インバウンドブームの日本で深刻な「観光公害」欧州ではホテル新設、24時間営業禁止も

京都

京都の観光名所、伏見稲荷大社。20年ほど前は境内はそれほど混んでいなかったというが、今はインスタ映えする赤い鳥居の下に人がびっしりと並ぶという。

REUTERS/Issei Kato

訪日外国人、いわゆるインバウンド客の数は、2011年の622万人から右肩上がりで増加。2018年は3000万人を突破し、政府の掲げる4000万人の達成も、2020年の東京オリンピック・パラリンピックで現実味を帯びてきた。それに伴い、政府の「観光立国」の旗印のもとで、全国にインバウンド誘導のブームが起きている。

しかし、最近の日本は、観光客が急激に増加したことによって、いたるところで「観光公害」ともいうべき現象が引き起こされるようになっている。

「観光公害」をもっとも顕著に見ることができるのは、日本を代表する観光都市、京都だ。例えば京都を代表する名所の「銀閣寺」。ここはアプローチがすばらしいお寺だ。総門を超え、右手に曲がると、高い生垣に挟まれた長い参道が続いている。俗世間から離れた参道を歩くことで、「これから将軍の別荘に入っていくのだ」という、非日常の期待感が高まるように設計されているのだ。

しかし現在、総門を折れて最初に目に入るのは、参道を埋め尽くした観光客の人混み。生垣の内側に人がひしめく様子を見ると、外の俗世間の方が、まだ落ち着いているぐらいに思えてしまう。

神社仏閣、名所に限らず、町場のカフェや眺めのいい公園など、各所に人が押し寄せる「オーバーキャパシティ」の問題は、京都に限らず、バルセロナやフィレンツェ、アムステルダムなど、世界中の観光地が抱える、観光立国時代の悩ましい問題だ。

状況に対応するための「総量規制」と「誘導対策」

アムステルダム

アムステルダムなどヨーロッパでは世界的な観光機運の高まりの中で、「オーバーツーリズム(観光過剰)」「ツーリズモフォビア(観光恐怖症)」という造語 も登場するようになった。

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オーバーキャパシティがもたらす弊害は、いくつも挙げられる。

まず、観光シーズンの町では、電車やバスなどが混みすぎて、公共交通機関で移動することが困難になる。タクシー乗り場には長い行列ができて、数十分待ちはザラ。そうなると町中も渋滞して、市民の生活に支障が出るようになる。

寺社などの聖地では、落ち着いて拝観することができなくなるし、旅行者にとっては、市場原理が過度に働くことによって、ホテル代の高騰という不利益も出る。

「観光立国」の先駆けであるヨーロッパではこのような状況の中で、「オーバーツーリズム(観光過剰)」「ツーリズモフォビア(観光恐怖症)」という造語も登場するようになった。

世界的な観光機運の高まりの中で発生したこの問題を、何とか解決に導くことはできないだろうか。

ヨーロッパでは「総量規制」と「誘導対策」という、二つのアプローチで対応を探っている。

「総量規制」として最も分かりやすい方策は「入場制限」だ。実際、ペルーのマチュピチュやインドのタージマハル、 ガラパゴス諸島など、入場制限をかけている観光名所はすでに世界に数多く存在している。

しかし、島や狭い地域、場所であるならば、そこへのアクセスを閉じることで、観光客数を抑制できるが、これが大きな町の単位になると話は簡単ではない。

京都と同じく観光客の過剰に苦しむアムステルダムは、「総量規制」と「誘導対策」の両輪を回しながら、問題の緩和に取り組んでいる最中だ。2018年には市の中心部での民泊と、ホテルの新規建設を全面禁止。市内への観光バスの乗り入れも禁止した。

経済的なマイナスをどうとらえるか

バルセロナ

バルセロナでは市街へのホテルの新設を規制する。ただ、経済的な損失は小さくなく、そのバランスを考えることが重要だ。

GettyImages/stefanopolitimarkovina

一方で、特典を付与したアプリを観光客に配り、人々の動向をデータ化して、いつ、どこが混むのかを分析。観光名所に人が密集しないように、周辺の人気スポットや飲食店を紹介 、推奨することにも取り組んでいる。

同じく「総量規制」と「誘導対策」は、バルセロナでもすでに始められている。ここでは、2019年以降の新規ホテルの建設や、バルセロナ大聖堂とその周辺での店舗の24時間営業を禁止した。

しかし、そうした規制は、観光産業が持つ経済的なインパクトの低下というマイナスの側面も併せ持つ。実際にバルセロナでは、ホテルの大手資本が撤退したことで、その損失は雇用の消失とともに30億ユ ーロ(約3750億円)に上るとされた。

観光促進の追求による経済効果と、それにより生み出される副作用をどのようにとらえ、どう調整を図るのか。それには、世界の動向をとらえた情報力と、知恵が必要になる。バルセロナでは、旧市街の規制 を強化する一方で、 新規の投資を郊外へ誘導する方策も行っている。

その手法を京都に適用するならば、旧市街ではオーバーキャパシティにつながる宿泊施設の建設について、規制を強化する。同時に、観光投資が効果的に進んでいない京都市南部では、「地域コミュニティを壊さない」といったローカルルールを設けつつ、民泊やホテルを許可する、といった規制緩和を検討してもいいだろう。

大切なことは「規制」そのものではなく、フレキシブルなマネージメントだ。

オーバーキャパシティにさいなまれる観光地では、何も手を打たなければ、その被害は広がるばかりになる。

しかし、これらを創造的な解決案 で乗り越えることができれば、従来の「量の観光」は、豊かな時代にふさわしい「 質の観光」に転換することができるだろう。その意味で、まさに「観光立国」へのチャンスでもある。

清野由美:東京女子大卒、慶應義塾大学大学院修了。ケンブリッジ大学客員研究員。出版社勤務を経て、1992年よりフリーランスに。国内外の都市開発、デザイン、ビジネス、ライフスタイルを取材する一方で、時代の先端を行く人物記事を執筆。著書に『住む場所を選べば、生き方が変わる』『新・都市論TOKYO』など。

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