フィナンシェのスマートフォン向けアプリの画面イメージ
提供:フィナンシェ
スマートフォンを使った新しいサービスを思いついた。あるいは、これまでの営業経験で築いた人脈でビジネスを始めたい——。
こんな時、会社を立ち上げ、資金を集めて……という仕組みは確立されている。プロジェクトの中身は厳しく審査されるけれど、資金と経験を提供するベンチャーキャピタルもある。
では、マイナーなスポーツの選手として生計を立てたい、モデルや小説家になりたいという場合はどうだろう。あまり会社という仕組みとはなじまない。他の仕事でもしながら下積みを選ぶ人が多いだろう。
こうした個人の自己実現を支援するSNS「フィナンシェ」の試験運用が、2019年3月7日に始まった。
仕掛けるのは、東証一部に上場しスマホ向けのゲームを展開するgumiと新会社フィナンシェ。
多くの人に「いいね」と言ってもらう承認欲求を満たすSNSから、コミュニティで個人の自己実現を支援するSNSへの移行を促したいという。
自己実現をどう支えるか
今回のプロジェクトでは、ユニコンの田中隆一CEOが、新会社フィナンシェの代表取締役に就く。gumiの國光宏尚会長は、フィナンシェのファウンダーとして、プロジェクトを全面支援する。
フィナンシェの仕組みのイメージ
制作:小島寛明
アイドルになりたい若者がいるとする。そうした人を、フィナンシェのコミュニティではヒーローと呼ぶ。
ユーザーは、この若者が将来、人気のアイドルになると思えば、「ヒーローカード」を買う。ヒーローカードの売り上げの一部は、ヒーローの活動資金になる。
ユーザーは、それぞれの得意分野やスキルを生かして、ウェブサイトのデザインをしたり、動画をつくったり。お金に余裕がある人は単に、カードをたくさん購入して、資金面で支えてもいい。
こうした支援はスコア化され、スコアを貯めたユーザーは、マネージャー、リーダーなどの称号を得てコミュニティ内の管理権限が上がっていく。このあたりは、gumiのゲーム運営のノウハウが投じられているようだ。
ヒーローカードは、価格が変動する。想定の上では、ヒーローに人気が出れば価格は値上がりし、芽が出なければ値下がりする。
ライブに観客が数人しか来ない時代からヒーローカードを保有し、献身的に支えたファンが、国民的なアイドルに成長したときには金銭面で報われる日が来るかもしれない —— という仕組みだ。
「面白い人を支える仕組み」で社会に革新を
國光さんは「個人の時代と言われるようになってきた中で、いろんな面白い人が出てきた。こうした人たちを支える仕組みをつくることで、会社ではできなかったイノベーションを起こせるのではないか」と説明する。
上場企業は、3カ月ごとに業績を開示し、株主にサービスの優待券を配ったりする。資金を出している人たちに対する説明責任があるからだ。
仮に、このアイドルが活動で収益を生み始めたとしても、フィナンシェでは株式会社のように金銭で配当はできない。一方で、ヒーローカード保有者限定のライブや握手会を開いて、保有者に報いることはできる。
ただ、それぞれのヒーローがどのように「開示」や「優待」をしていくかについては、あまり明確なルールは設けていない。
「これはやらないで、というリストはつくったが、ぼくらが決めるというよりはコミュニティの中で、自然にルールが形成されていけばいいと考えている。直感的には、透明性が高い方が人気が出やすいのでは」と國光さん。
個人を支える「ヒューマンキャピタリスト」
フィナンシェのサービスについて説明するgumiの國光宏尚会長
撮影:小島寛明
当初は、運営側で10人ほどのヒーローを選んだ。テニスに似た新スポーツ「パデル」の日本代表選手・コーチの、瀧田瑞月さんと吉元さやかさん。着物の生地を染める際に和紙を加工する「伊勢型紙」の職人、木村敦史さんらだ。
フィナンシェは、特徴的な仕組みを用意している。その一つが、ベンチャーキャピタリストならぬ、「ヒューマンキャピタリスト」だ。
ベンチャーキャピタリスト(VC)は、スタートアップ企業に投資をする。お金を出し、経営のノウハウを伝え、人脈も提供し、全力でスタートアップを支える。
投資をした以上、成長してもらわないと困るのはVC自身だからだ。
フィナンシェのヒューマンキャピタリストは、さまざまな分野で実績を残してきた人たちが、経営のノウハウや、自分を売り出していく方法などを伝えることで、ヒーローたちを支援する。
B Dash Venturesの渡辺洋行氏、幻冬舎の編集者箕輪厚介氏、エンジェル投資家の古川健介(けんすう)氏、フォーブスジャパンの高野真編集長らがヒューマンキャピタリストに名を連ねている。
ブロックチェーンはなお、処理速度に課題
フィナンシェのCTO(最高技術責任者)を務める、西出飛鳥さん
撮影:小島寛明
gumiは2018年春にブロックチェーン関連事業に本格参入した。
フィナンシェも1年ほど前から水面下でサービス開発を進めていたが、当初は、すべてをブロックチェーン上で完結させる方向で、検討を進めていた。
しかし、現時点でブロックチェーンは処理速度に大きな課題を抱えている。改ざんがほぼ不可能とされるネットワークを成立させるには、きわめて複雑な計算が必要になるため、データの処理に時間がかかる。
結果として、今回の開発チームが選択したのは、決済の部分は既存の法定通貨を中心としたシステムで完結させ、ヒーローカードの移転に関する記録をブロックチェーンで可視化することだ。
いま駆け出しのアイドルの支援を始めたら、10年後にはだれが古くから支えてきたファンなのかは、ブロックチェーンで確認できる。信頼性の高いデータベースとしてのブロックチェーンの活用法のひとつだ。
國光さんはこの1、2年、さまざまな場で、「ブロックチェーンでなければ成立しないプロジェクトの重要性」を唱えてきた。
「最近、ブロックチェーンに意味のあるユースケース(活用事例)があるのか、何にも使えないんじゃないかという疑問を持っている人が多い。だからこそ、ブロックチェーンを使うとこんなこともできるんだということを、証明していきたい」
(文・撮影、小島寛明)