迷走する海賊版対策。違法ダウンロード規制を文化庁が急いだ「本当の理由」

国会

撮影:今村拓馬

著作権を侵害しているコンテンツのダウンロードを違法とする、著作権法の改正案をめぐって自民党内の調整が本格化していると報じられている。3月10日朝のNHK NEWS WEBなどが報じている。

権利者の許可なくインターネットにアップロードされたと知りながら、マンガや論文などの著作物をダウンロードする行為を違法とするのが改正案の柱だ。

この改正案に対して、権利者であるマンガ家らから「範囲の広すぎる規制は、インターネット利用の萎縮を招く」と慎重な議論を求める声が上がっている。違法なコンテンツを含む画面を、スマホやPCに保存するスクリーンショットだけでも、場合によっては違法になる可能性があるためだ。

今回の法改正は、被害が深刻化している海賊版マンガのサイト対策をめぐる議論から浮上したものだ。当初、政府は海賊版サイトへの対策として接続を遮断する「サイトブロッキング」を打ち出したが、「通信の秘密を侵害する」との批判が高まり、見送った。

安倍晋三首相がダウンロード違法化に絡む項目を削除するよう指示したとの複数の新聞社の報道もあるが、そうした報道の通り事態が進むのであれば、海賊版サイトへの対応がつまづくのは2度目になる。

ネットによる情報収集を阻害せず、実効性のある海賊版対策の手立てはないのだろうか。

改正議論の元は「漫画村」

manga_2nd_mura

Business Insider Japan

著作権法改正をめぐる議論の元をたどると、違法サイト「漫画村」に行き着く。以前から、さまざまな形で海賊版のマンガはネット上に出回っていたが被害は散発的だった。

2、3年ほど前から、幅広い品ぞろえのマンガを「無料」でダウンロードできる違法サイトが登場し、被害は一気に深刻化した。被害額は、漫画村だけで3000億円にのぼったとされる(コンテンツ海外流通促進機構[CODA]による流通額ベースの試算)。

こうした違法サイトへの対策として、2018年4月に政府が緊急的な措置として打ち出したのが、プロバイダが接続を遮断するサイトブロッキングだった。

しかしブロッキングは、インターネットへの自由なアクセスを阻害する措置であるとして、法律やITの専門家らから批判の声が上がった。憲法で保障された「通信の秘密」を侵害するとの声も出た。

こうした流れの中で、ブロッキングに代わる措置として浮上したのが、著作権法改正だった。

「拙速」批判の中で流れつくった文化庁

mangastore

漫画村の登場で、出版社や著作権者の被害は3000億円にのぼると試算もある。

REUTERS/Yuya Shino

ダウンロードの違法化をめぐる議論が本格化したのは2018年10月29日の文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会のようだ。その2カ月あまり前の8月上旬には、政府から事実上の要請を受けたものの、NTTがサイトブロッキングを見送る方針を明らかにしている。

この委員会、長い名前の組織だが、文化審議会の下に著作権分科会があり、法改正のあり方などについて議論をするのが法制・基本問題小委員会だ。小委員会で取りまとめた意見を、分科会で承認するのが、大ざっぱな手続きの流れだ。

小委員会は、2019年1月25日の時点でいったん議論を打ち切り、書籍やマンガ、論文などの著作物全般にダウンロード違法化の対象を広げる内容を盛り込んだ報告書の取りまとめをはかっている。

しかし、著作権法の研究者らから「個人のインターネットにおける活動の自由を不必要に制約する」といった声が上がったためまとまらず、小委員会終了後に個別に意見集約を図る異例の展開となった。

2月13日には著作権分科会が開かれた。この席でも専門家から「拙速な立法化を避けて、より慎重な議論を期すべきではないか」(田村善之・北海道大学大学院法学研究科教授)などと、議論の継続を求める声も出た。

しかし分科会としては、報告書を了承し、開会中の通常国会に改正案を提案する流れができた。

「拙速」ともとれる前のめりな法改正の背後には、違法サイトに対して、すみやかに手を打ちたい政府側の意向がある。分科会の席での中岡司・文化庁次長の発言にもこうした姿勢がうかがえる。

「インターネット上の海賊版による被害は日々深刻化しております。政府として考えられる対策を総動員をして、一刻も早く被害の拡大を防止する責務がございます」

どんな行為を違法とするのか

smaho

うっかりスクショしたら違法……そんな法改正に異論が噴出している。

撮影:今村拓馬

現時点の改正案では、何をすると違法になるのだろうか。民事、刑事によって要件が異なる。

民事の場合は、違法にアップロードされた著作物全般が対象となる。そのうえで、ダウンロードした人が、違法なコンテンツであることを知っていることが要件になる。

ただ、違法コンテンツだと知らないことについて、重大な過失があったとしても、ダウンロードは違法にならない。漫画村のように広く知られた海賊版サイトからダウンロードをしたとしても、ネットに関する知識が乏しく、海賊版サイトと気づかなかった場合には違法とならない。

刑事の場合は、さらに絞っている。

民事と同様に著作物全般だが、正規版が有償で販売されているものが対象となる。そのうえで、二次創作は除外し、継続または反復して行う「常習性」が要件とされている。

「グレーな行為は表現のゆりかご」

mangaabe

著作権法の改正には自民党内でも異論が出ている。安倍首相がダウンロード違法化の項目削除を指示したという報道も。

REUTERS/Issei Kato

2月上旬ごろから法改正をめぐり、法律の専門家やマンガ家らからさまざまな声が上がったが、ひとつの流れをつくったのは、情報法制研究所や明治大学知的財産法政策研究所だろう。

両研究所の研究者らがそれぞれ公表した声明では、いずれも法案に「原作のまま」と「著作権者の利益を不当に害する」という要件を盛り込むことが提案されている。

声明に名を連ねている明治大学法学部の金子敏哉准教授は「いまの法案のままでは、私的領域における情報収集活動に大きな影響を及ぼしかねない。海賊版対策に必要な範囲で法改正をし、それによって萎縮効果を最大限防ぐことが必要だ」と話す。

「利益を不当に害する」との要件が盛り込まれれば、例えば、マンガの1コマだけを引用しているようなSNSの投稿をスクリーンショットで保存した場合、マンガ家の「利益を不当に害する」とまでは言えない可能性が高くなる。

マンガをパロディにしたものについても、「原作のまま」にあたらない、あるいは、利益を害する可能性はあっても「不当」とまでは言えない可能性もある。

金子氏は「この分野には非常にグレーな行為が多い。グレーな行為は『表現のゆりかご』とも言われる。こうしたグレーな行為についてバランスがとりやすいのがこの案ではないか」と説明する。

著作権法を変えずに海賊版と戦う案も

海賊版対策の実務に携わる平野敬弁護士は「海賊版の問題を解決するのに、著作権法を改正する必要はない」と話す。

平野弁護士が注目するのは、現在の発信者情報の開示制度の不備だ。

マンガや映画の海賊版の公開や、悪質な書き込みがあった場合、プロバイダー責任制限法で、プロバイダーに対して発信者の情報開示を求める制度がある。プロバイダーが保有する氏名、住所など、発信者の特定に必要な情報を開示させるには、仮処分の申し立てや、訴訟の提起など複数の手続きを経る必要がある。

しかし、一連の手続きには、1年以上かかることもあり、時間が経過すると、プロバイダー側の記録が消えていることもある。訴訟を経ずに、ADR(Alternative Dispute Resolution、裁判外紛争解決手続)などで手続きを簡略化することで、海賊版をアップロードした企業や個人、グループをすみやかに特定し、損害賠償を請求する可能性は広がる。

平野弁護士は言う。

「刑罰によって、人の自由を制限するのは最後の手段だ。ダウンロードした人を処罰するのではなく、海賊版がアップロードされたら権利者が損害賠償を得られる制度を充実させる方向で考えてみては」

(文・小島寛明)

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中

あわせて読みたい

Popular

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み