東京福祉大、留学生大量行方不明の元凶は政府のご都合政策——留学生は学生か働き手か

1年間で700人近い留学生が除籍や退学、所在不明となった東京福祉大学。

週に10時間以上の聴講をさせる「研究生」として受け入れる制度を“乱用”して、アジア各国から日本で働きたい学生をかき集めていた実態が、次第に明らかになっている。

外国人労働者。

北関東の工場に向かう外国人労働者。今回の問題の背後にあるのは、立ち位置のはっきりしない政府の外国人労働者政策と留学生政策だ。

REUTERS/Yuya Shino

アジアからの留学生をなりふり構わず受け入れる大学の姿勢は無軌道すぎるが、問題の背後にあるのは、立ち位置のはっきりしない政府の留学生政策と外国人労働者政策だ。

留学の本来の目的は日本で勉強をすることだ。まじめに勉強や研究に励む留学生も多いが、週に28時間以内という労働を認めていることで、留学という名の“出稼ぎ”が横行している。

政府がこうした実態に事実上目をつぶっているのは、国内の「18歳人口」の減少と、人手不足の両方を補う存在として、留学生を受け入れてきた面があるからだ。

このあいまいな仕組みは結果として、勉強や労働の意欲を持って来日した人たちの中から、多くの不法滞在者を生んでいる。

「大変由々しき問題だ」

今回の問題に火が付いたのは、国会での野党議員の質問からだった。

2019年3月7日に開かれた参議院の予算委員会。立憲民主党の石橋通宏・参院議員が、多くの留学生が所在不明になっている実態を示したうえで、柴山昌彦・文部科学大臣に詰め寄った。

「収入を確保するために、留学生をかき集めている実態がないか」(石橋氏)

「在学生の多くを外国人留学生が占めるのみならず、通学実績がないにもかかわらず定員充足を図るために、委員の言葉を借りれば、留学生をかき集めるような事例があることは承知している。たいへん由々しき問題だ」(柴山大臣)

私大の定員割れを補う留学生

大学生。

少子高齢化が進む日本で、私立大は学生の確保に苦労している(写真はイメージです)。

Ishii Koji/Getty Images

少子高齢化が進む日本で、私立大は学生の確保に苦労している。

日本私立学校振興・共済事業団の調査によれば、2018年度に調査対象となった582校のうち、210校(36.1%)が、入学定員を満すことができなかった。

一方で政府は、2008年に留学生30万人計画を打ち出し、留学生の受け入れ拡大を進めてきた。2018年5月の時点で大学や日本語学校などに在籍する外国人留学生は約29万8000人に達しており、目標はほぼ達成された。

こうした中で浮上したのが、所在不明となっている留学生の問題だ。

文部科学省によれば、東京・池袋などにキャンパスがある東京福祉大学で2017年度中に、688人が退学または除籍になっているが、行方不明者は0人と報告されているという。

その内訳をみると、退学が193人で、学費の未納などによる除籍が495人と7割を超えている。

入学金と学費の一部を支払って入学したものの、その後の学費が支払えず、学校に来なくなるケースが多いという。

予算委員会での質疑では、全国の大学で1年間に5000人近い留学生が、除籍や退学、所在不明になっているとの数字も明かされた。

除籍や退学で学生でなくなった場合、留学生のビザは失効し、不法滞在になる。

収入証明、偽造も横行

東京入国管理局

東京・品川にある東京入国管理局。建物の上層階には、不法滞在者を収容する施設もある。

撮影:小島寛明

法務省入国管理局は、留学生のビザを申請する際には、「経費支弁能力」に関する資料の提出を求めている。家族や本人らに一定の収入や貯金があって、渡航費や学費を支払うことができるとわかる資料だ。

しかし、こうした資料は、ある程度お金を積めば、偽造してくれる業者は日本にもベトナムにもネパールにもある。Facebookで堂々と客を募っているケースもある。

日本語学校の関係者は、「ビザに必要な書類をまともに集めようとすれば、みんな苦労するのだが、ベトナムからの書類を見ていると『整いすぎている』申請書が少なくない」と話す。

実際には、家族の土地・建物を担保に借金をして、渡航費用、入学金、授業料、仲介業者(ブローカー)への支払いなどを工面して来日する留学生は多い。

ネパールやベトナムで、家族からの仕送りで学生生活を送れる留学生は、ほとんどいない。

週28時間のアルバイト代は魅力

カトマンズ

ネパールの首都カトマンズ。大学に近い地区には、日本やアメリカへの留学の相談を受ける「コンサルタント」が集中している。

2018年11月、小島寛明撮影

週28時間という制限はあるものの、アルバイトができる日本への留学は、働き口の限られるアジアの開発途上国の人たちにとっては魅力だ。留学生の出身国は、中国が最も多く、ベトナム、ネパールが続く。

アジアの最貧国のひとつと言われるネパールの1人当たりGDP(国内総生産)は、約848ドル。3月21日夜のレートで日本円に換算してみると、9万4397円になる。

一方で、厚生労働省によれば、2018年10月時点の東京都の最低賃金は時給985円。まじめに規定の時間を守って、週に28時間のアルバイトをしたとすると、28時間×4週間×985円=11万320円を稼げることになる。

もちろん家賃や生活費、学費や税金などの支出を考慮する必要はあるが、1カ月間のアルバイトで、1人当たりGDPを上回る稼ぎを得られる計算になる。

東京福祉大学を巡る報道では、「研究生」の制度も明らかになっている。研究生は週に10時間以上、授業に出席すれば、留学生として大学に在籍できる仕組みだ。

就労が目的の留学生にとってみれば、学校には毎日2時間ほど通い、あとはアルバイトに専念できる魅力的な制度とも考えられる。

留学生なしではコンビニも私大も立ち行かない

3月7日の参院予算委員会で、留学生30万人計画の目的を問われた柴山文部科学大臣はこう、答弁している。

「日本で学ぶ意欲のある、優秀な外国人留学生の確保によって、日本の国力の増強につなげていく」

さらに、山下貴司・法務大臣も「留学生は学ぶために来ていただいている」と強調している。

「学ぶ意欲のある人」に来てもらいたいのは当然だが、留学生の存在がなければ、少子高齢化に苦しむ私立大学も、人手不足に悩むコンビニエンスストアも成り立たない現実がある。

留学生が小売りなどの分野で労働力として機能している現実から目を背けていては、不法滞在の元留学生は、今後も出るのではないか。

(文・小島寛明)

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