2019年、大企業の「ヒットを生み出す法則」が変わってきた ──「ガイアの夜明け」密着、Makuakeに聞く

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いま日本では、社外の企業や組織などとプロジェクトを進める「オープンイノベーション」に取り組む大企業が増えている。

国内のクラウドファンディング・プラットフォームで年間の支援額トップ(2017年度)のMakuakeは、2016年1月から「Makuake Incubation Studio(MIS)」を組織して、大企業コラボのクラウドファンディングを「事業化」してきた。

MISの事業責任者でマクアケ取締役の木内文昭は、いわば「大企業コラボのクラファン成功請負人」だ。

MISの事業責任者でマクアケ取締役の木内文昭氏

MISの事業責任者でマクアケ取締役の木内文昭氏。

MISの活動の契機になった大企業×クラウドファンディングの手応えを得たきっかけを、木内は、ソニーがMakuakeを使った「FES Watch」のプロジェクトだったと振り返る。

「(製品企画の)タネも、設計するリソースも生産する資金もあるのに、なぜかモノが生み出せない現状があることに気づきました。Makuakeによって売れることが分かれば、アイデアの“証明”ができる」はずだ、というのが取り組みを開始した当初の木内の直感だった。

総務省の科学技術研究調査によると、国内の研究費の総額は約19兆円(2017年度)。そのうち企業の予算は合計が13兆7000億円あり、多くは大企業だとされる。

「(これだけ予算があるのに)厳しい言い方ですが、研究所にいくと“全然モノが生まれてない”んです。その一方で、素晴らしい技術はどんどん生まれている。クラウドファンディングの先行予約販売の仕組みと、ユニークな技術を組み合わせて、もっと新しいものが生まれてくる世の中にできないか、と」(木内)

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MISとコラボして実際にクラウドファンディング実施までこぎつけた企業一覧。必ずしもメーカーばかりではないところが面白い。

いま、Makuakeを通じて大企業コラボがプロダクトや事業などの形になった例は、シャープ、キングジム、コニカミノルタといったいわゆる「メーカー」から、JT、ライオン、NEXCO中日本まで多岐にわたるが、いずれも社名を出した上で、実際にモノが出て売り上げが立つところまでを、MISとしてサポートしてきた。

マクセルとリクシル子会社、両極端な「新規事業」の目的

木内が推進するMISの取り組みは、3月19日放送のテレビ東京「ガイアの夜明け」にて「“ヒット商品”の新・方程式!」というテーマで密着取材が放送された。

MISの密着取材で紹介されたプロダクトの中で、直近で象徴的な動きは、エネルギー関連や産業用部材大手のマクセルと、住宅設備大手のリクシルの子会社NITTO CERA(ニットー セラ)との2つのコラボの事例だ。

マクセルが挑む「革新的な3分チン!する“ローストビーフ”調理器」

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マクセルとMakuakeが検討を進めるクラウドファンディング新商品。特殊な技術で作られた樹脂板で肉を挟み込み、電子レンジで数分加熱するだけで牛肉を調理できる器具だ。

マクセルは、昭和の時代に普及したカセットテープのメーカーとして一般に名を知られてきたが、今なお、樹脂整形の分野で高い技術を持っている。

いま、MISとともにクラウドファンディングの実施を目指しているのが、樹脂に窒素などのガスを注入して、発泡成形が難しいとされる高級樹脂素材(※)を発泡成形する「RIC-FOAM」(リッチフォーム)という新技術を使ったプロダクトだ。リッチフォームは2017年に発表したばかりの技術だ。

発泡成形が難しいとされる高級樹脂素材:スーパーエンジニアリング・プラスチックと呼ばれる。耐熱性の高さ(おおむね150度以上)や高温になった際の強度を持つ特殊なプラスチック。スーパーエンプラとも呼ばれる高価な素材。

リッチフォーム技術を使い、「リッチフォームでしか作れないプロダクトを世に送り出して“技術ブランディング”をできないか、もっと世の中にリッチフォームの技術を広められないか」というのがMISに寄せられた相談だった。

木内らMISの担当者とマクセルとで議論を重ねた結果、たどり着いたのは、マクセルの既存事業とはまったく異なる、「電子レンジで利用できる調理器具」。この板で肉を上下から挟み込み、電子レンジで約3分加熱するだけでローストビーフが調理できるというプロダクトだ。この製品に、肉牛の一次生産者(牧場)から「美味しい牛肉」を定期直送する「肉のサブスクリプション」を組み合わせたビジネスアイデアを構想している。

Makuakeでのクラウドファンディング実施はまだ検討段階を出ていないが、プロトタイプの試作と調理のテストはすでに進んでいる。マクセルは、新規事業に取り組む手法のひとつとして、クラウドファンディングを検討しているという。

家庭向け“泡シャワー”をつくる裏にある目標

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モリタ宮田工業とニットー セラが共同開発する泡シャワー「KINUAMI」。消防車両などがホースから吹き出す泡を生成する技術を使っている。3月27日からクラウドファンディングを開始する。

リクシルの子会社ニットー セラは、3月27日から、家庭向けにせっけん泡の出るシャワー「KINUAMI(絹浴み)」のクラウドファンディングを開始する。

KINUAMIは、消化器や消防車両などの防災技術大手、モリタ宮田工業とニットー セラが共同開発したもので、モリタ宮田工業が持つ「泡」を作り出す業務用技術を、防災とはまったく異なる市場向けに送り出そうというものだ。

3月27日から開始予定のクラウドファンディングは、100台限定、成立した場合の価格はおよそ4万3000円。「100台の支援が集まらなければ実施なし」という、いわゆるオール・オア・ナッシング型だ。目標支援金額は430万円だ。

100台限定という数から想像できるように、KINUAMIは一般向け商品化をメインのビジネスとして想定しているわけではない。まず100台の需要があるのかを探り、別のビジネスの基礎データに生かして展開するという、「テストマーケティング」の色合いが濃いプロダクトだと木内は言う。

大企業がクラウドファンディングで突破したいもの

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手頃な価格でメイドインジャパンの品質の高い腕時計を世に出したことで一躍有名になったモノづくりベンチャー、Knotの時計もMakuakeのクラウドファンディングから誕生した。

こうしたいわゆる大企業が、クラウドファンディングを使って突破したいものは一体何なのか?

木内はクラウドファンディングでさまざまな企業を支援してきた経験から、日本企業が抱える「イノベーションのジレンマ」に、一定のパターンがあるとする。

なぜ、多くの大企業が似たような問題を抱えるのか? その答えは「HowとWhatにあるのではないか」(木内)という。

「日本企業はHow(いかにして解決するか)を考えるのが得意です。一方で不得意なのは、What(何をするか)の“問いを立てる”ことじゃないでしょうか。

時代が変わり、Howを突き詰めることで世界を制覇できた時代から、ネットやスマホの普及によって情報(と課題)が多様化して、Whatが問われる時代になりました。その仕組みの変化に大企業が苦しんでいる、というのが多くの企業で似た課題が生じている理由だと、私は感じています」(木内)

企業の中には、この「競争環境の変化」に気づいている社員たちも、もちろんいる。

木内のもとに相談へ訪れる人たちは、ある意味で、大企業の中のそうした「気づき社員」たちばかりだ。

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大企業が新規事業に取り組むとき、志の高い社員たちの前に立ちはだかるのは、

「合議制的なスキのないモノづくり」

「失敗の可能性を突き詰め、リスクを限りなくゼロにする組織の風土」

「数百億円規模のビジネスになり得るか? という問い」といったものだ。これは、メイドインジャパンを世界的なブランドにならしめた「失敗しない仕組み」そのものとも言える。

筆者が以前、話を聞いたある超大手企業トップ経験者は、大企業から新規事業が生まれない理由を「1000の問いによる死」と表現した。いま多くの企業で、まさにこの乗り越え方が問われている。

木内は、MISでの活動の経験から、この壁を乗り越える方法を、独自にメソッド化している。それを簡略化し図示したのが下記の図だ。

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MISが考える「企画策定」から「商品化」までに必要な要素(簡略版)。個人、組織、社内突破、社外という4つのカテゴリーに含まれる要素のどれかが欠けると、最終的な商品化が難しくなるという。

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「私たちが企業のお手伝いをしている仕事の4分の1くらいは、実は“社内をどうやって通すか”の相談なんです」と木内は言う。

「最近、新規事業を成功させるためにはWillとSkillが必要だ、とよく言っています。実行者の強い意思だけではダメで、社内に“ビジネスプランとして稟議を通す技術”の両方が必要です。コツの1つは、企業のコーポレートガバナンス(企業統治)の仕組みに沿って動かせるアイデアであること。

多くの新規事業企画がつまづくのは、この図にある要素の中で、何かが足りないケースが多いんです。最近は“この企画には、どのピースが足りないのだろう”と考えながら、企業と伴走することを心がけています。相手先企業の社員だと言いにくい直球の意見も、時には“外部協力者”である我々の立場を最大限に使って、伝えることもあります」

イノベーション創出の「多産多死」を大企業の構造に取り入れる

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クラウドファンディングは、言ってみれば「事業化のための種まき」で、0から1をつくるシステムだ。

大企業がビジネスとして取り組むからには、クラウドファンディング成功は通過点でしかない。その先には、描いているゴールが必ずあるはずだ。

彼らが期待しているモノとは何なのか。木内は大きく2つあるという。

「ある企業から、“クラウドファンディングを通じて、プチ事業部長がたくさん生み出されることを期待している”と言われたことがあります。(既存事業以外の柱を発掘する時には)いろいろな新領域に意志を持ってビジネスに突き進む人材が必要です。

いまの若手人材は、“自分の意思決定でユーザーに向き合って、売れても売れなくても自分の責任”という経験をすることが減っています。こういった事業を創出する体験のライト版をクラウドファンディングで体験させる。それが次世代人材の育成材料になるという考え方です」

もう1つ木内が挙げるのは、大企業の社内システムそのものの変革だ。

「一方で、イノベーションは多産多死から生まれます。たくさん産んで、芽が出たものに(資源投下の)アクセルを踏む。これは自然界で言えば生き物の生存戦略そのものです。

これ(多産多死)を、“会社のシステムの中に構造として取り込んでいく”ための実践的な仕組みとして、意識的にクラウドファンディングを使うという企業も増えてきました。

多産多死を前提とした段階で、“絶対に当たる企画なのか”とか“可能性のあるリスクは何か”を問うことも必要ですが、それをやりすぎて可能性を潰してしまうことも多々あります。

本当に必要なのは、成功に近づくためにリスクをマネージして、ビジネスアイデアを磨き上げて、体系的に再現性をもって取り組むことです。

日本で一番支援金が集まるクラウドファンディングでありながら、モノづくりの現場にも深くコミットするのが、MakuakeとMISのユニークなところです。ここに、企業からのニーズがあるのだと思います」

(敬称略)

(文、写真・伊藤有)

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