「10億円稼ぐ社会起業家1000人育てる」23もの社会課題解決に取り組むベンチャーが急成長

東京・東村山の自社工場で、革製品を手作る職人と話すジョッゴの高橋亮彦社長(左から2人目)。

東京・東村山の自社工場で、革製品を手作る職人と話すジョッゴの高橋亮彦社長(左から2人目)。8人の職人のうち4人は精神障がい者で、障がいがない人と同じ給与体系の正社員として働いている。

撮影:庄司将晃

貧困、差別、環境破壊……。さまざまな社会問題の解決に、ボランティアではなく「長続きする商売」という形で取り組むソーシャルビジネス。日本ではまだまだ「意識が高い人が、もうからない仕事なのに頑張っている」というイメージを持たれがちだ。

しかし、ソーシャルビジネスだけを手がけながら、設立から10年余りで売上高40億円超にまで急成長し、「目標は1兆円企業」というベンチャーが現れた。直近では世界7カ国で1000人ほどが働くボーダレス・ジャパンだ。

精神障がい者を革製品作りの職人に

ジョッゴの商品ラインナップ。

ジョッゴの商品ラインナップ。各パーツの色を選んだり名前を刻印したりできるカスタムオーダー品を、「大切な人への世界でたった一つのギフト」にできるのが売りだ。

ジョッゴのウェブサイトより編集部がキャプチャ

東京都東村山市の静かな住宅街。マンションの1階にある作業場で、8人の職人が財布や名刺入れ、キーケースといった革製品を手作業で作っている。

うち4人はADHD(注意欠陥多動性障害)やうつ病などの「精神障がい」を持つ人たちで、作業場を運営するジョッゴの正社員。障がいのない人と給与体系は全く同じだ。契約社員のベテラン職人の技術指導も受けながら作業をこなす。

「ここではいろいろなことに挑戦できます。すぐできなくても『やらなくていいよ』じゃなく、『どうしたらできるか考えてみよう』と。できるようになるまで少し時間がかかることをみんな知っているので、タイミングを待ってくれるのもありがたいです」

職人として働き始めて1年余りの坂本実萌(みほ)さん(25)は笑顔でそう話す。

ジョッゴは、ソーシャルビジネスを手がけるベンチャー、ボーダレス・ジャパンの子会社の一つだ。

2014年、「大切な人への世界でたった一つのギフト」といったコンセプトで、各パーツの色を選んだり名前を刻印したりできるカスタムオーダーの革製品の販売を開始。最近は販売ルートを自社サイトに限るなどしてコストを抑え、価格はポピュラーな国内ブランドの既製品と同程度かそれ以下に設定。売上高は直近で7億5000万円ほどで、純利益も出ているという。

生産拠点は2カ所。150人ほどが働くバングラデシュの工場では、貧しい家庭環境にある人などを大卒の公務員と同じくらいの賃金で積極的に採用している。

受注後に一つひとつ手作りするため、納期が21日後の「通常便」と15日後の「特急便」はバングラ工場、8日後に届ける「超特急便」は東村山で生産を受け持つのが基本だ。

あくまでも商品やサービスそのもので勝負する

グアテマラの先住民族の女性たちが作る手織物などの伝統工芸品を、ブランディングして日本で販売するボーダレス・ジャパンの事業。

グアテマラの先住民族の女性たちが作る手織物などの伝統工芸品を、ブランディングして日本で販売するボーダレス・ジャパンの事業。ジェンダー差別や民族差別に直面する先住民族の女性の雇用を増やすことが目的だ。

ボーダレス・ジャパンのウェブサイトより編集部がキャプチャ

ジョッゴ社長の高橋亮彦さん(31)は18歳の時に交通事故に遭い、車いす生活に。「障がい者が健常者と同じように働くことができる環境をつくり、すべての障がい者を社会保障の受給者から納税者に変える」ことを、この事業の目標に掲げる。

「障がい者は評価や待遇といった面で、健常者と同じ土俵で働けていない現状があります。特に精神障がいを持つ人は身体障がい者に比べて就労率が低く、働いている人でも単純作業を担い給与水準はかなり低いのがふつうです。でも、実際にはとても細かなところに気がつく特性を持っている人が多く、革職人ならそれを活かせると考えました」(高橋さん)

革製品の製造には裁断、組み立て、ミシンがけなどさまざまな工程があり、一人ひとりの得意なことを見極めて職人として育成することができるという。

ただ、ジョッゴのウェブサイトでは「日本の障がい者やバングラデシュの貧しい人たちが作っている」ことを前面に押し出しておらず、そうした背景を知らないまま注文する人も多そうだ。

「もちろん当社のビジネスのあり方に共感してくれる人はありがたいし、大切にしたいと考えています。でも本来、当社の製品を購入する人にとっては、誰がどのように作っているかは関係ありません。より多くの人に買っていただくとすれば、ライバルに勝てるモノやサービスでなければ生き残れませんから」(高橋さん)

あくまでも商品やサービスそのもので勝負する。これは、ボーダレス・ジャパングループ全体に共通する基本方針だという。

コスト高の制約を緻密なマーケティングで克服

ボーダレス・ジャパンの業績推移

ボーダレス・ジャパングループの業績推移(編集部注・決算期は2月)。

ボーダレス・ジャパンのウェブサイトより編集部がキャプチャ

ボーダレス・ジャパンは途上国の貧困問題から国内の耕作放棄地や若者の早期離職まで、さまざまな社会問題に取り組む23の事業を展開している。

「ソーシャルビジネスによって社会に大きなインパクトを与えたいなら、当然、ビジネスの規模を大きくしていく必要があります。そのために1人でも多く社会起業家を増やすことがミッションです」

創業者で社長の田口一成さん(38)はそう話す。

ビジネスの仕組みはこうだ。

ボーダレス・ジャパンは、いつでもソーシャルビジネスを志す社内外の人から事業計画を募っている。プランが持ち込まれると、田口さんが自らアドバイザーとなってプランをブラッシュアップ。常に5、6件の検討が並行して進んでいるという。

事業計画が仕上がったら、ジョッゴの高橋さんらそれぞれの現場で事業を回している子会社の社長でつくる「グループ社長会」にかけられ、満場一致の賛成が得られれば事業化が決まる。本社が5000万~6000万円程度を出資して新しい子会社を設立し、事業の提案者が社長に就く。

総務・経理・広報といった業務は本社が格安で請け負い、子会社は具体的な商品やサービスの企画に集中する。田口さんや、本社のマーケティングの専門家らが全面的にバックアップし、商品やサービスが「どうすれば売れるか」を徹底的に考え抜いたうえで、事業をスタートさせる。

「資本主義では効率を追求するのが当然です。工場を建てるなら、覚えが早くて長時間働ける若者をまず雇うので、障がい者といった『効率が悪い』人たちは取り残されてしまう。

このような社会問題の解決に挑むのがソーシャルビジネスであり、コストが高いという制約条件が大前提になります。より付加価値を高くしないとビジネスとして成立しないので、マーケティングが非常に重要なんです」(田口さん)

ボーダレス・ジャパンの従業員数推移

ボーダレス・ジャパングループの従業員数推移。

ボーダレス・ジャパンのウェブサイトより編集部がキャプチャ

基本戦略は、それぞれの子会社が大手と競合しない10億円規模のニッチ市場でトップになること。社会的インパクトを出すため一定の売り上げ規模は追求する一方で、ソーシャルビジネス側に勝ち目がない、大手との体力勝負は避ける。「勝てる勝負しかしない」(田口さん)のが流儀だ。

とはいえ口で言うほど簡単なことではない。

例えばジョッゴの場合、一つひとつの商品にそれぞれ明確なターゲットを設定したうえで、あてはまる10~20人へのヒアリングを何度も繰り返す。「どう使われるか」を非常に細かい点まで検討し、コンセプトを練る。

「25~30歳の独身男性向けの長財布」であれば、よく使うクレジットカードやポイントカードを1枚ずつ収納するポケットに加え、その他のカードや領収書などをまとめて入れておいても出し入れしやすいサイズ・形のフリーポケットを設けるなど「相当な作り込みをしている」(高橋さん)という。

社会を変えたいならお金を自分で動かせるように

ボーダレス・ジャパンの創業者で社長を務める田口一成さん。

ボーダレス・ジャパンの創業者で社長を務める田口一成さん。「売上高10億円の事業を手がける社会起業家を1000人つくれば、グループとしては1兆円。これが最低限の目標です」。

提供:ボーダレス・ジャパン

大学時代、「俺は何者になりたいのか」と悶々とした日々を過ごしていた田口さん。たまたまつけていたテレビで、栄養失調に苦しむアフリカの子どもたちの映像を見て衝撃を受け、「貧困で苦しむ人を助ける仕事をしよう。これなら自分の人生をかける価値がある」と決意したという。

「どうすればいいでしょうか」

あちこちの途上国援助活動の関係者らのもとへ押しかけて話を聞かせてもらうなかで、あるNGO職員からこう言われた。

「本当に貧困の現状を変えたいなら、自分でお金をコントロールできるようになりなさい。僕らのように寄付金に頼った活動をしていては、大きな動きはできない。本当に社会を変えたいなら、ダイナミックかつ継続的に支援できるための資金が必要なんだ」

田口さんが、公的な補助金などに頼らない自立したビジネスによって社会問題を解決しよう、と起業を志した原点だ。

大学を卒業後、お金の稼ぎ方を学ぶため、「3年で辞める」と公言して機械加工製品の製造・販売を手がけるミスミに就職。その後、25歳で起業した。

日本で部屋を借りづらい留学生などの外国人と日本人が一緒に暮らし、「共同生活を通じて差別・偏見をなくす」ためのシェアハウス事業や、ミャンマーの貧しい農家がつくったハーブを使ったお茶の販売といった事業を手がけ、次々に軌道に乗せた。

やがて転機が訪れる。

「ソーシャルビジネスは、『この社会問題を解決したい』と情熱を燃やす人がいないことには始まりません。社会により大きなインパクトを与えていくためには、私がやりたいことを一つでも多くやるというより、いろんな思いを持った社会起業家の仲間をたくさん増やす方がいい。だんだん、そう思うようになったんです」(田口さん)

そうしてボーダレス・ジャパンは「社会起業家のプラットフォーム」という今の姿になった。

田口さんは言う。

「売上高10億円の事業を手がける社会起業家を1000人つくれば、グループとしては1兆円。これが最低限の目標です。このくらいやらないと、『ソーシャルなんて仕事できないやつがやってるんでしょ』という目で見る人たちの意識は変わらない。

もともとコストの足かせがあるだけに難しい。だからこそ、ビジネスができる人ほど社会課題に目を向け、ソーシャルビジネスに取り組んでくれるようになってほしい」

(文・庄司将晃)

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