個の時代と言われ、起業や独立を果たした人たちが注目されがちだ。そんな華々しい生き方に憧れを抱く人も多いだろう。とはいえ、「自分も何かをやってみたい」という気持ちがあっても、会社を辞めて一歩踏み出すには勇気がいる。
ビジネススクールで有名なグロービスで「グロービス学び放題」の事業リーダーを務める鳥潟幸志さんは、社会人2年目でベンチャー企業を共同創業したという経歴の持ち主。そのうえで再び企業人として組織の中で働くことを選び、同スクールでベンチャー系の科目にて講師も務めている。そんな鳥潟さんに、一歩踏み出したいけれど不安があるビジネスパーソンへのアドバイスを聞いた。
SNS時代。情報が増えて不安が大きくなっている
グロービス・デジタル・プラットフォーム プロダクトリーダーの鳥潟幸志さん。
———起業や転職に興味を持っていても、実際はためらう人が多く、一歩を踏み出せない人が多いと感じています。多くの受講生と接していて、そのような傾向を感じていらっしゃいますか。
グロービス経営大学院で教員をやっていたり、「グロービス学び放題」の事業を通して出会ったりと、さまざまな受講生の皆さんとリアルに接点を持つ機会が多くあります。まさにそこで、現状に問題意識を持っていて、キャリアを変えるために踏み出したい気持ちはあるにも関わらず、不安で身動きが取れなくなってしまっている人が相当数いるという印象を受けます。なぜ彼らが不安を感じてしまっているのかというと、主に3つの理由があるのではないかと考えます。
第1は、「人生100年時代」と言われる中で、長期スパンでキャリアを築いていかなくてはならないことに一人ひとりが気付き始めているから。
第2に、世の中の変化が激しいということが言えます。まさに一寸先は闇で、どんな専門性があったとしても、1年後にそのままのスキルで仕事をし続けられるかはわからない。仕事がどんどん自動化されたり、別のやり方に置き換えられたりしている中で、自分のキャリアをどう変化させていけばよいかというプレッシャーにさらされているのではないでしょうか。
第3は、他人の情報が簡単に手に入りやすくなっているからです。SNSの普及によって、Facebookなどを開くと身近な人の成功ストーリーが頻繁に入ってきますよね。そうすると、「自分はこのままでよいのか」などと他人と自分を相対比較して、自分が劣っているように感じて焦りを覚えてしまうというケースが多いように思います。
転職を意識している人は8割
34歳以下のBIJ読者のうち、5割が転職未経験だが、8割ほどが転職について何かしら意識している。(対象:34歳以下のBIJ読者、調査時期:2018年12月、調査項目:転職について、方法:インターネット、回答者数:449人)
特に転職の経験がない人ほど、不安ばかりが大きくなりがち。というのも、同じ環境にずっと身を置いていると、多様なスキルを身に付ける機会にあまり恵まれません。そのうえ上記で挙げた3つのような情報ばかりが入って来るので、ますます不安になってしまうのだと思います。
起業した私が「安易な起業」を勧めない理由
社会人2年目で起業し、その後グロービスへ転職した鳥潟さん。起業時の自らの経験を踏まえ、もっと多くの人にビジネススキルを身につけることの必要性を知ってほしいと話す。
———企業を辞める勇気はない、やりたいことがわからない、でもなんとなく焦る、という人たちにアドバイスはありますか?
私は起業して、今はグロービスでベンチャー系の科目を教えている立場ですが、安易に起業や転職することはお薦めしません。なぜなら、環境を変えることはリスクも伴うからです。
多くの企業は、提供する価値があるモノを効率的に世の中に届けることを重要なミッションとして位置づけています。会社員であれば、効率的に仕事を進めることを期待され、目の前の仕事に邁進しますよね。
しかし、法人企業の研修などで経営陣たちに話を聞くと、経営陣たちは世の中の変化を汲み取ってイノベーションを起こせる人材を求めている、と口々に言うのです。
もちろん、起業や転職も選択肢の一つではありますが、私は社内でそれができるなら、社内でチャレンジするのがいいと思います。
一歩を踏み出したい気持ちがあるなら、戦略的に挑むことが大切。その方法を5つのステップでお教えしましょう。
1.人生で成し遂げたいことを明確にする
報酬やポジションなどわかりやすいことだけにとらわれず、人生の意義を感じる物事は何なのかをとことん考え抜いてみてください。過去の自分の経験やスキルを振り返ったり、世の中で起きている社会課題にたくさん触れる機会を作ってみたりするとよいでしょう。そうすると、自分の目指すべき方向性のヒントが見えてきます。
2.1のビジョンを社内で実現できないか模索する
なぜ社内なのかと言うと、企業のリソースに期待ができるからです。これは私自身の経験から言えることなのですが、起業は資金、人材、時間などを確保することのハードルが高く、やりたいことがやりづらいことも実は多い。私は、企業の中で自分のやりたいことを実現できる道を探すほうがをずっと現実的だと思います。
3.事業プランを練って社内外の人に見せる
これを実践することで、自分の情熱が本物かどうかわかります。つまり、自分の想いが本気であれば他人にダメ出しをされても決して諦めませんし、何度でもプランを作り直すはずなのです。逆に1回や2回否定されたくらいで諦めてしまうのなら、起業でも社内でも、どちらにせようまくいきません。また、プランを作ることで、今の自分にはどんなスキルが足りていないのかを知ることもできるでしょう。
4.「信頼資産」を積み上げていく
企業の中で挑戦するにしても、起業するにしても、新しいことを始めるには周囲の協力が必要不可欠です。そんなとき、「この人だったら、サポートしよう」と思ってもらうためには、常日頃から信頼を積み重ねておくほかありません。
5.学び続ける
いざチャンスが巡ってきたときにそれをモノにできるか否かということは、普段から学んでいるかどうかで決まります。それはプレゼンの仕方であったり、経営戦略の立て方であったり、やりたい領域で必要になるスキルの勉強であったりとさまざまですが、次のキャリアを意識して短期だけではなく、中期的、長期的視点で学習していると、当然、周りだけでなく上層部からの評価も変わってきます。
何か新しいことを始めたり、新規事業を作ったりするには周りを巻き込まなくてはいけないことがほとんど。しかし学習だけは、自分の意識次第でいくらでもコントロールができます。そこで、何から手をつければよいかわからないという人にぜひ活用してほしいのが、「グロービス学び放題」です。
「学習の壁=続かない」を防ぐ仕掛けとは
2018年4月よりiOS対応のアプリがリリース。月々ビジネス書籍一冊程度の価格で、グロービスの200コースがいつでも学び放題になった。
———「グロービス学び放題」が、ほかのオンラインサービスと違う点は何でしょうか?
1つ目は、豊富なコンテンツがあること。グロービスで培われてきた学習メソッドを随所に取り入れた200コースを体系的に学べます。ビジネスに必要なスキルを思考、戦略・マーケティング、組織・リーダシップ、会計・財務など9つのカテゴリに分けて用意しています。また、受講される方の目的に合わせて、初級、中級、実践知などのタイプにも分かれてるので安心です。
2つ目は手軽であるということ。2018年4月にスマホ用アプリがリリースされ、1本の動画がかなり短い時間に設定されています。長くても7分、平均3分程度で、集中力が続く時間内で受講できます。自宅でコンテンツをダウンロードしておけば、パケット料金を気にせずにいつでもどこでも利用できる可能ようになりました。
3つ目は、他者と繋がれるということ。自由記述式クイズに力を入れていて、他者がどのような答えを記入しているかなども見られる設計になっています。直接は繋がっていなくても、互いに学び合うことができると評判です。また、自分と同じような職種、ポジションの人がどんなコースを学んでいるのかを知ることができるので、刺激になります。
その他、月に1回ほどコミュニティイベントを開催。動画の講師を招いてディスカッションを行い、その後は懇親会という流れなのですが、そこで出会った人たち同士で独自に勉強会を開くなど、コミュニティのきっかけの場にもなっています。今後もそういった学びの場をどんどん提供できるサービスでありたいと思っています。
鳥潟幸志(とりがた・こうじ):埼玉大学教育学部卒。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了。大学卒業後、サイバーエージェントに入社。23歳でビルコムを共同創業。取締役COOとして、新規事業開発、海外支社マネジメント、営業、人事、オペレーション等、経営全般に10年間携わる。グロービス参画後は小売・グローバルチームに所属し、コンサルタントとして国内外での研修設計支援を行う。2016年より、「グロービス学び放題」の事業リーダー。グロービス経営大学院や企業研修において思考系、ベンチャー系等プログラムの講師も務めている。