ポスター切り裂き、セクハラ、保育園NG? ママとLGBTが政治家を目指したら何が起きたか

統一地方選

駒崎美紀さん(左)小酒部さやかさん(中央)増原裕子さん(右)

選挙で男女の立候補者が均等になるよう促す「政治分野における男女共同参画推進法」の施行後に迎える春の統一地方選と夏の参院選。実際に今年の選挙に初めて立候補を決意した女性候補者たちはなぜ政治の世界に踏み出したのか。ポスター切り裂き、圧倒的な資金と人手不足、まさかの保育園退園騒動?など、思わぬ“壁”も……。 女性立候補者3人が語り合った。

小酒部さやか:横浜市議会議員(青葉区)候補予定者。自民党。株式会社natural rights代表。 2児の母。

増原裕子:参議院京都選挙区候補予定者。立憲民主党。 経営コンサルタント。東京都渋谷区パートナーシップ証明書交付の第1号、現在のパートナーは経済評論家の勝間和代さん。

駒崎美紀:東京都北区議会議員候補予定者。あたらしい党。 前職は戸田市役所。夫はNPO法人・フローレンス代表理事の駒崎弘樹さん。2児の母。

母親やLGBTの声が政治には届いてない

増原裕子

BI:まずはなぜ今回、立候補を決断されたのか教えてください。


増原さん

増原さん

私は2011年にレズビアンであることをカミングアウトして、LGBTの人たちの居場所づくりや企業のダイバーシティのコンサルティングに当事者として取り組んできました。政治を志すことになったきっかけは、2年前にLGBT差別禁止法をつくる活動を通じて、国会議員との距離が近くなったことです。それまで国会議員って「お金、利権」などドロドロなイメージ(笑)だったんですけど、マイノリティの心に寄り添ってくれる人も多くて。さらに今の政権では差別禁止をうたった法整備が厳しいと身をもって感じ、もっと多様な視点が国会に必要だと思って決意しました。


駒崎さん

駒崎さん

私も当事者目線が政治に反映されていないと思ったからです。自分が産後うつになりかけてしんどい思いをしたのをきっかけに、ママたちが悩みをシェアし合うコミュニティを地元の東京・北区で立ち上げて5年以上活動してきました。でも1区民としての草の根活動に限界を感じることが増え……。例えば北区は産後支援としてヘルパーさんが来てくれるんですけど、「野菜は切っても火にはかけられない」など、当事者からすると利用しづらい。こういうところを1つ1つ改善していきたいなと。


駒崎美紀


小酒部さん

小酒部さん

私は2014年にマタハラの被害者支援団体を当事者として立ち上げ、「マタハラ」という言葉を広めて防止活動に専念して来ました。2017年1月には企業にマタハラ防止が義務化されましたが、当初は何十年もかかると思っていたんですよね。政府が思ったよりも迅速に動いてくれたおかげで、次のステージを模索するようになりました。今は会社経営をしているので、何かビジネスモデルを立ち上げようかとも思ったのですが、マタハラ防止の社会活動を通して人の役に立つことの喜びを知ったので、次のステージもやはり誰かの役に立ちたい、社会の役に立ちたいと思い、今回チャレンジすることを決意しました。


実は、無党派層でした

小酒部さやか

BI:みなさん、どうして今の政党を選んだんですか。特に小酒部さんが自民党から出馬するのは意外でした。


小酒部さん

小酒部さん

驚いたとよく言われます。それも狙いの1つです(笑)。私はもともと無党派でしたから、どこの政党から出るかは相当悩みました。決め手は、マタハラを人権問題としてだけでなく、日本の経済問題・経営問題として発信していくには自民党が適していると思ったからです。マタハラは少子化に直結する日本の大問題ですから。
それと私がマタハラ防止の活動でテレビに出始めたとき、「プロ被害者」「極左」などとネットで炎上したんですね。政策を提言していく上でそれが大きな妨害になった。私が自民党にいることで、今後同じような活動をする女性たちが偏見にさらされることが減って欲しいという思いもあります。


駒崎さん

駒崎さん

実は私も無党派でした。「あたらしい党」って地域政党で国政では無所属なんです。やっぱり自分に近いのは無所属なんじゃないかと思っていました。けれども、子どもが小学校に入学したときに学童の待機児童がたくさんいたんですけど、そういう情報は役所のホームページに載ってなくて。情報公開の大切さなど、あたらしい党には私が実現したい政策面でも通じるものがあったんです。


増原さん

増原さん

私は多様性の取り組みや原発ゼロなど、もともと政治信条的に立憲民主党に共感していましたね。


勝間さんと泣きながら話し合った

増原裕子

増原さんの京都のマンションに駆けつけた増原さんの母(左)と勝間さん(中央)。勝間さんは京都でリモートワークをしつつ活動を応援してくれている。

増原さん提供


小酒部さん

小酒部さん

女性が選挙に出るためには家族の理解も必要ですよね。我が家は夫が「政治の世界に挑戦しなよ」と後押ししてくれて、育休も取得すると言っています。


駒崎さん

駒崎さん

うちも夫自身が女性を支援することを仕事にしてきた人なので(夫は病児保育のNPO法人・フローレンス代表理事の駒崎弘樹さん)、私の挑戦も最初は驚いていましたが、「全力で応援します」と。毎朝駅に立つので、子どもたちの朝の保育園と学校の準備は任せてます



増原さん

増原さん

私は最初はすごく葛藤しました。京都で挑戦するには東京から引っ越すことになるので。
京都は多様性というメッセージを発信するには最適だと思っているんですが、せっかく素敵なパートナーができたと喜んでいたところだったので、離れて暮らすことにはやっぱり悩みました。勝間さんと2人で「どうする?」って泣きながら話したりして。結局、勝間さんが京都でリモートワークをするというかたちでちょくちょく会いに来てくれて、ごはんを作ったり、部屋を整えてくれています。


プレ政治家は保育園に入る資格なし?

駒崎美紀

毎朝街頭に立つ駒崎さんに代わって、子どもたちは夫(NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さん)が担当。

駒崎さん提供


BI:活動を始めてみて、戸惑うことはありましたか。


駒崎さん

駒崎さん

お金や人のやりくりは本当に大変です。私は勤めていた市役所の退職金をすべてつぎ込みました。ポスター貼りやチラシ配りはママ友・パパ友が中心になって手伝ってくれて助かっています。
私が住む北区の学童は収入無しでも継続できたのですが、保育園は収入が必要と言われ……。個人事業主として開業し、保育園の入所要件となる最低限の収入を得ながら、自分の後援会活動もすることで、やっと保育園に通わせ続けることができています。
これでは子育て中の女性が出馬するのは難しい。たとえ収入がなくても、選挙に向けた活動も仕事として認められるようにしなければ、保育園に子どもを通わせることもできません。


小酒部さん

小酒部さん

統一地方選に出る会社員の知人は、会社を辞めれば3カ月間は時短保育、その後退園することになると役所の人に言われたそうで、なかなか退職できずにいます。ほんと、これじゃワーキングマザー候補は増えませんよ。


小酒部さやか

小酒部さんは子育てと政治活動の両立がテーマ。普通の女性たちが立候補できる環境を目指す。

小酒部さん提供


増原さん

増原さん

地方選挙と国政選挙とでは状況も違うと思いますが、貯金がある程度ないと挑戦は厳しいと感じています。政治活動には政党交付金が出るのですが、たとえば生活費をどうするか。政治への転身の可能性を考え始めた昨年から仕事をものすごく頑張って貯金してきました。同時に、2018年いっぱいで終えられるよう仕事の区切りもつけられるように整理もしつつ。


IPU=列国議会同盟が発表した、国政レベルの議会で女性議員が占める割合で、193か国のうち日本は165位だった(2019年1月1日時点)。これは先進国で最低水準だ。一方、全国の1788地方議会のうち、女性議員がいない「女性ゼロ」議会は339にのぼる(朝日新聞2019年2月17日)。

ポスターを切られ、性的な嫌がらせも

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切り裂かれた駒崎さんのポスター。千葉でも統一地方選に立候補予定の女性市議のポスター140枚中119枚がはがされた。

駒崎さん提供


駒崎さん

駒崎さん

私は10月から毎日ほぼ1人で朝と夜に駅に立って街頭活動をしているのですが、酔っ払いの人に「マイクよこせー」と絡まれたり、2児の母親だというと「スケベ女」と言われたり。他にも卑猥な言葉をぶつけられることが多くて、私が男性だったらそんな絡まれ方したかなって考えてしまいます。
ポスターが刃物のようなもので切られることが続いたことも。10月から汗水たらして街をめぐり、頭を下げてお願いして貼っていただいたものなので、ショックで言葉が出ませんでしたね。息子も偶然、見てしまって、彼なりに傷ついたようでした。
普通のメンタルの女性ではできないなと思います。


増原さん

増原さん

立憲民主党の予定候補者の女性も嫌がらせを受けている人がいます。私も面と向かっていろいろ言われたりすることがありますし、SNSにも嫌がらせが届いているかもしれない。でも今は見ないようにしています。根本的な解決にはならないとわかっているんですが、それに引きずられないようにしておこうと。


小酒部さん

小酒部さん

政治家を目指すような、何かを主張する女性を叩く風潮が日本は得に強いですよね。それを変えるためにも、女性議員を増やす必要がある。


1日6時間の政治活動で勝つ

小酒部さやか

小酒部さんが自らつくったパンフレット。

小酒部さん提供


小酒部さん

小酒部さん

そのために私が目指すのは「ふつうの女性が政治家になれる社会の実現」です。事前ポスターは貼らないし、うぐいす嬢を使った街宣車での活動もしません。パンフレットや選挙ポスターなども全部自分でデザインして作りました。
2歳の子どもは認可保育園に入れてますが、0歳はまだです。申し込みましたが年度内はとても厳しくて入れるわけもなく……。平日の午前11時から夕方5時までベビーシッターを頼んでいるので、その時間内でやるべきことに専念すると決めています。0歳2歳合わせて一晩に3〜4回は夜泣きやミルクで起きるので、こうしないと体力が持たずに倒れてしまいます。


駒崎さん

駒崎さん

私もそうしたいんですけど、知名度がなく政党も小さい候補者は、街頭に立ったり、ポスターを貼ってくださるお宅やお店を探して、1人で1軒1軒お願いにまわったりと、女性議員を増やそうという割には、いわゆる「どぶ板」しかない選挙の現実に、矛盾と葛藤を感じます。この方法は結局、体力のある男性と差がついてしまいますしね。


駒崎美紀

駅に立つ駒崎さん。

駒崎さん提供


増原さん

増原さん

私はこの時期はワークライフバランスゼロでもいいと割り切って、従来のスタイルでやっています。だから課題はやっぱり体力。毎日のスクワット30回が日課です。あと睡眠時間の確保。
日々の生活が苦しくて選挙に行く余裕もない人たちに、「この人なら自分の困りごとを解決してくれる」とどうやったら思ってもらえるのか。自分が実現したいことと有権者の皆さんが求めていることをすり合わせるためには、「話を聞かせてください」「教えてください」と対話するしかないと思っているので。もっと体力があればあそこもここも行きたかったのにと、毎日反省ばかりです。


ネットで投票、パリテ法も

立憲民主党

立民のシンポジウムでトークする増原さん。女性候補者擁立に力を入れる立民の参院選の女性候補(比例代表)は4割だ。

増原さん提供

BI:女性の政治家が増えるために、何が必要だと思いますか。


駒崎さん

駒崎さん

立候補が決まってから「政治色がつくのは嫌だから」と離れていく人がいたのがショックでした。政治は私たちの生活に関わることです。もっと身近なこととして考えて、若い子育て政策に関心がある世代に投票に行って欲しいなとおもいます。



増原さん

増原さん

産休中の議員が国会の採決にインターネット投票できるようにするか検討する動きに対して、憲法違反ではないかという議論もありますが、ここは柔軟に対応してほしい。
今は男女の候補者が均等になるよう促すだけの理念法ですが、フランスの「パリテ法」のように候補者を男女半々にすることを政党に義務づける制度も必要だと思います。


小酒部さん

小酒部さん

インターネット上で投票できるような、若い世代の投票率を上げる仕組みが必要に思います。
私は、政治家は手段の一つだと思ってます。実現したい政策を成し遂げることができたら別のステージに移り、次の方に席を空けてもいいのではと。私が今回、新しい試みで選挙に勝つ道をつくって、なんとか1議席もぎ取れたら、次もワーキングマザーに出て欲しいんです。そしたら今度は私が配布物をつくって手伝いたい。風通しのよい政治にしていくために、そういうあり方も必要ではと思ってます。


編集部より:初出時、駒崎さんのコメントで「10月から毎日ほぼ1人で朝と夜に駅に立って」としておりましたが、正しくは「ほぼ毎日」です。訂正致します。 2019年3月16日 15:00


(構成・浜田敬子、竹下郁子、撮影・今村拓馬)

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