Business Insider Japanはこれまで複数の就活セクハラ被害者の声を報じてきた。
一方で、加害者はどんな顔をしているのか。取材やアンケートに集まった580人以上の回答から言えるのは、そのほとんどが大企業の社員だということだ。「就職情報大手」といわれ、本来は学生たちの就活をサポートする立場にある企業も、例外ではない。
就活が終わった後に被害にあい、仕事を辞めて遠い土地へ引っ越さざるを得ないほど追い込まれた女性もいる。
信頼できる就活大手企業の担当者だったはずが
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Aさん(女性、29)が就活セクハラの被害にあったのは、大学を卒業後、新卒で入社した会社で働き始めてからだ。 就活当時、Aさんは地方の国立大学に通っていた。卒論の準備に忙しく、また首都圏での就職を考えていたため、就活をマンツーマンでサポートしてくれるエージェントに依頼したのが全ての始まりだった。
「就活情報サイトなどを運営する有名な会社です。国立大の就職課でアドバイザーをしている社員の方もいらっしゃったので、当然信頼できると思っていました」(Aさん)
Aさんの担当になったのは、このエージェントに勤める40代の男性だ。Aさんいわく、「引っ込み思案」の性格から長所を引き出し、「とても自分では見つけられなかったような採用情報」を提供してくれ、満足のいく就活ができたという。
「学生のうちに誘うと問題になっちゃうから」
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「就職してこっちに引っ越して来たら、食事に行こう。学生のうちに誘うと問題になっちゃうからさぁ」
希望の企業から内定を得た後、お礼を言いにAさんが男性の会社を訪ねたときに言われた言葉だ。Aさんがその意味を理解するのは、ずっと後のことになる。
男性から食事の誘いが入ったのは、Aさんが首都圏の会社で働き始めて約1年後。就活時に利用していたメールアドレスを通じて、連絡がきた。
その日はカフェで話をした後に居酒屋へ行き、解散に。食事中、「彼氏いるの?」と聞かれて嫌な気持ちにはなったものの、「よくいるデリカシーのない人だな、くらいにしか思いませんでした」(Aさん)。 LINEを聞かれたときも「拒否するのも変なので」(Aさん)、交換したという。
体を触られ、キスも
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その後、「休日は何してるの?」などプライベートなLINEが頻繁に送られてくるように。
「(Aさんの会社の)近くにいるから、会えない?」という連絡がきたのは1カ月後のことだ。断ると、日程を変えて何度も誘いのメッセージが入ってきたため、Aさんは「今回は付き合うしかない」と食事に応じることにした。
男性の態度がおかしくなったのは、居酒屋で食事をした後、バーに移動してからだ。「手相を見てあげる」と無理やり握られた手は、いつの間にか太ももに。足を一通りなで回すと、急にキスをしてきたという。
「自分が何をされているのかすら分からない状態でした。『ノリだから』と言われ、相手の行為を嫌だと感じる私の方が、社会人として間違っているような感覚に陥りました」(Aさん)
「これまでの人は泊めてくれた」
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店を出た後もAさんが何度も断っているにもかかわらず、男性は「家まで送る」とAさんの後をついてきたそうだ。そして自宅前に来ると、「今すぐトイレを貸して欲しい」と具合が悪そうに訴えたという。
しかし、トイレが終わった後も男性はリビングから動こうとしない。
「当然、泊めてくれるでしょ? これまで家にあげてくれた人はみんなそうしてくれたよ」
男性はそう言うと、Aさんに服を脱ぐように指示した。裸で体を触られている最中、やっとの思いでAさんが「同意してません」と言うと、男性は「それはダメだね」と急に不機嫌な態度をとり、
「でも君も共犯だよ。タクシーで帰るからお金出して。いい社会勉強になったね」
と言い残して、Aさんが手渡した2万円を受け取って帰って行ったそうだ。
男性は既婚者だ。「共犯」という言葉からは、同意のない性行為に「不倫」のニュアンスを持たせてAさんを言いくるめようとする、男性の意図を感じたという。
個人情報を知られている恐怖も
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男性はそれ以降も「会いたい」「いつなら会えるの?」と何度もAさんにLINEを送り続け、Aさんがブロックすると今度は電話番号のショートメール宛てに誘いのメッセージが入ってくるようになったという。
「気持ち悪かったですが、相手の方が社会人としても“上”だし、就活を通じて私の個人情報をたくさん持っていたので、断ると何をされるか分からない恐怖がありました。
『社会勉強』と言われて初めて、自分が侮辱されたことに気づきました」(Aさん)
Aさんはこのことを当時の会社の上司と人事担当者に相談した。だが、人事には家の中で何があったのかまで詳しくは話すことができなかったという。 その後、Aさんの所属企業と男性の会社とで話し合いが行われた。
そして、企業同士の話し合いへ
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初めて男性がAさんを食事に誘ったとき、「学生のうちに誘うと問題になるから」と話していたが、実際は学生のうちだけではなく、就職後に個人的に誘うことも男性の会社の規則では禁止されていたと、その話し合いの過程で分かったそうだ。
Aさんは男性の逆上を懸念し、「自分が告発したことが分からないようにして欲しい」そして、「他の被害者が出ないよう、社内で啓発をして欲しい」と要望。
男性が勤務する就職情報会社の担当者からは「すでに男性は別の部署に異動している」「そういうことをする人だとは思わなかった」「再発防止のために社内で啓発する」などの回答があったという。
職場も自宅も知られている恐怖
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しかし、こうしたやり取りの数カ月後に再び男性から誘いの連絡がきたため、「本当に社内でセクハラ禁止の周知をしたのか、疑問です」(Aさん)。 この時の男性からのショートメールは、スクリーンショットにしてAさんの会社の人事担当者に送ったという。
だが、その後のことをAさんは把握していない。なぜなら、1月も待たずに会社を退職したからだ。
今は職場から遠く離れた、誰も知り合いのいない土地で1人で暮らしている。
「レイプされかけた男性に、職場も住所も知られていることが気持ち悪かった。誰も信用できなくなり、1日も早く会社を辞めて引っ越したいと思ったんです」(Aさん)
再発防止策は研修と学生データの取り扱い
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Business Insider Japan編集部がAさんの件を男性が勤務していた就職支援会社にこの事件について取材したところ、以下のような回答だった。
「就活という学生の弱みにつけこんだ行為はあってはならないこととして事態を大変重く受け止め、被害にあわれた方に、心からお詫び申し上げます。また、再発防止に努めていきたく思います」
またAさんのことを受けた再発防止策としては、研修の徹底と学生の個人データを使用しない規定を設けたとのことだった。
「学生対応する部門においては、部門教育を再度徹底しております。入社時の研修には特に力をいれて、意義や行動基準だけでなく過去の事例を交えて説明するようにしています。万が一のために、担当部門からの異動の際に、学生のデータを以後使用しない旨の誓約書を交わすようにいたしました。個人の手元には一切を残さない、残した場合は、賠償責任が生じる旨の内容です」
Aさんはこう話す。
「就活を通じたセクハラが起きるのは就活時期だけではありません。私もそうでしたが、信頼していた相手から受けた被害は、被害だと自覚するまでに時間がかかります。
今は男性に怒りの感情しかありません。考え方や感性をズタズタにされた。この体験は一生、私を苦しめ続けると思います」(Aさん)
(文・竹下郁子、写真はすべてイメージです)
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