「noteは稼げる」からの脱皮がクリエイター増やす。急成長の舞台裏をCEO、CXOが語った

ピースオブケイク

東京・外苑前にあるピースオブケイクの新オフィス。12月3日に移転したばかりだ。

撮影:伊藤有

今回は、cakesとnoteを提供する株式会社ピースオブケイクのCEO加藤貞顕さん、CXO深津貴之さんのお二人とお話しさせていただきました。

同社が「note.com」「note.jp」のドメインを取得したというニュースを見て、インタビュー相手を募集していたので、立候補してみたものです。それでは、ドメイン取得の経緯を詳しくご覧ください。

「noteは稼げる」を言わないようにする

シバタ:今日はお忙しい中ありがとうございます。最近のnoteすごい伸びてますよね。いろいろなところでお話しされていると思うのですが、会社の中はどんな具合なのか、どんなことを考えているのかをあらためて教えてください。

深津貴之さん(以下、深津、敬称略):地道に頑張っていますという感じです。

シバタ:ブログとか何かを書きたいというときに、ほぼ100%、noteから始めているようにも見えるんですよね。昔からいろんなブログサービスがあって、いくつかは今ももちろん残っていると思うんですけど、クリエイターを獲得するためにどういったことを考えているのか、マーケティングなどのテクニカルな話ではなく、思想的な部分をもう少し教えていただけませんか。

深津:一番大きいのは、noteが「お金を稼げる」という文脈で、表に出ないようにしたことだと思うんです。もともとクリエイターを大事にする会社だったんですけど、どういうふうに大事にするかというのを、ミッションやビジョンから言い方を決めて、会社全体で統一し、それを有言実行していきました。

深津さん(左)、加藤さん(右)

シバタ:確かにそうですよね。僕がnoteを始めた2016年頃は、「noteは儲かる」という文脈が強かった気がするんですけど、深津さんが入られてからその話がほとんど出てこなくなりましたよね。

加藤貞顕さん(以下、加藤):もともと公式アカウントで「お金が稼げる」という発信はしていないんですよ。

シバタ:ユーザーからの「稼げる」という声が大きかったということですね。

加藤:ユーザーさんと比較して、公式アカウントの発信力が弱かったというのもありますね。ですから、公式の発信力を強めて、しかも明確なメッセージを発信するようにしました。

深津:noteの本質的なバリューとして、作家がマネタイズできることも部分としては含まれます。ですが、表立っては「作家のマネタイズ」みたいなことを言わなくなりました。儲かるという言葉を押し出すと、クリエイティブよりもお金目当てな人が増えすぎてしまうので。

加藤:本当にやりたいのはクリエイターがクリエイティブな活動を続けられるようにすることなんです。もちろんその中には、マネタイズも大きな位置にあります。でも、それ以前にまずクリエイトして、それを続けて、そして見てもらってうれしいとか、そういうのが全部つながって始めて成立すると思っています。

シバタ:そうですよね。

深津:あと、そのためにnoteのグロースのロジック図を作って、いままで単発で行っていた改善施策をつなげて、成長エンジンをかける作業をこの1年メインで行ってきました。

シバタ:この間のプレスリリースの1000万人突破っていうのを見ていると、グラフとかピューって上がっているじゃないですか。過去1年間、特に急成長していますよね。2018年だったと思うんですけど、なかなかこういうグラフにはならないと思います。ここまで行くと痛快ですよね。

深津CXO作「noteの成長モデル」の詳細解説

加藤:深津さんがCXOに就任して、初回か2回目くらいのミーティングで持ってきてくれた「noteの成長モデル」の図が以下です。

noteの成長モデル

noteにおけるコア体験と相互作用メモ

深津:このシンプルな図だけです。

加藤:これが実はすごい図なんですよ。

シバタ:いまもこれは変わっていないということですよね?

深津: 何も変わっていないです。パートナーが増えるとか、付け足しはあったりしますけど、基本は何も変わっていません。

深津:作家が増えるとコンテンツが集まって、コンテンツが増えるとユーザーが集まる。ユーザーが増えるとコンテンツがバズって、バズるとまたユーザーが集まって、ユーザーが集まるとPVが増えて、PVが増えると売上が増えて、売上が増えると作家が集まるというのがグロースのサイクルです。

深津:それぞれのKPIを「点」で見るのではなくて、このサイクルの各「ライン」が切れていないかを見て、一番弱いところはどこかを見るようにしています。この循環系が回っている限り成長し続けるし、個別のKPIよりもこの循環系が回っていることを最優先しましょう、という話をしました。

シバタ:とてもシンプルですね。

深津:これが回っていれば無限に、マーケットサイズの限界まで勝手にグロースするはずなんです。これが切れていればそこからドロップして成長が止まります。

シバタ:なるほど。どこか切れていたら、何で切れているかを見て、そこをちゃんともう1回つなげようとするということですね。

深津:そうです。

シバタ:これは面白いですね。

加藤:発表しているだけでも約100の改善施策をやっているんですけど、全部がこれはいまどれに当てはまっているかを考えながら、みんながやるようになっているんです。それで、数字もヘルスチェックとしていろんな数値を見て、ここに問題があるんじゃないかとか、そういうのもちゃんとこの図を見ながら考えるので。非常にやりやすかったです。

シバタ:すごい、すごい。しかも、これは誰にでもわかりますよね。言葉がシンプルなので。

深津:イベントにしろ、キャンペーンにしろ、コンテストにしろ、UI改善にしろ、これのどこかに当てはまって、この図の弱いところを補強するのか、どこかを太くするのか、という議論をしっかりしています。

加藤:基本的には、この真ん中の一列なんですよね。作家が集まる話なのか、コンテンツが集まる話なのか、ユーザーが集まる話なのか。これがどれに当てはまるのかっていうのを確認しながらやっていました。

シバタ:超本質的ですね。

深津:最近は、バズるからパートナーが増えて、パートナーが増えるからコンテンツと作家が集まる、にも線が増えている感じです。

深津:僕が入る前からプロダクト自体はよかったので、僕は単にプロダクトと数字を連結することをやりました。別の言い方をすれば、線が切れている部分を修理するだけで、各ポイントはもとからとてもよかったと思っています。

加藤:そうですね。思想的なことは最初から一度も変わっていません。だから、さっきの図も左端に、クリエイター(「作者が集まる」)があるじゃないですか。僕たちはとにかく、クリエイターのことだけを考えてそもそもやっていたのですが、深津さんのおかげで右の2つにスムーズにつながって、バランスよく伸ばしていけるようになった。

加藤さんが話し、聞いている深津さん。

シンプルに成長するためのフォーカス

深津:「noteのグロースはコンテンツパワーと発見性と継続性」と言っています。この図です。

noteの2018年のデザイン戦略

noteの2018年のデザイン戦略について

深津:いいコンテンツが集まってそれがみんなに届いて、ユーザーが読み続けて、作家が書き続けてくれれば、あとは伸びます。シンプルにこれだけだと思っています。noteのグロースや改善の施策は、基本このどれかのうち弱いところを直す。太いところをもっと太くする。どっちかに属するものを優先してやって、この3つにあんまり関係しないものはやらなくいようにしています。

シバタ:僕も自分でもいろいろなサービスをやってきて、それ以外にも他の会社も見ていますが、深津さんほどシンプルにできる人ってあまりいないですね。こういうのをやり出すとどんどん複雑になっていって、1カ月くらいやっていると誰が見てもわからないみたいな話がよくあります。

加藤:みんな難しくしちゃいがちですよね。

シバタ:これだけシンプルだと、例えば、後から入ってきた新入社員の人もパッとわかるじゃないですか。それがすごいなっていう印象ですね。

深津:これはオフィスの壁にでも貼っておいてくれるといいなっていう感じ。

加藤:そうだそうだ。新しいオフィスに貼らないとな。

シバタ:話がそれてきましたが(汗)、こうしてPVやユーザー数という数字的な結果だけではなく、その設計思想とか途中過程を聞くのはいつ聞いても勉強になります。

加藤:ありがとうございます。

ピースオブケイクにとって売上はあくまで「結果」

シバタ:話がまた逸れますが、売上はどの程度意識していますか?

加藤:noteで言う売上は、流通金額の一部が手数料として入るようになってるわけですが、これは本当に最後に結果的についてくる指標だと思っています。

深津:経営会議で売上の話をしたこと、ほぼないですよね。

加藤:ないですね。

シバタ: それ、すごいですね。このまま行ってほしいですよね。そんな会社なかなかないんで。

深津:PVとコンバージョンレートを知っていれば売上は計算できるので、わざわざ見るまでもないみたいな空気があります。

シバタ:これを言ったら怒られるかもしれないですけど、おふたりとも売上とか興味なさそうですよね。

加藤:あははは。

深津:いやあ、まあ。ガソリンなんで燃料切れだけ見るけど、バーンレート以外は気にしなくていいんじゃないですかねって感じですね。

シバタ:売上よりもむしろコストを見ていると。

深津:ユーザーが集まって離脱しなければ、勝手にPVが増えるし、PVが勝手に増えれば、コンバージョンに応じて売上は上がるはずなんです。手前の数値に異常値がなければ、売上は注視していなくてもついてくるはずです。

シバタ:まあまあ、そうですね。なるほど、すごく面白いですね。ありがとうございます。

深津:もともとnoteチームはポテンシャルあったので、チームに対してあれこれやったというよりは、設計思想を決めて、ちょっとズレているギアみたいなところにグリスをさして、ちょいって直して。アクセルを踏みやすくしたくらいのことしか、僕はやっていないかもしれないです。

シバタ:いやいや、でもすごい改善がバンバン出てきているし、本当に使わせていただいている側としては最強です。

深津:回転数がすべてを解決する。打席数、回転数がすべてを解決するっていうのが僕の哲学でもあります。

深津さん

CXO自ら記事を量産して一番のヘビーユーザーになる

シバタ:全然関係ないですが、深津さんnoteですごくたくさん記事書いていますね。

深津:たくさん書いていますよ。やるからには自分が一番、使い込まないとダメなんです。

シバタ:確かにそうですね。

深津:note(の社内)で一番書いている自信ありますね。

加藤:note全体でもトップクリエイターの一人になってますね。

深津:あとは、僕自身が2003年からずっとブログを書いているので、何でうれしい、何で飛び立つ、何で心が折れて止めるといったようなことを、全部、肌感覚で知っているということが強みの一つで、自分ごとにできるっていうところだと思います。

シバタ:深津さんがピースオブケイクに入ったので、「ブログを選ぶ際にはnoteにすることに躊躇がなくなった」とけんすうさんが言っていたのをどこかで見ました。

深津:ありがとうございます。

シバタ:迷いがなくなったというか、迷わなくても安心して使えるようになったみたいなことを言うと、逆に前からやってらっしゃる加藤さんや社員の方たちには失礼かなっていう気もするんですけど(汗)。

加藤:いやいや、全然、そんなことはどうでもいいんです。サービスが伸びるのがいちばん大事ですから。

シバタ:より安心感が増したということですね。


シバタナオキ:SearchMan共同創業者。2009年、東京大学工学系研究科博士課程修了。楽天執行役員、東京大学工学系研究科助教、2009年からスタンフォード大学客員研究員。2011年にシリコンバレーでSearchManを創業。noteで「決算が読めるようになるノート」を連載中

決算が読めるようになるノートより転載(2019年3月11日公開の記事

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