新出生前診断の施設拡大。それで孤立する妊婦は救われるのか?

日本産婦人科学会は、妊婦の血液検査で胎児の染色体異常「新型出生前診断」(NIPT)の施設要件を緩和する方針を固め、3月2日の理事会で了承した。

これまでは、NIPTを施行できる施設は小児科専門医も在籍する大病院に限られていたが、新指針案では、小児科医の関与が必須ではなくなり、検査可能な施設が大幅に増加する見込みだ。

結果出るまで自分を責めた2週間

誕生直後に泣く新生児

日本では新型出生前診断によって妊娠中の胎児の状態を検査したいと思う層は広がりつつある(写真はイメージです)。

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NIPTとは:原則35歳以上の妊婦が受けることができ、母体の血液から胎児のDNA断片を検出し、染色体異常を調べる検査で、国内では「新型出生前診断」と呼ばれている。正確に言うと「診断」ではなく、あくまで染色体異常の確率を診断する検査であり、陽性が出た場合は羊水や絨毛から細胞を採取して確定診断をする必要がある。

NIPTではないけれど、出生前診断を私は受けたことがある。2012年と2015年に出産したが、当時はまだ日本ではNIPTは受けられなかった。妊娠中の胎児の状態を検査することは、日本では今でも一般的なこととは言いがたいが、当時は今よりももっと受ける人は少なかった。

最初に受けたのは妊娠11〜13週くらいに行う胎児超音波で、胎児の状態を知るためだった。出生前診断というとダウン症ばかりが話題になるが、妊娠初期の胎児超音波では、心奇形(心臓の奇形)や内臓の奇形などがあれば詳細に観察でき、診断することが可能だ。

2012年、2015年ともに、首の後ろがやや厚くなっている(これがあるとダウン症の可能性があるとされる)と指摘され、絨毛検査を受けることになった。絨毛検査とは妊娠11〜13週にお腹に針を刺して絨毛を採取する検査で、胎児の染色体異常を診断することができる。

もし子どもがダウン症だったらどうするか、事前に結論を決めてはいなかった。絨毛検査から迅速診断結果を聞くまでの2週間程度の間にいろいろ調べたが、知れば知るほど結論は出なかった。と同時に、結論を決めずに検査を受けたダメさ加減や、「どんな子でも受け入れる」覚悟がないかもしれない自分自身に後ろめたさを覚えた。

異常があっても産む場合、心血管奇形などの合併症があらかじめわかっていれば、出産時の対応がしやすいだろうとも考え、検査を受けたことの正当性を自分に言い聞かせたりした。

結果を待つまでの間、産むとしたらどうやって育てていくのか、思春期が来たら性処理をどうするのか、早発性認知症(ダウン症は早老症もあるので、若年での認知症発症が多い)にはどう対応するのか、自分が先に死んだら?と、考えに考えた。さまざまな情報がぐるぐるとまわり、食べ物も喉を通らず、結局結論を出すことができない2週間だったが、結果はいずれも陰性だった。

開業医でも条件満たせば検査可能に

新生児を抱く母親

新型出生前診断で陽性という結果が出た場合、その後の選択は妊婦とその家族に委ねられる。カウンセリングなどその選択に対するフォローの必要性が指摘されている(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

新型出生前診断、NIPTが2013年に日本に導入されてから、血液検査のみで、高い精度で染色体異常の確率を算出できるようになった。それまでの血液検査は精度が低かったため、絨毛検査をしなければならなかった人々が、NIPTの導入により簡単な検査で済むようになったのだ。

NIPTのダウン症に対する特異度は99.9%(特異度とは、病気のない人が、その検査で陰性が出る割合のこと)で、陰性と診断された場合には染色体異常はほぼないと考えていい。だが陽性が出た場合でも、注意すべきはそれが確定診断ではないということだ。確定診断をするためには、絨毛検査あるいは羊水穿刺(絨毛検査よりも遅い16週以降に羊水をとり、胎児の染色体異常を調べる検査)で、直接染色体を確認する必要がある。陽性と判定され、さらに確定診断を行った場合の中絶の確率は9割にのぼる。

現在、NIPTは認定を受けた一部の施設でしか受けられない。現在の認定施設の要件は常勤の産科医、小児科医が在籍し、いずれかが臨床遺伝専門医であること、検査前後で遺伝カウンセリングを受けることが必須とされてきた。

しかし、日本産婦人科学会は、施設の認定条件を以下のように緩和する新方針を出した。

  • これまでの認定施設の要件同様の「基幹施設」
  • 上記に加え、「連携施設」(開業医でも可)を設置。遺伝カウンセリングや小児科専門医の在籍は必須ではないが、研修を受けた産科医が勤務している分娩施設であることが条件。

乱立する検査施設と検査への高いハードル

FMC東京クリニックの中村医師

FMC東京クリニックの中村医師。

撮影:松村むつみ

これまでは検査への高いハードルがあった。検査できる施設が少なかった上に、遺伝カウンセリングや検査説明、結果説明などは夫婦そろって受けることが義務づけられることも多く、多い場合は3回程度通院しなければならない。仕事をしている夫婦にとって負担である。

「夫婦そろって」という条件が課される場合は、シングルマザーが受診できない場合も多い。検査できる施設が限られているだけでなく、妊婦側の検査できる期間も限られているため、予約がとれないこともある。

こうした「高いハードル」を背景にしてか、最近では認定されていない施設も多く登場している。経営している医師は産婦人科医でないことがほとんどと言われ、検査説明、結果説明もなく、郵送で結果を送りつけるだけ、という場合も多いという。採血のみという簡易な検査なので、認可外施設でも容易に行えることから、その広がりが懸念されてきた。

こうした認可外施設で検査を受け、陽性だった場合はさらに絨毛検査や羊水検査が必要となり、きちんと確定診断してくれる施設の受診が必要だ。今回の産科婦人科学会の規制緩和には、認可外で受診するよりは条件を緩和した認可施設で受診してほしいという背景がある。

しかし、日本で数少ない胎児診断専門クリニックである、FMC東京クリニックの中村靖医師は、「規制緩和されても、現在の施設の乱立はあまり変わらないかもしれない。むしろ一般の産婦人科医がこの検査をできるよう、門戸を広げることは必要だ」と話す。条件緩和後も「分娩施設であること」という要件が含まれるため、多くの産科クリニックでは検査を行うことができない。

中村医師のクリニックには臨床遺伝専門医、遺伝カウンセラーも複数在籍し、陽性が出た場合の絨毛検査や羊水検査を行うこともできるが、基準緩和後も、分娩施設ではないため認定されないかもしれない。

中絶を選択し孤立する妊婦たち

深刻な面持ちで電話をかける妊婦

『安易な中絶』と言われるが、女性の人生において妊娠期間は一時的なもので、出産後の人生の方が長い(写真はイメージです)。

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こうした現実と乖離した認可拡大はなぜ起きるのか。

「妊婦さんの立場に立って考える人が誰もいないのが現状です」と前出の中村医師は語る。

「『安易な中絶への懸念』とよく言われるように、妊婦さんはあたかも『自分で考え、判断することができない人』のような扱いをうけがちです。妊娠期間は人生においては一時的で、出産後は別の悩みが待っている。妊婦さんたちの声が届きにくい構造があるのです」

前出のような認可外施設はもちろん、ある程度設備の整った施設でも陽性が出たときのサポート体制が整っているとは言いがたい場合もあるという。例えば、適切なカウンセリングがなされなかったり、医者や助産師個人の価値観により対応にばらつきがあったりするようなケースだ。

出生前検査を受ける妊婦は検査を受けることに対して罪悪感を感じている人も多く、陽性が出た場合、周囲からの支援もなく一人で悩むことも多い。特に「中絶」に対しての世間の空気は厳しく、実際に中絶を選択した妊婦は孤立しがちである。

「安易な中絶は悪だ」という考えが世間にはある一方で、実際に障がいのある子を妊娠した場合、近親者が比較的簡単に中絶を勧めるケースもあり、妊娠や出産、中絶に関して社会には「ダブルスタンダード」が存在しているとも言える。

健常児でも子育ては大変であり、周囲の手を借りなければ回らない。障がいのある子を育てることができるか、自信のない人のほうが多いのではないだろうか。結果、子どもを諦めるという決断をした人を、誰も責めることはできない。

私も医学生の実習時に中期中絶を見学したり、自分が流産の手術を受けたりしたこともあるが、いずれも心身ともにかなり大変で、「安易な中絶」という言葉には違和感がある。

「中絶を決断しても悩んだ上の結論であり、『大変だったね。よくがんばって決断したね』と、妊婦さんを受け入れる考えがあってもいいのではないか」

中村医師は、妊婦への理解の必要性を語った。

「情報が与えられないまま」でいいのか

日本では出生前検査に関して必要な情報が妊婦にあまり与えられていない一方で、インターネット上にはさまざまな情報が氾濫する。「検査」自体が中絶につながるとしてあまり推奨されてはいないことが、結果として認可外施設の乱立を招き、妊婦へのサポート体制の整備につながっていない。

出生前診断には必然的に倫理的な問題が生じるが、「染色体異常のみではなく、かなりの胎児の異常が妊娠早期に発見されてしまう」時代に、世界はすでに突入している。そのことを直視する必要があるのではないだろうか。

結果的に出産という選択をしても、不安にならない社会の構築も急がれている。中村医師は、

「出生前診断で胎児の状態を知ろうということと、今いる障がい者の方々に手厚くしていこうということは、両立すると思うのです」

と語る。

しかし、今「障がいのある方を安心して産み、育てることができる社会」となっているだろうか。そういう社会がなかなか構築されない中で、出生前診断をめぐる「選択」から目をそらせることは、これ以上できないのではないか。

編集部より:初出時、NIPTの説明として染色体異常の確率を診断する検査」としておりましたが、「染色体異常を検出する検査」と変更します。また、「NIPTのダウン症に対する特異度は99.9%で、陰性と診断された場合には染色体異常はないと考えていい」とあった部分を「ほぼないと考えていい」に変更します。2019年5月20日 16:00

松村むつみ: 1977年、愛知県生まれ。2003年名古屋大学医学部医学科卒。2009年より横浜市立大学で乳房画像診断、PETを中心に画像診断を習得。大学病院で助教を勤め、放射線診断専門医、医学博士を取得。2017年にフリーランスの画像診断医に。現在は神奈川県内の大学病院など複数の病院で、乳腺や分子イメージングを中心に画像診断を行う。自宅でも国内の遠隔地や海外の画像の遠隔診断を行う。

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