“バイトテロ”責める前に企業がやるべき4つのこと、飲食チェーン元カリスマ副社長の提言

大戸屋

原則、国内全店舗を1日休業して研修を行うと発表した大戸屋。1日あたりの全店での売り上げは約1億円と報じられている。

撮影:今村拓馬

飲食店のアルバイトらによる不適切な動画の投稿、いわゆる“バイトテロ”が相次いでいる。大戸屋は3月12日に原則として国内の全店舗を休業し、従業員への研修を行うと発表。今後は職場にスマホを持ち込まないよう、ルールを徹底するという。

一方でこうした「マニュアル」では防ぎきれないと言うのが、アルバイト教育に定評のある居酒屋「塚田農場」などを展開するエー・ピーカンパニーの、元副社長大久保伸隆さんだ。迫られているのはアルバイトではない。経営者への「ビジネスモデルの転換」だ。

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不適切動画=法的措置が主流に?

くら寿司

回転ずし大手のくらコーポレーションは、法的措置をとる理由について「同様の事件の再発防止」と「抑止力」と説明している。

撮影:今村拓馬

不適切動画の投稿は、SNSでの炎上、企業の謝罪と株価の下落などにもつながりかねないことから「バイトテロ」という言葉も生まれた。企業には従業員を解雇した上で法的措置に踏み切る動きもある。

以下最近、注目を集めた代表的な例を各社の報道などからまとめた。

くら寿司:従業員がゴミ箱に入れた魚をまな板に戻る動画を投稿。企業は当該従業員を退職処分にして、刑事・民事で法的措置の準備に入っていると報告。

バーミヤン:アルバイトが中華鍋から上がる炎でたばこに火を付ける動画を投稿。企業は謝罪し、法的責任についても検討するとした。

セブンイレブン:アルバイトが販売中のおでん鍋からはしを使ってしらたきを口に運び、鍋の外に吐き出す動画を投稿。企業は法的措置を検討中。

大戸屋:アルバイトが下半身をトレーで隠してふざける動画を投稿。企業は当該従業員を退職処分にして法的措置も検討中。

1)社員が常駐できるビジネスモデル

大久保伸隆

大久保伸隆さん。著書に『バイトを大事にする飲食店は必ず繁盛する』がある。自身の経営する居酒屋「烏森百薬」にて。

撮影:竹下郁子

国内の全店舗(一部を除く)を休業し、従業員への研修を行うと発表した大戸屋ホールディングス。担当者によると、動画の撮影はアルバイトが、就業時間後でさらに正社員が帰った後に撮影したという。

大久保さんは言う。

社員などの監督者がいれば起きなかったと思います。人手不足で店舗に社員がいなかったのか、それとも社員に人件費をさけない店舗だったのか詳しい背景は分かりませんが、まずは社員が常にいる状態にしても成り立つビジネスモデルにすべきだと思います。無法地帯をつくり出さない企業努力が必要です」(大久保さん)

大久保さんが在籍していた当時の塚田農場は、常に社員がいるようにマネジメントしていたそうだ。

2)法律の知識も含めた研修

バーミヤン

バーミヤンを運営するすかいらーくホールデングスは、動画の撮影は「深夜のオーダーストップ後」に行われたと発表している。

撮影:今村拓馬

さらに、アルバイト全員を対象にした研修で、現在は「バイトテロ」と呼ばれる「バカッター」(当時)についても警鐘を鳴らしていたという。裁判の判例を交えながら、たとえ悪ふざけだとしても法的措置をとられる可能性があることをアルバイトには伝えていた。

「会社にダメージを与えたいという悪意があったら問題ですが、ただ友達を笑わせたいという悪ふざけの場合がほとんどでしょう。この投稿で罪に問われる可能性があると分かったら、やらないと思います」(大久保さん)

3)脱マニュアル化

大戸屋

大戸屋ホールディングスは「SNS等インターネット投稿における社会的影響と責任について再教育」を行うと公表した。

撮影:今村拓馬

大戸屋ホールディングスは再発防止策として、「スマートフォンなど携帯端末のバックヤード以外の店舗内への持ち込み禁止ルールの周知徹底」を掲げた。

しかし、大久保さんは「マニュアル一辺倒で縛るとかえってストレスがたまる可能性がある」と指摘する。

実際、くら寿司を運営するくらコーポレーションでも、調理場にスマートフォンを持ち込まないことはすでにマニュアルに明記していたという(朝日新聞2019年2月6日)。

大久保さんはかねてより「アルバイトはお客様」と言い切り、塚田農場では平均客単価の一定金額分はアルバイトに裁量権を与えてサービスを考えさせる接客システムなどを導入していた。

塚田農場

大久保さんはエー・ピーカンパニー時代、学生アルバイトを対象に、それぞれが望む企業への内定を取得できるようサポートする就活セミナー「ツカラボ」を開催していた。

撮影:滝川麻衣子

2018年秋に退社して東京・新橋で居酒屋を始めた今もそのスタンスは変わっていない。

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「細かい規則を設ければ効率は上がるでしょうが、自由に行動できる『余白』を持たせることで『自分の店』だと認識してもらった方がずっといい。従業員の教育でも、スキルより『人としてどうか?』を考えてふるまってもらえるように力を入れています」(大久保さん)

4)店舗単位での対策

大久保伸隆

大久保さんが開いた東京・新橋の居酒屋にある黒板は、客からのリクエストを従業員が書き込む仕組みだ。コミュニケーションの積み重ねで居場所ができる。

撮影:岡田清孝

そのために大切なのは雇用主と従業員のコミュニケーションだと言い、ほとんどの店でバイトテロが起きていないにも関わらず、「これだから最近の若者は」と責めるような世論になること、飲食業界のイメージが全体的に悪くなることを懸念する。必要なのは、バイトテロを起こした個人と店舗で、個別に原因を見ていくことだ。

「僕は売り上げ250億円ほどのチェーンでしか働いたことがないから、何兆円企業のことまでは分からないですが、『飲食店でいちばん大事なのは店長』というのは共通していると思います。

店長が彼らの居場所づくりができていればこんなことにはならなかったはず。大企業は店舗単位での課題解決に力を入れるべきだと思いますね」(大久保さん)

(文・竹下郁子)


大久保伸隆(おおくぼ・のぶたか):1983年生まれ。千葉県出身。大学卒業後、不動産会社を経て、アルバイト時代に魅せられた飲食店での仕事を希望して2007年エー・ピーカンパニー入社。店長を務めた店舗は記録的な繁盛店に。繁盛店事業部長、営業本部長などを経て、2014年に副社長就任。2018年6月に退社。同年7月にミナデインを設立し、社長に就任。飲食店の経営を通じて、まちづくりのプロデュースに乗り出す。著書に『バイトを大事にする飲食店は必ず繁盛する』。

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