インターネットの掲示板に、不正なプログラムのリンクを書き込んだ疑いがあるとして、13歳の女子中学生が兵庫県警に補導された。(写真はイメージです)
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「クリックすると同じ画面が表示され、消えなくなるプログラム」のアドレスをインターネットの掲示板に書き込んだとして、13歳の女子中学生が兵庫県警に補導された。2019年3月4日付のNHKのウェブサイトが報じている。
報道によれば、同じアドレスを別の掲示板に書き込んだ疑いで、山口県の39歳の無職の男と鹿児島県の47歳の建設作業員の男の自宅についても、同県警が家宅捜索をしたという。
ネットのSNSなどでは「行き過ぎだ」などと摘発を批判する書き込みが相次いだ。
この事案から浮かぶのは、範囲の幅の広すぎる規制の運用の問題だ。
法律を四角四面に解釈すれば法律違反なのかもしれないが、自宅を捜索されるほどの悪質な行為なのか —— 。
中学生がリンクを貼ったのはウイルスか
問題とされたプログラムは、リンクをクリックすると「何回閉じても無駄ですよ〜」とダイアログが表示され続けるものだった。
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NHKの報道によれば、この中学生はインターネットの掲示板に、不正なプログラムのリンクを書き込んだ疑いがあるという。プログラムは、リンクをクリックすると「何回閉じても無駄ですよ〜」とダイアログが表示され続けるものだ。
中学生が補導されたのは、「不正指令電磁的記録に関する罪」というものだ。2011年7月の刑法改正で導入された、比較的新しい犯罪で、「ウイルス罪」とも呼ばれている。
この法律では、ウイルスを次のように定義している。
「人がコンピューターを使用する際に、意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与えるプログラム」
リンクをクリックするとダイアログが開き続けるのであれば、PCを使っている人の意図には沿っていない動作、あるいは意図に反する動作に当たるのだろう。
ウェブサイトを開くと、ポップアップ広告が表示される。「頼んでない」とも感じるが、この点については現時点では、広告の表示は通常のインターネット利用に伴うものであることから、「意図に反する動作」には該当しないと解釈されている。
ウイルス罪新設時に広い要件を設定
インターネットやシステム開発に関する事案に取り組む平野敬弁護士。
撮影:小島寛明
ウイルス罪はもともと、国境がほぼ意味をなさないサイバー犯罪に対応することを目的に新設された犯罪だ。
日本は2001年11月に「サイバー犯罪に関する条約」に署名。ウイルス罪の新設は、条約の締結に必要な国内法の整備の一環だった。
インターネットに関する法律問題に詳しい平野敬弁護士は、解釈の幅の広い法律の建て付けに問題があると考えている。
「もとは、権限のないアクセスや通信傍受、システム破壊といったサイバー犯罪に対処することを想定していたが、それでは、未知のウイルスが登場したときに対応できないとして、『不正な指令を与える』という、非常に範囲の広い要件を設定してしまった」(平野弁護士)
今回中学生らが、リンクを貼り付けたプログラムは「ブラウザクラッシャー」(ブラクラ)の一種と言われている。しかし、2011年11月に栃木簡易裁判所の判断によれば、ブラウザクラッシャーは「実行者の意思に基づかず、ウェブブラウザを多量に起動させて電子計算機の実行を不能ならしめる」ものとされる。
果たして今回の女子中学生の行為は、サイバーセキュリティ確保を脅かすような「サイバー犯罪」とまで言えるだろうか。
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サイバー犯罪という言葉に触れたとき、頭に浮かぶのは、国境を超えて重要インフラのシステムを攻撃したり、個人情報や仮想通貨を盗み出したりする行為だ。国と国とが連携して対処する必要があるのも、こうしたサイバー犯罪だ。
今回の「何回閉じても無駄ですよ〜」と表示され続けるプログラムは、たしかに迷惑ではあるが、「サイバー犯罪」とまで言えるのか。
平野弁護士はこう話す。
「今回の事案は、大したことのない子どものいたずらに見え、摘発するほどのものかとも思える。しかし、法律の条文に当てはめると、自信を持って無罪と言いづらいものがある。ただの無限アラートを処罰しようなんて、立法当時はだれも思っていなかったはずだ。条文が、当時の認識とは別の方向で解釈されていることに危惧を覚える」
(文・小島寛明)