ニュージーランドのアーダーン首相。
AP Photo/Nick Perry
- ニュージーランド政府は、3月15日にクライストチャーチのモスク(イスラム教礼拝所)で50人が死亡した銃乱射事件の容疑者が書いた74ページに及ぶ人種差別的な「マニフェスト」の所有、配布を禁止した。
- マニフェストを所有した者は最大で10年、配布した者は最大で14年の禁固刑を科される可能性がある。
- ニュージーランドのフィルム・文献分類管理局は、このマニフェストを過激派組織「イスラミック・ステート(IS)」のプロパガンダと同等に扱うとしている。
- 同国ではすでに17分間にわたる犯行のライブ配信動画の所有、配布が禁止されている。
- 専門家は、規制は逆効果で、容疑者を殉教者のように、そのマニフェストを「禁断の果実」のように見せる危険性があると指摘する。
ニュージーランド政府は3月中旬、クライストチャーチのモスクで50人が死亡した銃乱射事件で、犯行のライブ配信動画同様、容疑者が書いた「マニフェスト」の所有、配布を禁止した。
クライストチャーチの2か所のモスクで犯行に及んだと見られているのは、28歳のオーストラリア人、ブレントン・タラント(Brenton Tarrant)容疑者だ。タラント容疑者は犯行の様子を録画し、フェイスブックでライブ配信するとともに、犯行前日には74ページに及ぶ自身の極右思想の「マニフェスト」をネットに投稿していた。
23日にこのマニフェストの所有、配布の禁止を決定したニュージーランドのフィルム・文献分類管理局は、文書のコピーは破棄し、ハイパーリンクは削除するよう求めている。
マニフェストを所有した者は最大で10年、配布した者は最大で14年の禁固刑を科される可能性があると、AP通信は報じている。
同管理局は20日、17分間に及ぶ犯行のライブ配信動画の所有、配布も禁止している。
過激派組織ISのプロパガンダと同じ
犠牲者を弔う人々。
Reuters
同管理局のトップ、デビッド・シャンクス(David Shanks)氏は、容疑者のマニフェストは「殺人やテロを助長」するため、管理局はISの資料と同じように扱っていると語った。
「同じ思想を持つ個人にさらなる攻撃を実行するよう、刺激を与え、奨励、指示する目的でデザインされたテロリストの宣伝用の資料に我々は取り組んできた」と、シャンクス氏は言う。
そして「今回の文書(マニフェスト)も同じカテゴリーに当てはまる」と付け加えた。
犯行現場となったモスクの前を歩く警察官(2019年3月17日)。
Vincent Yu/AP
シャンクス氏は「これはさらなる殺人やテロリズムを助長するために作られた出版物の1つだ」と述べた上で、今回の事件について報道、調査するジャーナリストや研究者は、既存の報道から引用するもしくは例外的な使用を申請することができるとしている。
「禁断の果実」?
犯行現場のモスクの近くに設置された献花台(2019年3月16日)。
Associated Press
ただ、一部の専門家は、ニュージーランド政府の対応を疑問視している。容疑者のマニフェストを禁止することで容疑者を殉教者のように見せ、その極右思想に正統性を与える危険性があるという。
ニュージーランドの「表現の自由連合(Free Speech Coalition)」の広報担当、ステファン・フランクス(Stephen Franks)氏は、今回の禁止措置によって「禁断の果実」のように見えるこの文書に興味を持つ人が増える可能性があると、AP通信に語った。
「人々が自ら結論に至り、これを悪もしくは狂気と見なすと信用するよりも、こうしたものを抑制することで被るダメージやリスクの方が大きい」と、フランクス氏は言う。
ブレントン・タラント容疑者。顔のモザイク処理は、判事の要請によるもの。
Reuters
2011年にノルウェーで77人が犠牲となった連続テロ事件を起こし、タラント容疑者も影響を受けたというアンネシュ・ブレイビク受刑者の裁判を取材したデンマークのジャーナリスト、Claus Blok Thomsen氏も、今回のニュージーランド政府の禁止措置はタラント容疑者を殉教者にする危険性があると指摘する。
Thomsen氏は、ブレイビク受刑者の裁判ではメディアが公判の様子だけを報じ、受刑者の極右思想についての議論を置き去りにしたことで遺族の一部を怒らせたと、AP通信に語った。
同氏は「彼らは、わたしたちが自分たちを検閲し始めたとき、受刑者を殉教者にしたのだと言った。全てが明らかになるまで、この男がどれだけ狂っていたか、何を考えていたか、わたしたちは知ることができない」と述べた。
アーダーン首相。
Reuters
ニュージーランドのアーダーン首相は先週、容疑者の名前を公の場で言うことはしないと述べ、ニュージーランドの一部ニュース・メディアもそれにならって、容疑者の名前の使用を最小限に抑えている。
ニュージーランドはまた、事件発生から1週間と経たないうちに半自動銃やアサルトライフルを禁止した。
オーストラリアとニュージーランドでは、複数のインターネット・サービス・プロバイダーも先週、容疑者のライブ配信動画を掲載したプラットフォームをブロックした。
[原文:New Zealand made it illegal for anyone to download or share the Christchurch shooter's manifesto]
(翻訳、編集:山口佳美)