護衛艦の英訳はデストロイヤー(駆逐艦)。世界有数の“軍隊”隠そうとして起きる矛盾

護衛艦

海上自衛隊7隻目のイージス艦となる護衛艦「まや」の命名・進水式。撮影は2018年7月30日、横浜市磯子区のジャパンマリンユナイテッド横浜事業所磯子工場で。

撮影:高橋浩祐

毎年3月は海上自衛隊の新たな護衛艦や潜水艦が就役することが多い。年度末に合わせての竣工は一般の建設建築の現場でも多いので、不思議なことではない。

2019年も三菱重工業長崎造船所で新造された護衛艦「しらぬい」が海自大湊基地に配備された。同時に、低振動で静粛性に優れ、世界有数の高性能を誇るそうりゅう型潜水艦の10番艦「しょうりゅう」も3月、川崎重工業神戸工場で建造され、海自呉基地に配備された。

海自はこれで護衛艦48隻、潜水艦19隻の体制を整えたことになる。2018年12月に閣議決定された新たな防衛大綱に基づき、防衛省はこれを護衛艦54隻、潜水艦22隻に増やすことにしている。

さて、ここまでは本稿の前置きである。日本語で書けば何も問題はない。

しかし、イギリスの国際軍事専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(JDW)の東京特派員として、筆者がこうした記事を英語で書くときには厄介なことが起きる。ジャーナリストは普段は取材や記事執筆の裏側を明かさないものだが、今回はこうして書く機会を得られたので、思うところを記したい。

日本の防衛や安全保障、さらには憲法のあり方を幅広く考えるヒントになると思うからだ。

ゆるく使いすぎている「護衛艦」

まず1つ目の問題として、日本は「護衛艦」という言葉をあまりにゆるく使いすぎていることだ。海自は現在、保有する護衛艦の数を48隻とカウントしている。一方、「ジェーン年鑑」で有名な、筆者が所属するジェーンズでは、日本はヘリコプター空母4隻、駆逐艦38隻、フリゲート6隻ときっちり分類している。

ジェーンズが発行する「Jane's Fighting Ships」は世界の海軍の国際基準になっている。そのジェーンズからみれば、「ひゅうが」や「いずも」といったヘリコプター空母も、「ちょうかい」や「あしがら」といったイージス駆逐艦も、「あぶくま」といったフリゲートも、 海自はすべて「護衛艦」と呼んでしまっている。

本来は大雑把に護衛艦48隻と言わずに、他国の海軍と同様に、ヘリ空母4隻、駆逐艦38隻、フリゲート6隻と個別に分類すればよいだけの話だ。

ちなみに、空母とは本来の「航空母艦」の名称の通り、海上での航空基地として多数の軍用機を搭載し、それを離着させられるだけの全通甲板型の飛行甲板や格納庫などを備えた艦のことを指す。

そのうえでジェーンズでは、日本の「いずも」「かが」「ひゅうが」「いせ」の4隻は、自衛のための機関砲やミサイルしか搭載せず、主としてヘリコプター運用のための軍艦とみなし、「ヘリ空母」に分類している。

駆逐艦とは、水上戦闘艦の1つに分類される。巡洋艦より小型の快速艦で、砲や魚雷などを主要兵器とし、敵の主力艦や潜水艦、航空機を撃破するのを任務とするが、偵察から船団護衛まで用途は多い。

フリゲートは、イギリスやカナダでは駆逐艦より小さく、速度性能の高い護衛(エスコート)用の軍艦を指してきたが、アメリカでは駆逐艦以上の大きさになっており、定義が各国の海軍で異なっている。

なぜ日本はすべて護衛艦と呼ぶのか。日本は、憲法9条で「軍隊」を持たず、必要最小限度を超える「戦力」を持てないことになっているから、ヘリ空母でも駆逐艦でも何でも「護衛艦」というマイルドな表現でひとまとめにしている。

憲法で軍隊として認められていない自衛隊が、戦前の空母や駆逐艦といった日本海軍を想起させるような呼称が使えず、護衛艦という呼称を独自の定義で編み出して使ってきたために、このような事態に陥っている。

英語ではすべてデストロイヤー

米ミサイル駆逐艦

アメリカ切ってのエリート軍人一家のマケイン家のジョン・S・マケイン氏の名にちなんで名付けられたUSSジョン・S・マケイン(ミサイル駆逐艦)。

US NAVY/Reuters

百歩譲って、ここまでは国内事情で理由がわかる。

しかし、より大きな2つ目の問題は、海自がそれら48隻の「護衛艦」をすべて、英語の表記では、諸外国の海軍の「駆逐艦」に当たる「Destroyer」に分類していることだ。

具体的には、海自は48隻の護衛艦に以下の艦種記号を付けて分類している。

DD(Destroyer:護衛艦)、DDH(Helicopter Destroyer:ヘリコプター搭載護衛艦)、DDG(Guided Missile Destroyer:ミサイル護衛艦)、DE(Destroyer Escort:護衛駆逐艦)だ。このため、日本の護衛艦48隻はすべてDestroyerに仕分けされている。

そのdestroyerの本来の英語の意味は、あくまで「駆逐艦」だ。日本国内では「護衛艦」というソフトな語感で呼んでいても、英語になればdestroyer、つまり駆逐艦になり、攻撃性の有無をめぐる言葉の響きが内と外では、まるで違ってくる。日本国内では「護衛艦」という防御的な言葉が使われていても、海外からすれば「デストロイヤー」という攻撃的な艦船と受け取られている。

日本だけにしか通じない「言霊主義」

なぜ海自は護衛艦をdestroyerに分類するのか。

海上幕僚監部の広報担当者に聞くと、1960年に発令された「海上自衛隊の使用する船舶の区分等及び名称等を付与する標準を定める訓令」に基づき、そうした記号を付け、区分しているという。

しかし、国際的にはヘリ空母やフリゲートとみなす艦船も、海自は全部、護衛艦にカウントしているため、どうしても海外とは艦船の分類別の数が違ってきてしまう。

ジェーンズでは、「DD(数字)」「DDG(数字)」という艦種番号が付いている日本の護衛艦のみを駆逐艦とみなしている。そして「DDH(数字)」という艦種番号が付いている護衛艦をヘリ空母、「DE(数字)」という艦種番号が付いている小型で近海警備用の護衛艦をフリゲートとそれぞれ分類している。

前述の通り、防衛大綱では、日本語では将来の「護衛艦」の整備規模数として54隻が目標に掲げられている。そして、その英語版では「護衛艦」の対訳として「Destroyers」が使われている。

ロンドンにいるピーター・フェルステッドJDW編集長に防衛大綱の英語版を見せると、日本がdestroyer 54隻の整備を目指していることに大変驚いていた。

なぜなら、前述のとおり現在のジェーンズのカウントではdestroyer(駆逐艦)38隻にどどまっているからだ。編集長は日本が近い将来、そんなにdestroyerを持てるわけないではないか、防衛省は艦船の分類別カウントの仕方を間違っていると思うので、ぜひ問い合わてくれ、と指摘された。筆者は、その背景を説明するのに翌日未明まで時間がかかった。一概に「護衛艦=destroyer」と呼び変えるのは対外的にも非常に良くないのだ。

実は軍事防衛問題を英語で書いていると、こうした日本だけにしか通じない「言霊主義」の問題にたくさん直面している。

自衛隊はすでに世界有数の軍隊

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自衛隊を「軍隊」として認めない日本国憲法との矛盾は、日本の国連平和維持活動の現場にも大きな支障をもたらしてきている。

Tomohiro Ohsumi/Getty Images

そもそも、自衛隊というすでに世界有数の軍隊を「軍隊」と認めていないおかしさ。さらには、必要最低限度を超える「戦力」を保持しないと言いつつ、今では世界最新鋭のステルス戦闘機F35を147機も取得しようとしている矛盾。

「戦力」を保持しないと言いながら、最近では、戦闘機に搭載して敵の射程圏外から艦艇を攻撃できる長距離巡航ミサイルを開発する方針さえも示した。さらには、今回指摘したように、護衛艦という日本にしか通じない定義の言葉を使い、それを自己理由で対外的には英語で全部destroyerと呼ぶ自己矛盾とごまかし。

ちなみに、憲法9条第2項は英文では以下のようになっている。

“land, sea, and air forces, as well as other war potential, will never be maintained.”(陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない)

「war potential」の部分を日本語では「戦力」と訳しているが、本来は、文字通りに訳せば「潜在的に戦争を遂行できる能力」のことだ。

「潜在的に戦争を遂行できる能力」とは一体どのようなものだろうか。

連合国総司令部(GHQ)内に設けられた憲法制定会議の運営委員会のメンバーだったチャールズ・L・ケーディス陸軍大佐によると、「政府の造兵廠(ぞうへいしょう)あるいは他国に対し戦争を遂行するときに使用され得る軍需工場のための施設」を指す。同大佐は「戦争放棄」の条文を起草したと言われている。

war potentialが、かなり幅広い意味を有していることがわかるだろう。つまり、「陸海空軍その他の戦力(war potential)はこれを保持しないというのであれば、厳密に言えば、事実上の陸海空軍である自衛隊の存在はもちろんのこと、戦闘機や戦車を量産してきた三菱重工業も、装甲車を製造するコマツも、「戦争を遂行するときに使用され得る軍需工場のための施設」というwar potentialを持っていることになり、憲法違反の存在となってしまう。

おかしくはないだろうか。三菱重工やコマツのような日本一流の企業を憲法違反と読み取れてしまうような条文があれば、本来なら改正するのが当然だろう。

日本国憲法を英語でしか読めない外国人は、特に日本の今の矛盾を感じているはずだ。

世界第2位の海軍

防衛省

海軍としては世界2位と言われているにも関わらず、いつまで憲法9条との間の矛盾を放置するだろうか。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

韓国海軍駆逐艦が海自のP1哨戒機に火器管制レーダーを照射したとされる問題では、海自隊員が「THIS IS JAPAN NAVY(こちら日本海軍)」と名乗っている動画が公開され、話題になった。

その言葉通り、アメリカに次ぐイージス艦6隻(就役済み)を保持する海自は、国際的にみれば、すでに世界第2位の海軍だ。

こうした矛盾は、筆者のような軍事防衛の国際報道の現場ではまだ良いものの、日本の国連平和維持活動の現場にも大きな支障をもたらしてきている。詳細は別の機会に記したいが、軍人にしかできない業務であるのに、自衛隊員を軍人扱いできないままで派遣していることで、現場の自衛隊員に危険をもたらしている。

憲法9条は、きっちりと実態に合うように改正し、リセットをした方がいい。今の憲法9条は裸の王様になっている。このままでは、憲法9条が死文化・形骸化されて、ますます蔑(ないがし)ろにされてしまう危険性がある。

リーガルマインド(遵法精神)のある民主国家ならば、いつまでも拡大解釈で軍拡をするより、実態に合うよう「国の最高法規」である憲法を改正し、きちんと自衛隊に対する歯止めをかける方が好ましい。自衛隊をきちんと軍隊と認めたうえで、Negative list(やってはいけないことのリスト)を作った方がはるかに歯止めがかかる。今は自衛隊を軍隊と認めていないため、他国のようにそうしたリストが作れない。

振り返れば、戦前の大日本帝国では明治憲法の下、天皇が持つ軍の最高指揮権である統帥権について、軍が拡大解釈して政治の介入を阻止、戦線を拡大させていった。現在の日本ではシビリアンコントロールが十分に確立されてはいるものの、防衛当局が次々と他国領土への攻撃能力を持ち、専守防衛の枠を超えるような「戦力強化」を行っていることに不安を感じる国民は多いはずだ。なし崩しではなく、真っ正面から憲法改正で臨まなければ禍根を残すだろう。

高橋 浩祐:国際ジャーナリスト。英国の軍事専門誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」東京特派員。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターを歴任。

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