なぜ失敗した? ドワンゴの位置ゲー「テクテクテクテク」終了の理由 ── ファン目線で考察

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鳴り物入りで登場したドワンゴの位置ゲーム「テクテクテクテク」。公式サイトでも、すでに2019年6月17日午前11時59分をもって、サービス終了することがアナウンスされている。

ニコニコ動画の運営元ドワンゴが3月13日に突如として発表した、位置ゲーム「テクテクテクテク」(以下、テクテク)の「サービス終了」がファンやドワンゴウォッチャーの間で話題を呼んでいる。

ドワンゴを傘下に収めるカドカワは、2月13日に発表した四半期決算で、通期業績予想を下方修正し、純損益ベースで43億円の赤字になる見通しを公表している。

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第3四半期の各セグメント別業績。「ドワンゴのゲーム」としてテクテクの不調に言及している。

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2018年5月時点では当期純利益を54億円と見込んでいたが、2019年2月には43億円の純損失の見込みと業績予想を大幅修正している(編集部)。

同決算発表では、ドワンゴのゲーム事業単独でみても、当初予定では通期で売上高50億円、営業利益25億円を見込んでいたのに対し、実績は第3四半期時点の売上高900万円、営業損益は8億600万円という大幅な赤字。赤字発生の概要説明の中でも、テクテクの不振が言及されており、経営的にも無視できない課題になっていたことが見て取れる。

テクテクのサービス終了がアナウンスされた際、中村光一プロデューサーは「現在の課金規模では事業として成立せず、今回の決定となりました」と、収益の不振がサービス終了の決定的な理由だったとコメントしている。

「テクテクテクテク」とはどんな「位置ゲー」だったのか

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レイドバトルの敵キャラクターとして登場する映画「シン・ゴジラ」のゴジラ。

「テクテクテクテク」は、2018年11月にドワンゴがリリースしたスマートフォン向けゲームだ。「弟切草」「不思議のダンジョンシリーズ」などの作品で知られる中村光一氏と麻野一哉氏が開発に携わっていることで、ゲームファンから注目を集めた。独特のゲームタイトルやテレビCMなどの効果もあって、ネット住人を中心に、プレイしている、プレイしていないが名前は知っているという読者も多い。

テクテクは「位置ゲー」と呼ばれるジャンルのゲームで、スマートフォンの位置情報機能を活用し、バーチャル空間ではなくリアルな世界を実際に移動して楽しむゲームだ。ナイアンティックの「Ingress」「Pokémon GO」、モバイルファクトリーの「駅メモ!」といった作品が位置ゲージャンルの有名タイトルだが、本作も国内の位置ゲーを代表するタイトルの1つだった。

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国内を代表する位置ゲーム3作品とテクテクテクテク。

筆者は位置ゲーが好きで、Pokémon GOもサービス開始から、「ハマる」と表現していいほどプレイしていた。しかし最近ではPokémon GOをほとんど起動することがなくなり(理由は後述)、移動中にゲームをプレイする機会が減っていた。

そういう中でテクテクと出会い、最近は移動のたびにテクテクを起動、知人・友人にも積極的に勧めてまわるほどのファンになっていった。

位置ゲー好き目線で見る「ポケモンGOとの違い」

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テクテクテクテクのゲーム画面。市区町村単位で塗りつぶすと色が黄色になり、1日ごとボーナスがもらえる。

他作品と比べてテクテクが特徴的だったのが「実際の地図」にこだわった点だ。IngressやPokémon GOにおける地図は単なるフィールドであり、Ingressではポータル、Pokémon GOはポケストップ(アイテムなどを入手できるマップ上のランドマーク)やジム(占領し、ポケモンを戦わせられるマップ上の施設)といった、「地図上に存在するスポット」が重要だった。

これに対しテクテクでは、自分が移動したエリアの地図を「塗る」ことでポイントを獲得し、敵と戦ってレベルアップしていくという仕組みになっている。

地図も実際の都道府県や市区町村を塗っていくという、「現実の住所」を意識させる仕様だ。

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突然のサービス終了だったためか、コラボの中止や期間の変更などの発表についても説明されている。

Pokémon GOは、位置ゲーとしてトップクラスの人気があり、今なお多くのユーザーから支持されているタイトルだ。一方で、筆者がPokémon GOを起動しなくなっていったのは、大幅なアップデートで「レイド」という対戦システム(レイドバトル)が導入された時期くらいからだ。

筆者は、いわゆる「ジムの防衛」にはあまり興味がなく、ただポケモンを集めるだけで楽しんでいた。それが、レイドバトルの導入以降、「レイドバトルに参加しないと獲得できないポケモン」が登場したことで、ポケモンを集めるためにはレイドバトルへの参加が必須になり、自分のペースで好きにポケモンを集めるという楽しみが半減していった(もちろんこれは筆者個人の嗜好だから、レイドバトルでPokémon GOがより楽しくなったという人もいる)。

テクテクにもPokémon GOのようなモンスターを集める要素はあるが、あくまでメインは「地図を塗る」ことなのは大きな違いだ。

「地図を塗った場所からはアイテムを獲得できる」という仕様のおかげで、自宅やオフィス付近、通勤経路などいつも同じ道を通る場合も何度でも楽しめる。また、いつも同じ道を通ることが多い通勤経路も、地図を塗ることを目的にいつもと違う道を通り、そこで「こんなお店があったのか」と新しいお店に出会うといった楽しみもあった。

また、テクテクテクテクのゲーム性がユニークだったのは、一度塗った地図があれば、現地に行かなくてもその地図の周辺を塗ることができる「となりぬり」という機能だ。地図を塗るゲームでありながら「実際には移動しなくても地図を塗ることができる」のだ。

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「となりぬり」を積極的に使って、最小限の外出で東京23区の過半数を塗り尽くした知人の例。

この機能のおかげで、平日は家と会社の往復ばかりという人でも、塗った地図のポイントを集めてとなりの地図を塗って面積を広げていくことができる。実際、筆者の知人には、「業務の中心がほぼ自宅」というフリーランスにもかかわらず、となりぬりを駆使して23区の過半数を塗り尽くしたという猛者もいるほどだ。

筆者の周囲でテクテクに熱中している人は多く、細かなところで要望はあるものの、作品そのものの魅力は非常に大きかった。

一方、決算発表やサービス終了のお知らせでも言及されている収益面は、1ユーザーとしても厳しいものを感じていた。率直に感想を述べるなら「これで課金を稼ぐのは難しかっただろうな……」というのが偽らざる気持ちだ。

課金インセンティブに失敗した良作ゲームの悲しみ

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Android版Google Playの評価画面より。遊んでいたユーザーたちのさまざまな想いのコメントがあつまる掲示板のようになってしまっている(編集部)。

もう終了が決定したサービスに何を言っても仕方ないが、テクテクの課金設計に足りなかったものは何なのか、考えてみた。テクテクの課金要素は、

  1. ゲーム内で使うアイテムや武器・防具の購入
  2. アイテムを持てる数の拡張(かばん枠)
  3. マップで入手できる宝箱を開くことができる数(宝箱システム)

というものがある。アップデートで新たにモンスターを飼うことができる牧場の数(牧場枠)という要素も追加されたが、サービス終了が決定する前の課金要素としてはこの3つだ。

この中で筆者が一番、課金要素として惜しいと感じるのが「宝箱システム」だ。

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テクテクテクテクの宝箱。

テクテクの宝箱は入手時に施錠された状態で、これを宝箱枠に登録すると一定時間で宝箱が開鍵され、アイテムが入手できる。宝箱はグレードごとに解錠までの時間が異なる上に、入手した宝箱は24時間経つと消えてしまう。

そのため、たくさん宝箱を入手しても枠が少なければ時間切れで無くなってしまうが、「宝箱枠を買って増やせば時間切れになる前に宝箱をたくさん開けられますよ」という仕組みだ。

しかしこの宝箱枠最大の問題は、拡張しても7日間で消えてしまうことだ。せっかく課金しても元の状態に戻ってしまうため、「課金してまで増やす」というモチベーションにつながりにくい。

おそらくは宝箱枠が「消える」仕様にしたことで、1ユーザーが何度も課金することを狙ったと推察されるが、結果として「そもそもユーザーが課金に及び腰になる」という結果をつくってしまったのではないか。

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2016年のサービス開始以来、さまざまな仕掛けで国内外の注目を集め続けている位置ゲーの王様、Pokémon GO。

Pokémon GOでは同様にアイテムやポケモンを持てる数を課金で増やせる仕組みがあり、こちらは一度増やせば永久に減ることはない。リピート率は低いかもしれないが、結果としてPokémon GOユーザーは枠の拡張にきちんと課金している。

一方、Pokémon GOにも購入しても消滅する「ふかそうち」というアイテムはあるが、これも使用回数に達すると無くなる仕組みであり、「使わないのに勝手になくなってしまう」ということはない。

また、テクテクテクテクは敵に勝つとHPが満タンに回復し、すでに塗ったマップからもHPやMPを回復できるため、「HPやMPを回復するアイテム」はバトル中以外でほぼ使うことがない。この仕様だからこそ気楽に敵と戦えるため一長一短だが、回復アイテムに課金するモチベーションに乏しい、という要素は現実としてあるだろう。

フィールドでのアイテム出現率をもう少し抑えるとともに、ショップでしか買えない魅力的なアイテムを増やす。また、アイテムの種類や持てる数も減らし、アイテム強化に課金する、という仕組みだったら課金のモチベーションはもう少し違ったかもしれない。

テクテクテクテクのプレイ動画。遊び方の雰囲気を知りたい人は見てみよう。となりぬりの説明は5分4秒から。

既存の課金要素だけでなく、無料の機能である「となりぬり」も課金の要素になり得たはずだ。現実問題として日本全国の主要ポイントへ足を運べる人は極めてまれだからだ。

例えば、本来であればとなりぬりできない境界の向こうを塗ることができる「超となりぬり」とでもいうべき課金システムがあれば、ひたすら地図を塗りたいユーザーへも、課金できる要素がうまれたのではないか。

最初から現地へ行くことが大前提のゲームであればいざ知らず、行ったことがなくても塗れてしまう「となりぬり」があるゲームだからこそ、「東京から一歩も出ないのに日本全国を制覇した」という楽しみも作り出せたのではないかと思う。

「熱烈なファン」と「課金の成立」は必ずしもイコールではない現実

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日本各地の「塗り状況」がわかるテクテクマップ。

筆者の場合、無料で楽しめるゲームであっても、自分が楽しくプレイできているのであれば適宜課金する派だ。

しかし悲しいかな、テクテクについては単にお金を払いたいという気持ちでもない限り、課金するための「必然性」が感じられなかったのは事実だ。

お金を払うこと自体が嫌ということではなく、「欲しくないものにお金は払えない」という複雑な感覚だ。

筆者の好きなnoteの記事「妻のパンチライン5選」という投稿の中に「消費はメッセージだ」というものがある。記事ではおもしろおかしく書いてあるが、金額の多寡に関係なく、何を買うか、買わないかは自分が発信する意思表明そのものだ、という主張は心に響くものがある。

その点で考えてみると、テクテクの課金(消費)は、自分にとってメッセージにならなかった。どれほど愛用していても、なんでも良いから課金で支援、とはならない。

テクテクの撤退は、ファンにとっても無料ゲームの課金設計の難しさを改めて感じさせるできごとだ。

(文、写真・甲斐祐樹)

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