就活の透明化がトレンドとなっている。
撮影:今村拓馬
採用市場で、透明化のトレンドが加速している。
筆者は3/1の就活解禁に合わせて #ES公開中というキャンペーンを仕掛けているが、予想を上回る大きな反響が続いている。また、マーケットや採用の透明化に対する声はポジティブなものが多い。実際に透明化のための新たなアクションも生まれている。
もともとサイバーエージェントやガイアックス、サイボウズは社外への情報開示に積極的であった。メルカリのオウンドメディア「メルカン」は採用広報のロールモデルとして注目を高めている。最近ではスマホゲーム実況アプリのミラティブの「採用候補者様への手紙」や、労務管理ソフトSmartHRの資料公開も話題を呼んでいる。
だが実は、透明化は今年に始まったことではない。
昨年10月、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のパンテーンは、内定式のシーズンに「#就活をもっと自由に」というキャンペーンを実施。その流れの中、学生に向けて等身大の自社の様子をみてもらおうと、ディー・エヌ・エー(DeNA)やサイボウズ、Sansanなどの採用担当が、実際の内定式を公開するというムーブメントが起きた。
今回は、公開された2018年のいくつかの内定式の様子を、今年の就活生の皆さんにもお届けしたい。
「キレイモ」ブランドを展開するエステのヴィエリス、クラウド会計ソフトのfreee、そしてこのキャンペーンを展開したパンテーンブランドを擁するプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)だ。それぞれの内定式で、学生の就職活動において感じた不透明さに対する本音と、人事担当者の本音を、2018年10月に取材した。
離職率の低さで知られる、エステのヴィエリス
ヴィエリスの内定式の様子。エステ業界で、離職率の低さで知られている。
提供:ヴィエリス
ヴィエリスはキレイモブランドを展開する、エステ業界注目の企業だ。同社は、離職率が業界平均を大きく下回ることで知られている。また、従業員満足度の高さから、店舗スタッフ経由のリファラル採用が自然発生している。「前期加入した592名のスタッフのうち118名がお客様でした」と人事部・ゼネラルマネージャーの山脇有希子さんは言う。
内定式に参加した学生も取材に応じてくれた。
内定者の北根つかささんは、実は、途中で就職活動を1カ月半ほど辞めていたという。
「常に完成された答えを聞かれてジャッジされている気がして、疲れてしまいました。服装自由って書いてあって私服で行ったら、人事の人になんで私服できたの?って言われたり、人を大切にしているという接客企業の人事の人に名前を間違われたり、就活生だから軽視されているのかなって。いろいろ窮屈になったのです」
そんな北根さんも知人が働いているヴィエリスの選考を受ける中で、認識が変わったという。「初めて、自分の気持ちを聞いてくれた」と。
人事部・ゼネラルマネージャーの山脇さんは、学生に伝えたい面接のスタンスについてこう言う。
「勇気を出して、少しでも自分の言葉でしゃべって欲しい。評価を気にして偽ると、結果的に後々自分が辛くなってしまうことを伝えたいです。あこがれだけでは仕事はできないということは自分も知っています。あえて、愛を持って突き放すこともあります」
freeeが重視するベストな意思決定のサポート
freeeの内定者、採用担当者が語り合った。
撮影:関航
クラウド会計ソフトfreeeを展開し、ベンチャー企業の採用広報のモデルケースとして採り上げられることも多いfreeeの内定式はどうだろう。現場社員の採用への積極参加も同社の強みだ。
内定者の田中奈穂子さんは、就職活動において感じた不自由さや不透明さについてこう答える。
「売り手市場とはいえ、今の就活の仕組みでは、学生は弱者であることを痛感しました。『何回来たら面接してあげる』とか。他にも『採用したいんだけど、あと1週間の8時間労働(無給)が終わったら内定をあげる』と言われたり。開示している選考フローには書いていなかったです」
freeeの採用スタンスについて、採用担当の上赤祥貴さんはこう話す。
「面接官全員に共通することですが、外見や学歴でバイアスをかけずにフェアに対話することを決めています。一方的なジャッジではなく、時間を作ってくれた学生に対して一緒に彼ら彼女らにとってベストなキャリア選択の意思決定をサポートするのが、freeeらしさかなと思います。結果的に、対話を重ねることでその場でオファー受諾といったこともある。無理やり入社させたり、意思を無視して囲い込むのは違和感を覚えるんですよね」
キャンペーンを展開したP&Gの採用スタンスとは
『#就活をもっと自由に』を仕掛けたP&Gの内定式での様子。
撮影:寺口浩大
最後に、『#就活をもっと自由に』を仕掛けたP&Gの内定式だ。ヒューマンリソーシズコーポレート採用部門マネージャーの金子彩里さんに聞いた。P&Gの内定式は、式というよりは、テーブルごとに内定者が座って談笑。正直、おごそかな式典を想像していたので驚いた。ちなみにオリエンテーションはすべて英語だった。
金子さんは、P&Gの採用の特徴について、こう語る。
「実際、面談ではパーソナリティのところはかなり聞いています。入社してから驚いたんですが、エントリーシートはひとりひとり印刷してメモをして、本当に全部読んでいます。読まずに学歴フィルターとか無いんだと。正直、就活生のときはあると思っていたので。面接自体は、1時間の面接を3回程度やります。自分が学生のときはP&Gの面談はあっという間に感じました。自分のことを率直に話しているだけという感覚でした」
最後に、学生に対するメッセージはこちら。
「あなたのいいところは会社が見つけるから、と言いたい。採用担当者の仕事って、個性とその価値を見つけることだと考えています。だから、たとえば自分の個性がわからない、という方がいても、それはそのまま自然体でホンネできて欲しい」
嘘がバレる時代、組織力が採用力に
取材の中で、やはり学生からは現在の就職活動の不透明さに対して、不安や不信感が色濃くあることが伺えた。
学生が本音を話したいと思う企業に共通して感じたのは、採用上のコミュニケーションで自己開示することはもちろん、社内外問わず人に対するスタンスが一貫していたことだ。
「嘘がバレる時代」に求められるのは、透明性の高い採用だ。企業の組織力の地力が採用力に表れる。その意味ではやっと、誠実に人に向き合う企業が評価される、真っ当な時代になりつつあるのかもしれない。
(文・寺口浩大)