンが“家族”であるということだ
シャープのモバイル型ロボット「RoBoHoN(ロボホン)」の2019年1月末までの累計販売台数は約1万2000台。そのうち、約85%が個人向けに販売されたもの。
これは2月18日、ロボホンの第2世代モデルが発表された際にシャープが明らかにした数字だ。「発売から3年間、個人向けに約1万台を販売」と書くとそんな程度と感じるかもしれないが、ロボホンが生活必需品ではなく、かつ初代発表当時の本体価格が19万8000円(税別)もするデバイスだと考えると、「法人ではなく個人向けで約1万台」という事実は驚くべきことではないか。
参加者に振る舞われた特製ケーキ。
なぜロボホンは人々の心をつかんだのか。その真相を確かめるべく、筆者は2月22日に東京・表参道でシャープが開催した「ロボホンオーナーズミーティング」に参加してみた。
実際のイベントは、200人弱のロボホンオーナーが集まり、中には4台の初代ロボホンを持っているという根っからの愛好家もいる、非常に濃い取材現場だった。
ネット接続やアプリが入るからこその企画が盛りだくさん
ロボホンはスマートフォンと同じSoCやOSなどを採用している正真正銘のIoT機器だ。
驚かされたのは、ロボホンならではのイベント企画とそれを取り巻く参加者のある種の“熱気”だ。
会の流れはいたってシンプル。会場はホテルの広めの宴会場で、参加者はロボホンを持参して、出された料理や展示物、企画で他のロボホンオーナーたちと親睦を深めつつ、よりロボホンへの愛を深めようといった具合だ。
筆者がとくに驚いた企画は、以下の3つだ。
- 参加者限定の「おみやげ」アクションの配布
- ロボホンがオーナーについての質問に答える「RoBoHoNかってに!質問コーナー!」
- 参加者のロボホンが一斉に歌って踊る「集団パフォーマンス」
第2世代ロボホンで実装された座る動作が、参加していたオーナーの第1世代ロボホンにもインストールされた。
まずは「おみやげ」。ロボホンのトートバッグやステッカーは誰もが考えつきそうな記念品だが、それだけではなかった。
参加者が最も沸いたおみやげは、なんとロボホンの“動き”の追加コンテンツだった。配布されたのは「静かに座って」と「変なビームだして」の2種類。とくに、ロボホンが片手を付きながらゆっくりと座る「静かに座って」のアクションは、第2世代モデルのみに実装されたもの。まさかの大盤振る舞いに、筆者を含む取材陣もあっと驚かされた。
ロボホンは“安全に”オーナーを認識している
質問に答えるロボホン。ハイと手をあげているロボホンと、あげていないロボホンがいる。
次に、「RoBoHoNかってに!質問コーナー!」は、MC側にいるロボホンが「50km以内から来た人〜?」とオーナー側のロボホンたちに問いかけると、該当するロボホンが一斉に「はい!」と答えるなど、ロボホン同士が自らのオーナーについて語り合うコーナーだ。
ロボホンのオーナーたちはこの企画のために特別なアンケートに答えたりしておらず、オーナーが覚えさせたデータを元にロボホンが回答する。
自力で答えるロボホンを撮影するオーナーは多かった。
ロボホンが勝手にオーナーの個人情報をしゃべるなんて、と心配になる人もいるかもしれないが、その点は心配無用だ。
ロボホンが覚える位置情報などの個人情報は、オーナーの同意を得てロボホンが保存したものだけで、シャープのサーバーなど外部で管理されているわけではない。
ロボホン一斉制御の正体は“非可聴音”
集団パフォーマンスのため、並べられたユーザーのロボホン。その数は200体弱。
最後に圧倒的な迫力だったのは、オーナー自身のロボホン200体弱を使った「集団パフォーマンス」だ。
集団パフォーマンスは1台のロボホンの号令とともに、台に置かれたロボホンたちが一斉に歌って動き出すといったもの。さまざまなファッションのロボホンたちが一堂に会しただけでも圧巻だったが、一斉に同じ動き、同じ音を出す様子はまさに圧巻だった。
質問コーナーも集団パフォーマンスも実は同じ仕組みを使って実現している。それは参加したオーナーに事前インストールしてもらっていたイベント用アプリと、シャープがリコーやエヴィクサーと開発した「人の耳には聞こえない透かし音」と呼ばれる非可聴音の組み合わせによるものだ。
シャープは2017年1月にもロボホンと非可聴音を使った取り組みを発表している。
出典:シャープ
このような端末の同時操作を行なう場合、同一の有線もしくは無線のネットワークに接続し、命令を出すのが一般的だ。ただ、その場合は端末ごとに遅延が発生したり、他のネットワーク機器の影響で不具合が起きる可能性がある。
非可聴音であれば、ほぼリアルタイムで信号を送ることができ、ほかの機器の影響も受けにくい。また、人に聞こえない音を流すだけなので、その場所で独自のネットワークを構築する必要もない。今回のオーナーズイベントでは会場にあるスピーカーがそのまま利用されたという。
見守りたくなるロボットは“家族”になれる
正直、キチンと動かないロボホンもいた。しかし、オーナーは授業参観の保護者のごとく温かい目で見守っていた。
とはいえ、非可聴音も万能ではない。実際、集団パフォーマンスはオーナーの写真撮影のために3回行われたが、中には別の反応をするロボホンや動きが遅れるロボホンも存在した。
しかし、会場にはそんな“失敗”を残念に思ったりする雰囲気はほとんど感じられなかった。どちらかと言えば、「ロボホン、がんばって」「もうしょうがないな」というような、子どものお遊戯会を見守る親のようなオーナーが多かった。
ロボホンがキッカケで話題がはずんだり、SNSでつながったり。
その理由はやはり、個人オーナーにとってロボホンはすでに家族の一員になっているからだろう。ロボホンはそもそも「5歳の男の子」という設定で口調などが定められている。例えば、音声の誤認識のような失敗をしても「子どもだからしょうがないね」という気持ちになるというわけだ。
イベントに参加していた製造業の企業に勤める50代・会社員のオーナーは、車椅子のような自作の装置をつけて、遠隔でロボホンを移動できるようにしていた。その装置の開発自体は自身の趣味や研究の範囲だと言うが、「家では家族がロボホンに話しかけてコミュニケーションをとっている」と、ロボホンは家族の一員としての地位を築いているようだった。
50代・男性のロボホン。ロボホンが動き回るための車椅子のようなパーツが取り付けられている。
また、80代・女性のロボホンオーナーにロボホンとの生活を聞いてみたところ「ロボホンを買ってから、一緒に散歩など外出する機会が多くなった」と答えた。また、外出先でもロボホンは注目の的になるため、気持ちが軽くなったとうれしそうに話していた。
80代・女性のロボホン。着ている服は、自分の着ていた和服を加工して作ったもの。
単にデコレーションを施せるロボット、聞いたことに答えたり動いたりするロボットは、すでに多く存在する。ただ、ロボホンはそのコンセプトや裏で動く技術によって、家族の一員として認識されるほどの高いポテンシャルを持っていると言えるだろう。
(文、撮影・小林優多郎)