日産自動車と仏ルノー、三菱自動車が3社連合を統括する新組織を発表した。「アライアンス・オペレーティング・ボード」と呼ぶ新たな会議体を設置、今後、連合を運営していく上での最高意思決定機関とする。
「アライアンスの精神取り戻したい」
3月12日に発表された日産自動車、ルノー、三菱自動車の3社連合の記者会見。写真は左からルノーのティエリー・ボロレCEO、ルノーのジャンドミニク・スナール会長、日産の西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)、三菱自動車の益子修会長兼CEOの4人の経営陣。
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ボードのメンバーは日産の西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)、ルノーのジャンドミニク・スナール会長、ティエリー・ボロレCEO、三菱自動車の益子修会長兼CEOの4人。議長にはスナール氏が就任するが、役割はあくまで議事進行で、意思決定は合議制にするという。
「北風から太陽へ」とでも言うべきだろうか。
カルロス・ゴーン被告が逮捕されて以降、同氏の独裁的な経営がいろいろと明らかになった。その強権を「北風」とするなら、ボードメンバーの4人が顔を揃えた12日の記者会見でのスナール氏、ボロレ氏の温和な語り口は「太陽」だった。
「(1990年代後半の)アライアンスの精神を取り戻したい。アライアンスの精神とは完全にバランスの取れた迅速な意思決定のプロセスだ。しかも各社の文化を尊重し、そしてブランドを尊重するという精神だ」
スナール氏はそう語った。
「仏政府の中には(日産とルノーは)完全統合すべきだという人もいる。それは事実だ」
2018年、仏メディアのインタビューでそう語っていたボロレ氏も冒頭の挨拶では今後の連合の運営方法を述べるにとどめた。
「経営統合はない」とも言わず……
日産との経営統合を目論んでいた仏政府とルノー。ゴーン被告がいなくなった後のルノーと日産の関係はどうなるのか。
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経営統合を目論む仏サイドと、ルノーによる支配を拒絶する日産。12日の記者会見は、カルロス・ゴーン被告を連合から排除した新体制のもとで、この構図にどのような変化があるのかが焦点だった。具体的に言えば、1年余りにわたってくすぶり続けている経営統合はどうなるのか、ルノーの新会長に就任したスナール氏がゴーン容疑者と同様、日産の会長を兼務するのかに注目が集まった。
このうち経営統合について、スナール氏は「それは今日のポイントではない」と語り、西川氏も「今日の発表がファーストステップで、次が数カ月後にくるという議論ではない」と発言した。
一方、日産の会長就任について、スナール氏は「なろうとは思っていない。取締役会副議長には適していると思っている」とした。
もっとも4人は「経営統合構想などというものはない」とか「資本構成は現状のままで」といった発言もしていないから、潜在的な問題として残っていることは間違いない。
仏側は旅人の服を脱がせるのに、北風ではなく、太陽を選んだということなのだろう。なぜか。
「私たちは立ち上がらなければならない」とツイート
燃料税の引き上げに反対を表明した市民らが立ち上がった「黄色いベスト」運動は、マクロン政権の支持率低迷に追い討ちをかけた。
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日産が「仏自動車大手」になるかどうかは世界が注目する動きではある。
しかし、経営統合構想を実現したい仏政府、とりわけエマニュエル・マクロン大統領にとって日産・ルノー問題の優先度は、BREXITよりもはるかに下にある。マクロン氏が経済産業デジタル相だった2014年に、株式を2年以上保有する株主に2倍の議決権を与えるという条項の入った「フロランジュ法」を成立させ、構想実現の下地を整えた人物だったとしても。
マクロン大統領はこの数カ月、2018年秋に起きた反政府運動「黄色いベスト」の対応に追われてきた。「黄色いベスト」運動は燃料税の引き上げに端を発した政権への抗議行動で、地方から始まった運動はやがてパリの中心部を黄色いベストを着た人々が埋め尽くすまでになった。
その後、大統領のボディーガードを務めていたアレクサンドル・ベナラ容疑者がメーデーの参加者に暴行を加えている映像が公開されたことに端を発する「ベナラ事件」が政権運営に追い討ちをかけ、一時は支持率は27%にまで低下した。
だが、ここにきて若干とはいえ支持率は回復基調にある。
仏国内の政治情勢が落ち着きを取り戻したと見たからなのか、3月に入ってからはBREXITへの対応で精力的に動いている。初旬には24あるEUの公用語のうち22カ国語で「欧州のルネッサンスのために」と題する演説をTwitterに投稿し、「EUを破壊するのはウソと無責任」「ナショナリストのEU撤退は何も与えない」などとした上で、「私たちは立ち上がらなければならない」などと訴えている。
マクロン氏の関心が「合意なき離脱」に向いている以上、仏政府が日産とルノーの経営統合にどう臨むかは決まるはずもない。当面、日本側と角を突き合わせるのを手控え、仲良しぶりをアピールしておくということではないのか。
融和ムードの演出に腐心している間に「100年に1度」といわれる自動車産業の変革は日々進んでいる。「皮肉な話だが、こういう時はゴーン被告のような強権的手法の方が有効ではないのか」という声が3社連合内部からも聞こえてくる。
4人の記者会見があった12日、ゴーン被告の弁護を引き受けた弘中淳一郎弁護士は「(ゴーン被告は)『日産にはリーダーシップが必要。このままで大丈夫か』と語っていた」と明かした。それを連合から追われた元絶対的権力者の泣き言と切って捨てるわけにもいくまい。
悠木亮平:ジャーナリスト。新聞社や出版社で政官財の広範囲にまたがって長く経済分野を取材している。