AppBrew 取締役で、口コミコスメアプリ「LIPS」考案者でもある松井友里さん(25)。
MERY、C Channel、@コスメ。多くのサービスが参入し、激戦地帯となっているコスメ・メイクアプリ市場。
その中で、2017年リリースと後発ながら、大きく成長しているコスメアプリがある。現役東大生が生み出した口コミコスメアプリ「LIPS」だ。飛躍の理由を、立ち上げた本人に聞いた。
東大の「哲学オタク」同級生が起業
東大発ベンチャーの波は、コスメ業界にまで到達している。
撮影:今村拓馬
10代が熱狂するコスメアプリ「LIPS」を運営するAppBrew社のオフィスは、東大の本郷キャンパスにほど近い、水道橋のオフィスエリア一角にあった。
創業メンバーのひとりである松井友里さん(25)は、1994年生まれの東大生(教養学部3年生、現在は休学中)だ。小学校から高校卒業までニューヨークで育った帰国子女でもある。
起業にはまったく興味がなかったという松井さん。きっかけは、ふとしたきっかけで始めた、Wantedlyでのインターンだ。
出会ったのは、京大を卒業して起業した仲暁子CEO。「モノをつくれる人ってカッコいいな」と憧れた。自分もプログラミングがしてみたいと、勉強がてらエンジニアとしてインターンを始めた。
松井さんは、東大のクラスメイト・深澤雄太さんと起業した。
同じころ、東大で松井さんはもう一つの出会いを果たす。のちに共同創業者となる深澤雄太さんだ。
インターネットと文化人類学に関する授業中、先生にTwitterのリプライで質問をするという課題が出た。
単位のために出席していたほとんどのクラスメイトはその課題に見向きもしなかったが、そんな中でひときわ熱心にTwitterで哲学論争を繰り広げていた学生が、深澤さんだった。「哲学オタクなのかなって思った」(松井さん)。
話してみると、深澤さんもWebサービスの開発をしているという。「手伝ってよ」と言われ、深澤さんのもとでインターンとして仕事をはじめた。次第に開発にのめりこんでいくと「気づいたら(深澤さんが)会社を登記していた」。
いつの間にか私も取締役になっていましたと、松井さんは深澤さんの「巻き込み力」に苦笑する。
口コミに勝機を見出した理由
LIPSは、「商品スタート」ではなく「人スタート」の口コミに勝機を見出した。
そこからは、大学の授業の合間を縫ってサービス開発に没頭した。
1年で5つのサービスを立ち上げてはつぶし、最短でリリースした日にクローズしたサービスもあるという。コスメの口コミサービス「LIPS」は、その試行錯誤の末に生まれたアプリだ。
当時、SNSで美容やコスメのアカウントをチェックすることを日課にしていた松井さん。しかし、インスタやTwitterなどでフォローしている情報は埋もれやすく、整理もされていない。ではコスメに特化したインスタのようなアプリはどうか、と考えた。
当時、@コスメやMERY、C CHANNELをはじめとして、すでに多くのコスメを紹介するサービスは存在した。そこで松井さんらが目をつけたのが「口コミ」だ。
「既存サービスは、『こういうコスメがありますよ』と商品スタートで情報が発信されている。でも、Twitterやインスタグラムは『自分の好きな人が発信している』というのがスタート」。
当時人気が拡大していたYouTuberにアプリの紹介動画を投稿してもらうと、ユーザー数が大きく伸びた。
若年層ほど口コミは「自己表現の手段」
LIPSでは、画像やイラストでも口コミを投稿できる。気軽に投稿できるよう「投稿ハードルをなるべく下げている」(松井さん)。
「市場の成長とのタイミングがあっていた」。松井さんは「LIPS」成功の原因をそう分析する。
実際に「コスメの口コミ」は市場のニーズを突いていた。マーケティングリサーチ事業を行うクロス・マーケティングが2018年に発表したデータによると、商品を買う前に口コミを見る人の割合は、約8割にもなっている。
その一方で、口コミを書き込む理由については、世代によって差が出ている。
若年層ほど、自分の備忘録やコミュニケーションツールとして口コミを投稿する傾向があり「他者に自分の体験を伝えるため」という目的が薄れているのだ。
アプリからもこうした傾向を感じていると松井さんも語る。おすすめ投稿に選ばれるために画像やイラストを混ぜるなど「フィードをハック」したり、1万字以上の投稿をするなど、自己表現の場として口コミを活用しているユーザーが多いという。
LIPS側もこうした「コミュニケーションツールとしての口コミ」を実現するサービスの設計を進めた。他にはない「人ベース」でコスメを探せるアプリは、ユーザーの心を一気に捉えた。
ローラさんを起用したテレビCMで300万DL突破
2018年10月には、グリーなどから10億円を調達。12月には、モデルのローラさんを起用したCMを開始した。CM効果もあり2019年3月、アプリは300万ダウンロードを突破。これからは10代〜20代だけでなく、全年代に広く使われるアプリにするため、アクセルを踏んでいく。
さらに今後は、こうした質の高い口コミをマネタイズにも活かしていくという。4月末をめどに、口コミデータを分析し、企業が商品開発やマーケティングに活用できるサービスの提供も始めていく予定だ。
すでに大きく育っている「LIPS」だが、コスメアプリ一本での成長は考えていないと松井さんは言う。意識しているのは、TikTokやニュースアプリのToutiao(今日頭条)などを次々と生み出し、数年で中国の巨大ITベンチャーへと成長したBytedance社だ。
「再現性をもって、伸びるプロダクトをつくれるようになりたい、とはずっと言っていて。(一つのサービスを)横展開できるように、汎用的な機能を考えながらつくってきた」
エンジニアとしても活躍してきた松井さんは、自信をもってそう語る。
「LIPS」の次に生み出すアプリも、数百万以上のユーザーに使われることになるのだろうか。「日本のBytedance」を目指す現役東大生ベンチャーの夢は、どこまでも広がる。
(文・写真、西山里緒)