どうなる? トヨタ自動車の「月面探査」宇宙事業参入、いま考えられる可能性

月面車

アポロ17号月面探査車のレプリカ。

Shutterstock

トヨタ自動車の宇宙事業参入が話題となっている。

3月12日に予定されているJAXA主催「国際宇宙探査シンポジウム」にて、トヨタ自動車の寺師茂樹副社長とJAXAの若田光一理事/宇宙飛行士との対談『チームジャパンで挑む月面探査(仮題)』で詳細が発表される模様だ。「調査に使う乗り物の開発などで協力」といい、月面探査車(ローバー)の開発に参加すると見られる。

KIROBO

2013年に国際宇宙ステーション(ISS)のISSきぼう日本実験棟内から地球へメッセージを送るキロボ。

出典:トヨタ自動車 公式YouTubeチャンネルより

日本を代表する自動車企業の宇宙参入は驚きとともに受け止められているが、これまでトヨタが宇宙に全く関わってこなかったわけではない。

直近では2013年に「きぼうロボットプロジェクト」のプロジェクトチームに名を連ね、ロボット宇宙飛行士「KIROBO(キロボ)」を国際宇宙ステーション(ISS)に送り、宇宙でのロボットとのコミュニケーション実験を行っている。

また、2015年には日本の測位衛星「準天頂衛星みちびき」を利用した三次元位置情報推進事業に参加。2016年にはコネクテッドカーへの取り組みとして、米カイメタ社の移動体へも搭載可能な小型・平面衛星通信用“カイメタ平面アンテナ”を水素燃料電池車「MIRAI」の走行実験車に搭載している。

2020年頃に実現を目指す高度なロボットによる無人月探査の具体像

内閣府宇宙開発戦略本部 2009年資料「2020年頃に実現を目指す高度なロボットによる無人月探査の具体像」より。

さらにさかのぼれば、2003年にJAXA(宇宙航空研究開発機構)が発足(※)した際に「宇宙3機関・産業界等宇宙開発利用推進会議」に当時の張富士夫社長が産業界代表として委員に入っている。

また、内閣府宇宙開発戦略本部の委員にもトヨタ幹部経験者が参加し、2009年には「月探査に関する懇談会」の検討からローバーロボットと人型ロボットを組み合わせた案を、葉山稔樹技監(当時)の名前で公表したことがある。

※JAXAの発足:それまで日本で宇宙開発を担ってきた宇宙開発事業団、航空宇宙技術研究所、宇宙科学研究所の3機関が統合され、2003年10月1日にJAXAが発足した

トヨタは月面探査の何を開発していくのか?

とはいえこれまでのトヨタの宇宙への取り組みは、「宇宙技術の地上での利用」や「日本の宇宙開発のオブザーバー」といった形が中心で、宇宙開発を担う中心的プレーヤーではなかった。

今回は月面ローバーの開発で参入するというプレーヤーとしての取り組みである点が異なる。何を開発していくのか、現在の月面探査計画から可能性を探ってみる。

現在、JAXAが中心となって計画している月面探査は主に以下の4つがある。

  • 「小型月着陸実証機:SLIM」(2021年度打ち上げ)
  • 「月移動探査」(2023年頃~)
  • 「月広域・回収探査:HERACLES」(2026年頃~)
  • 「月の本格的な探査・利用」(2030年以降)

月面への着陸技術を磨き、月面ローバーを展開して移動しながら広い領域を探査し、そして有人探査というシナリオとなっている。

国際宇宙探査の概要

2019年1月 JAXA「国際宇宙探査の概要」より。

4つのなかで、トヨタが参入するという月面ローバーが関係するのは「月移動探査」以降の3計画だ。

3番目のHERACLES計画ではカナダがローバー開発を担当するため、日本がローバー開発を行うのは、2番目の「月移動探査」と4番目の「月の本格的な探査・利用」の2計画になる。月移動探査はインドと協力する国際計画の予定で、日本が打ち上げロケットとローバーを担当する。

とはいえ、打ち上げ目標の2023年まであと4年。月面ローバー開発には月面の細かい砂の上でもスタックせずに走行できる技術が求められている。わずか4年で、新規参入の企業がフライトモデルまで開発するのは困難ではないだろうか。

2030年以降の月面本格探査・利用の段階になると、「有人」という要素が登場する。しかも、ここで検討されている有人月面ローバーは中で人が生活できるものだ。

アポロ計画での月面走行車は、宇宙飛行士の生命維持の役割は宇宙服が担い、ローバーは移動だけを担当するものだった。しかし将来の月面有人ローバーはいわば「走る宇宙船」だ。予圧室を備え、42日間移動しながら暮らすことを想定している。

有人月面探査のコンセプト

2019年1月 JAXA「国際宇宙探査の概要」より。

宇宙船の開発は、日本も国際宇宙ステーションの「きぼう」実験棟を通じてその技術がある。ただし、月面での滞在には、マイナス173度の極低温環境で2週間近くを過ごす「越夜(えつや)」技術が求められる。

これまでの米露の月探査では越夜に原子力電池を利用してきたが、日本の宇宙開発では原子力利用が困難とされる。搭載機器の許容温度を極限まで下げ、断熱性能を向上させる技術開発が必要となる。ここに低温環境での自動車の技術を持った企業が参入する余地がある。

有人月面探査の運用シナリオ

2019年1月 JAXA「国際宇宙探査の概要」より。

JAXAはこれまでの月面探査の技術開発検討の中で、民間企業の参入を求める姿勢をたびたび見せていた。ようやくそのアプローチが実り、若田宇宙飛行士との対談という形での発表になったとも考えられる。

ただし、巨大な開発リソースを割いて月ローバー開発に参入したものの、探査は実施されずにはしごを外されるようなことは、トヨタとしては絶対に避けたいだろう。

先に挙げた4つの月面探査計画のうち、国の具体的な宇宙開発計画実施方針である「宇宙基本計画工程表」に明記されている計画は、2021年度打ち上げ予定の無人探査機SLIMのみだ。

ほかの計画については、月有人探査の拠点となるNASAの月宇宙基地「Gateway」への参加やインドとの協力について「技術検討・国際調整」という含みをもたせた表現で記載されている。

トヨタがいま腰を上げるとすれば、もう一段階踏み込んだ、月探査計画の明確化を国が示すということかもしれない。

(文・秋山文野)


秋山文野:IT実用書から宇宙開発までカバーする編集者/ライター。各国宇宙機関のレポートを読み込むことを日課にしている。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、書籍『図解ビジネス情報源 入門から業界動向までひと目でわかる 宇宙ビジネス』(共著)など。宇宙エレベーター協会会員。

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