精神論ではなく科学で解くチーム論。勝ちパターン崩壊時代の最強チームの作り方

麻野さんトップ画像

リンクアンドモチベーション取締役の麻野耕司さん。「チームの法則」に算数のような再現性をもたせたという。

組織コンサルのリンクアンドモチベーション取締役の麻野耕司さんは、4月3日に「THE TEAM〜5つの法則〜」を刊行する。生きていく上で誰しもが必ず関わる“チームの作り方”を、感覚ではなく数学のように再現性をもって活用できるよう法則化したという。

平成も幕を下ろそうとする今、なぜ改めてチーム論なのか。

勝ちパターンのない時代、チームが問われる

「チームにおいて1+ 1が2よりも大きくなることはあるか」

インタビュー冒頭で麻野さんは、「チームについて理解しているか?」についてのシンプルな問いを投げかけた。この問いに、あなたは自信をもって解とその理由を答えられるだろうか。

「チーム論って、凡庸だと思うんです。世の中にあふれている。でも、そのほとんどが精神論やリーダー論で、みんな意外に冒頭の質問に答えられない。チームが理解されていない、というのは一つの理由でした」

麻野さんは、チーム論を書いた理由について、そう切り出した。

そしてもう一つ、時代の構造的な変化があるという。高度成長期は製造業が中心の社会。商品を作るためには設備や工場が必要で、資金を持っている企業で働くことが大事だった。

麻野さん右

「個人の力を最大限に活かす、チームの力が問われる時代」だという。

「そうした時代に、勝ちパターンは決まっていました。大量生産・大量販売に対応する組織として、新卒一括採用・終身雇用・年功序列があり、そんな社会でチーム論や組織論をみんなが学ぶ必要はなかったんですよ」

一方で現代は、高度成長期が終わり成熟経済。メーンの産業はサービス業にシフトしつつある。商品は人材さえいれば、生み出して届けられる。組織よりも、個人がパワーを持つ時代になってきている。そのためにも、個人の力を最大限活かすチーム力が問われている。

「今は一つ一つのチームが、自分たちのチーム作りがどうあるべきかを考えなければならない時代。なので、それを解き明かすための法則が必要なのです」

科学でチーム論を解き明かしたい

麻野さんはチームの法則を、ABCDEで始まる5つのキーワードに落とし込み、著書の中で明らかにしている。

ではなぜ、このように法則化したのか。

本

チームにまつわる5つの法則は、至ってシンプルだ。

「精神論や経験則のチーム論ではなくて、僕はチーム論を科学したかったんです」

麻野さんはリンクアンドモチベーション入社以来、組織改善コンサルを手がけてきた。2010年には最年少で執行役員に就任、同社の看板事業である組織開発クラウドを立ち上げるなど、組織論、チーム論と常に向き合ってきた人生だ。そこで明白な問題意識をもっていた。

「チームは経営学をはじめ、社会学、心理学、行動経済学などいろんな学術的知見が積み重ねられ、科学的に解き明かせる材料がそろっているんです。でも、アカデミックな世界と僕たちが生きている世界には、ちゃんとつながっていない」

ただし、組織コンサルのプロである麻野さんが、これらの法則を本当の意味で体得したのには、自身の苦い経験があった。

早々と飲みに行く同僚たちの後ろ姿

麻野さん頬杖

自分自身のチームにもっとも苦しんだ時期がある。

麻野さんには、忘れられない光景がある。

2012年夏、リンクアンドモチベーションで、自ら率いる組織人事コンサルティング部門は、リーマン・ショック後の不況のあおりで業績が落ち込んでいた。

建て直しに奔走するが、なかなか回復せず、退職者も相次ぐ日々。今でも脳裏から離れないのが月末最終日、同僚たちが、部署目標の達成を諦めて早々と飲みに行く後ろ姿だ。

何とかできないかと頭をひねっていた麻野さんは、ぽつんと部屋に取り残された。

「あの時は辛かったですね。チームの雰囲気が悪いので、会社に行っても互いに目をそらしたり。チームが良くないと仕事は楽しくないじゃないですか」

雰囲気が悪いので売り上げが上がらず、売り上げが上がらないので雰囲気は悪くなるという悪循環だった。

顧客向けのノウハウを自分たちも実践

その悪循環を断ち切るきっかけとなったのが、5つくらい下のある後輩の一言だ。

サラリーマン

チームの雰囲気と業績は、ニワトリとタマゴの関係だ。

クライアントに伝えている組織変革のノウハウを、僕たちのチームでもやりませんか

それを聞いて、麻野さんは、自分たちが顧客に提供しているものを全く実践できていないという、現実を直視することになる。

「経営者向けアドバイスと思い込み、自分たちのチームに活かすという視点が薄かった。そもそも組織改善を仕事にしているメンバーなのだから、チームワークなんてそれなりにうまくいくだろうという“おごり”もあったと思います」

ほろ苦い思いを交えて当時を振り返る。そうして麻野さんのチームは、前述の5つのチームの法則を徹底的に実践することになる。

コミュニケーションの法則ならば、自分の答えをすぐ言うのではなく部下の話を最後まで聞く。相手を理解してから、こちらのことを理解してもらう——。

そうやって一つひとつを実行した結果、売り上げが10倍に伸び、20〜30%だった退職率は2〜3%に低下。既存事業の建て直しに成功しただけではなく、新規事業である独自の組織改善クラウド「モチーべションクラウド」が注目を集め、会社の時価総額10倍という流れを生み出したのだ。

弱小バレー部が甦った究極の方法

麻野さん正面

人生で最大の喜びが「チームだ」と語る、その背景とは。

「組織を通じてなにかを成し遂げたり、組織を通じて誰かとつながれたりすることほど、人間を幸せにするものはないと思っています」

人類にとって最大の幸福はチームにあると言い切るほど、麻野さんはいわば、チームマニアだ。そこまで思う原点には何があるのか。

「僕は中高一貫の男子校の進学校で、バレーボール部にいましたが、公式戦で一勝もしたことがないほど弱かったんです。それが、高校の時に新しい監督が来たことで、めちゃめちゃ強くなった。それは、得意なことだけを徹底的に練習させるという、適材適所の育成だったんです」

背は高いが運動が得意ではない2人はセンターで、徹底的にブロックと速攻だけ。麻野さん含む残る4人は、ひたすらレシーブだけ。ブロックアウトとレシーブだけならさすがにうまくなり、組み合わせると強くなった。

バレーボール

チームに心を震わせた原体験がある。

shutterstock/avel L Photo and Video

その結果、ボロ負けを続けたチームは、6部リーグから2部に上り詰めたのだ。

最後の試合は、とある大会の決勝戦。結果は負けたものの、号泣しながら例えようのない達成感を味わったという。

「チームを通じて、一人ではできないことを成し遂げた。お互いの存在が尊く思えた瞬間でした」

その時感じた心の震えは、今も麻野さんに息づいている。

「高級な時計をしたいとか、いい車がほしいとか全然ないのです。チームで何かを成し遂げた後に、みんなで居酒屋で飲む酒の方がうまい」

そして「個人の成長物語のドラゴンボールより、仲間と共に戦うワンピースが好まれる現代」(麻野さん)。チームは、今の時代の気分を象徴しているかもしれない。

両手組

組織に関する、もっともシンプルな問い。

「チームにおいて1+ 1が2よりも大きくなることはあるか」

冒頭の質問に対する麻野さんの答えはこうだ。

「企画が得意で運用が苦手な人と、企画が苦手で運用が得意な人がチームを組むとします。お互いが得意なことだけをやることで、もともと1だったパフォーマンスが2になる。だから、チームを組めば、1+1は2以上になれるんです」

(文・滝川麻衣子、写真・今村拓馬)


麻野耕司:リンクアンドモチベーション取締役・ヴォーカーズ取締役副社長。慶應義塾大学卒業後、リンクアンドモチベーション入社。中小ベンチャー企業向け組織人事コンサルティング事業の執行役員に当時最年少で着任。新規事業として国内初の組織開発クラウド「モチベーションクラウド」を立ち上げる。『THE TEAM〜5つの法則〜』を4月3日に刊行。

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