日本時間3月26日、Apple Cardを発表するティム・クックCEO。
3月25日(現地時間)、アップルはスペシャルイベントを開催した。“ハード”の発表はなく、サービスが中心であったが、“カード”の発表はあった。アップルは「Apple Card」を2019年夏にアメリカで開始すると発表したのだ。
ゴールドマン・サックスとマスターカードと協業し、バーチャルカードとしてApple Payにクレジットカードを発行するだけでなく、チタン製の物理カードも用意する。
現在、Apple Payを公共交通機関で利用できる街として東京も名を連ねていた。
出典:アップル
アップルのティム・クックCEOは「Apple Payは2019年に100億回の支払いがあった」と胸を張る。もちろん、日本ではSuicaで電車も乗れる。Apple Payに対応している交通機関は、日本だけでなくロンドン、モスクワ、北京、上海に加えて、ニューヨークやシカゴなどの都市などに拡大しているとのことだ。
世界中でApple PayがiPhoneユーザーのお財布代わりになりつつある中、新たに始めるのがクレジットカード事業というわけだ。
アップル直営店だと最大3%のキャッシュバック
アップルは「Daily Cash」と称し、決済手段や店舗によって決済額の数%を「Apple Pay Cash」の形で還元する。
Apple Cardの特長は、セキュリティーの高さにある。端末ごとにカード番号を発行するのに加え、Apple Payで利用しているセキュアエレメントチップに書き込み、支払い毎にセキュリティコードを生成し、送信。本人認証にはTouch ID(指紋認証)もしくはFace ID(顔認証)を利用する。
また、支払いに応じて、当日、キャッシュバックを受けられるというのも魅力だ。Apple Pay経由であれば2%、物理カードなら1%、Appleでの購入であれば3%という具合だ。
これまで、割引で購入できることがあまりなかったアップル製品なだけに、公式なかたちで、いつでも3%キャッシュバックを受けて購入できるというのは、アップルファンにとっては歓喜と言えるだろう。
いわゆる“家計簿”的な機能もApple Cardは持っている。
店舗側が支払うApple Payの決済手数料は3%以上であることが多いため、そのうちの2%もしくは1%をユーザーに還元してしまうという太っ腹なやり方だ。
ちなみに、支払い方法や履歴などはアプリで確認することができる。ここ最近、支出や収入を管理できるアプリが人気だが、まさにApple Cardは支払い機能に直結したお金管理アプリといえるだろう。
日本導入への障壁は高そうだ
Apple Payは世界中の多くの国で使えると言うが、日本はやや事情が異なる。
アメリカからサービスが開始される予定で、残念ながら日本での展開に関するアナウンスはなかった。海外のApple Payと、日本で展開されているFeliCaベースのApple Payでは仕様が異なるため、アップルが日本でApple Cardのサービスをそのまま提供するには多少の無理が生じる恐れがある(日本では使えるお店が少ないなど)。
ただ、それらの障壁を乗り越え、日本でサービス展開できれば、昨今盛り上がりを見せているキャッシュレスサービスの本命になれるんじゃないかと期待している。
2019年10月には消費増税が予定されている。その際、キャッシュレス化を促進しようと、一部の購入に対して、キャッシュレスで支払った場合には2%もしくは5%の還元をするという施策が打ち出されているが、2020年6月までの期間限定だ。
キャッシュレスで買い物の2%もしくは5%が返ってくることに慣れてしまうと、期間限定が終わっても、高い還元が恋しくなる。そんなときに、アップルが日本でApple Cardを始めてくれれば、喜んで毎日買い物し、2%キャッシュバックを受け続けたくなるだろう。
盛り上がる日本のキャッシュレスとの違い
PayPayやLINE Payなど、日本ではQRコード決済を中心にキャッシュレス促進の施策が加熱している。
撮影:小林優多郎
2018年後半から、日本ではQRコード決済が普及しつつあるが、いまのところはキャッシュバックキャンペーン目当てで利用している人が多いイメージだ。今後も、継続的に使ってもらうには、永年、何かしらのメリットがないと厳しいのではないか。
QRコード決済は手軽ではあるが、アプリを立ち上げ、QRコードを読み取り、時には金額を入力して、相手に確認してもらうという煩雑さがある。やはり、非接触でかざすだけで済むApple Payのほうがはるかに利便性が高いように思う。
プライバシーとセキュリティーの重要性を強調しているアップル。
出典:アップル
日本ではQRコード決済事業者が乱立しつつあるが、多くの企業が「いかに個人の決済情報をマーケティングツールに活用するか」に腐心しているように思う。そのために、大盤振る舞いなキャンペーンを提供し、他社よりも先にユーザーを奪い、日本国内でのデファクトスタンダードになろうと躍起になっている。
一方、アップルは、ユーザーの購入情報を知ろうともせず、関心もない。購入情報などはアップルのサーバーには送られず、すべて端末上で処理されるのだ。プライバシー情報がiPhone内から出ることはないため、ユーザーが安心して使えるというメリットもある。
Apple Pay非対応店舗向けのチタンカードの存在
アップルらしいセキュアでシンプルな仕様のチタン製Apple Card。
また今回、アップルはApple Payが使えない店舗で支払えるように、チタン製の物理カードも用意する。クレジットカード番号や有効期限などの記載が一切なく、とにかく安全性に優れたシンプルなデザインになっている。
日本でKDDIが決済サービスを始める際、携帯電話会社でありながら、「FeliCaが使えるところが必ずしも多くない」ということで、プラスチックカードから始めたというのが印象的だった。
ティム・クックCEOは「アメリカでは70%以上の店舗でApple Payが利用可能だ」というが、つまりそれは逆に残りの30%はApple Payが使えないわけだ。その穴を埋めるためにチタン製のカードを用意してきたというわけだ。
現状、Apple Cardが日本に上陸するのは、普及している非接触方法の違いや法律の問題もあって簡単なことではない。しかし、仮にApple Cardが日本で提供されることになると、金融機関やQRコード決済事業者など、フィンテック関連のサービスを提供するあらゆるプレイヤーに大きな影響を与えることになりそうだ。
(文、撮影・石川温)
石川温:スマホジャーナリスト。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演。