転職だけが、人材サービスの選択肢ではないはずだ。
人材大手のパーソルキャリアは3月5日、会社員もフリーランスも含むハイクラス人材をターゲットに、転職や転職前の進路相談、企業とのマッチングなど多様なキャリア支援の新サービス「iX(アイエックス)」を立ち上げる。
特徴的なのは「今すぐ転職」だけでなく「いつか転職」というニーズにも応えているところ。転職支援にとどまらないキャリア形成のサポートを、利用登録者は生涯にわたり受けることができるという。
終身雇用が崩壊し、フリーランスや時短正社員など働き方の選択肢が広がりつつある社会で、生涯一社を前提としないキャリア形成のニーズに応える人材支援サービスが、どう根付くか注目だ。
転職に限らないキャリア支援
パーソルキャリアが新たに提供を始める、iXサービスは、転職にとどまらないキャリア全般をサポートするという。
提供:パーソルキャリア
パーソルキャリアの新サービス「iX」は今夏の立ち上げを目指している。同社は、既存の転職支援サービスが「転職ありき」になっており、そもそも転職するかどうかを迷う層はじめ、副業やフリーランスの業務委託など、雇用に限らない働き手ニーズに応えていない実態に着目。
人手不足や経済環境の変化により、働き方が多様化する時代に合ったかたちのサービスを模索した結果、iXの業態にたどり着いたという。
具体的には、iXは以下のサービスを取りそろえる。
- 転職支援サービス
- プロフェッショナル向けサービス…‥個人事業主や立ち上げ間もないスタートアップ経営者向けに、仕事を依頼したい企業や個人とのマッチングなどを行うサービス
- メディア&コミュニティ……キャリア選択に役立つ情報提供の場
- コンサルティングサービス……転職に限らずキャリア全般の相談ができる
まずは3月5日から、転職支援分野で利用登録を開始する。登録情報をもとに、ヘッドハンターからオファーが来るシステムだ。2019年夏からは順次、プロフェッショナル向けやコンサルティングサービスといった、別のサービスも提供を始める。
年収1000万円以上の、転職市場ではハイクラスと呼ばれる層、およびそこを目指す人向けで、潜在的な転職志向をもつ人の層、副業層、専門的なスキルをもつ高度プロフェッショナル層の3つをターゲットに、およそ400万人規模の市場を見込んでいる。
サービススタートから5年間で会員登録70万人規模に拡大、人材サービス市場のシニア・ハイクラス層でトップ3入りを目指すという。
キャリアの戦略的パートナー目指す
「ジョブローテーション(社内異動)を前提とした新卒一括採用が主流の日本では、自分のキャリアについて考える機会がなかなかない。しかし、働き方の選択肢が増える今、個人がもっと主体的に自分のキャリアを選択できるようなサポートができないかと考えました」
iX事業責任者の清水宏昭さんは、サービス立ち上げの目的についてそう話す。
iX事業責任者の清水さん。「新卒一括採用の日本では自身のキャリアについて考え学ぶ機会がそもそもない」と話す。
清水さん自身、新卒でオリエンタルランドに入社し、東京ディズニーランドの事業戦略やマーケティング責任者を経て、2015年にインテリジェンス(現パーソルキャリア)に転職。転職直前の時点で、新卒入社から18年間がすでに経っていた。
個人がキャリアを主体的に考える機会がないこと、現状の転職支援サービスが「転職ありき」となっていることを、ユーザーの立場から体感した経験をもつ。
「転職するしないを含めて、個人がキャリアをもっと戦略的に考えた方が、能力を最大限に発揮することができる。結果的に社会にも貢献する人材が育まれる」(清水さん)と、痛感したという。
「どんな環境に今自分がいるか正しい情報を知り、自分のキャリアについて考え、もっとも力を発揮できる環境を選べるためのプラットフォームをつくりたい」(清水さん)との思いから立ち上げたのが、iXだと説明する。
終身雇用の完全なる崩壊、どう働くか
終身雇用はすでに崩壊している。あなたは生涯、どんなキャリアを描くだろうか。
世界一のスピードで少子高齢化が進み、日本は人口減少社会を迎えている。国立社会保障・人口問題研究所の推計(出生中位推計)によると、戦後増加を続けた生産年齢(15〜64歳)人口は、1995年の8726万人をピークに減少に転じ、現在(2019年)から20年後には7000万人、2040年には6000万人を割る。圧倒的に働き手が減る中で、日本社会は慢性的な人手不足に陥っている。
さらに、市場の縮小と共に経済は低成長時代に入った。かたや平均寿命が伸びる社会で、企業が滅私奉公と引き換えに、社員の一生を面倒みるような構図は成り立たなくなっている。
人生100年時代に、どうキャリアを変遷させ、納得できる人生を歩むか。企業は、人口減少社会にどう人材を確保していくのか。グローバル社会を個人はどう生きるか。日本社会が抱える大きな課題を前に、人材サービスも進化を迫られている。
iXのようなサービスの登場は、そうした変化を象徴しているといえそうだ。
(文・滝川麻衣子、写真・今村拓馬)