前回のコラムで家事育児の金銭換算について紹介した際、「家事や育児の時間を正確に測れるのか」とのコメントをいただいた。この指摘はもっともで、家事や育児の時間には確かにあいまいさがある。
育児時間以外は子育てをしてない?一緒にいれば、子どものことを常にケアしているものだ。
撮影:今村拓馬
例えば、日本における家庭内の家事育児時間を測る統計としては、総務省の「社会生活基礎調査」がある。
この調査では、家に幼稚園や保育園等に通っていない6歳未満の子が1人いる世帯における専業主婦の育児時間は1日平均6時間40分としている(総務省「平成28年社会生活基礎調査」)。しかし、専業主婦が24時間のうち残りの17時間20分について育児から完全に解放されているかというと、そんなはずはないだろう。
社会生活基礎調査では、同時に2つ以上の行動を取った場合、そのうち回答者の主観による「主なもの」だけを集計対象とする。例えば、子どもに食事を食べさせながら自分も食事をとった場合、回答者が「自分が食事をとる」ことを主な行動であると思ったならば、その時間は「身の回りの用事」にカウントされ、「育児」にはカウントされない。
子どもをお風呂に入れながら自分もお風呂に入る時間、料理をしながらも子どもを見守っている時間、テレビを見ながら子どもを見守っている時間……、1日の行動のうち「育児」なのか否かあいまいな時間はたくさんある。そのうち、「主なもの」が育児であると認識している時間だけを集計した育児時間は、実感よりも短いものになるだろう。
子どもと一緒に眠る時間も育児時間?
英国国家統計局は、子どもと一緒に眠っている時間も育児時間にあたるとみなす。
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この点についてイギリスの国家統計局は、子どもを家庭で見守っているすべての時間に付加価値が生じているという大胆な仮定の下で、育児の金銭価値を計測している。すると2016年の1年間で、家庭内の育児で年間3517億ポンド(1ポンド=150円として約53兆円)もの付加価値が生じた計算になり、GDPの約18%にも相当する(Office for National Statistics ”Household satellite account, UK: 2015 and 2016”)。
子どもを家庭で見守っているすべての時間とは、言葉通りの意味である。15歳以下の子について、1年、8760時間(=365日×24時間)のうち、子どもが保育所・幼稚園・小中学校などに通っている時間と、子どもだけで過ごした時間を差し引いた残りの時間を育児時間とみなすのである。
保育園からの「迎え」は、その後翌朝まで「広義の育児」をすることとセットになっている。
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前述の子どもをお風呂に入れながら自分もお風呂に入る時間、料理をしながらも子どもを見守っている時間、テレビを見ながら子どもを見守っている時間などは、イギリスの基準で言えば、すべて育児時間となる。そればかりか、英国家統計局は子どもと一緒に眠っている時間さえも育児時間にあたることを当然としている。
子どもと一緒に寝ている時間に経済価値なんて生じるはずがない、と思った人がいるかもしれない。だが、(特に未就学児の)子どもを常に誰かが見守っていることの必要性に異議を唱える人は少ないだろう。その「誰か」は、見守りをしている間、同時に、寝たり仕事をしたり趣味を楽しんだりすることも可能かもしれないが、完全に自由になることはない。
イギリスの報告書は、その「誰か」の貢献が非常に大きいことを気づかせてくれるのだ。
夫婦で「広義の育児」の分担を
どうすればお互いの負担を減らせるだろうか?
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さて、子どもを見守っている時間すべてが「広義の育児」だと認識したところで「広義の育児」の家庭内の分担について考えてみよう。
例えば、30代前後の共働き世帯において、妻のみが保育園からの「迎え」をしていることは多いだろう。この場合、夫は何時に家に帰ったとしてもとりあえずその日の育児は回ることになるため、残業だけでなく夜の予定を入れることも可能だ。
しかし、妻は「迎え」をした時点から翌朝まで子どものそばを離れることができないかもしれない。保育園からの「迎え」が、その後翌朝まで「広義の育児」をすることとセットになっていないだろうか。
子どもと共に過ごす時間は親にとって幸せな時間でもあるが、自分の自由になる時間を持てない日々が続くと、子どものそばを離れられないことが次第に「負担」になってくることもあろう。
妻が「迎え」をしたとしても、夫がその後すぐに帰宅すれば「広義の育児」を夫にバトンタッチして、妻が外出して夜に自分の時間を持つことも可能だ。子育て生活を幸せなものとするためには、「広義の育児」を夫婦で分担し幸せな時間を分かち合うとともに、お互いに自由な時間を持てるようにすることが重要だろう。
是枝俊悟:大和総研研究員。1985年生まれ、2008年に早稲田大学政治経済学部卒、大和総研入社。証券税制を中心とした金融制度や税財政の調査・分析を担当。Business Insider Japanでは、ミレニアル世代を中心とした男女の働き方や子育てへの関わり方についてレポートする。主な著書に『NISA、DCから一括贈与まで 税制優遇商品の選び方・すすめ方』『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(共著)など。